世界中で吹き続けるフェミニズム旋風
インターネットの登場で、世界中の女性の現実が分かるようになったことや、不特定多数の人が一緒に同じ活動をサポートできるようになったことで、2010年代に入ってから急速に拡大しはじめたフェミニズム旋風。
女性だから・女性なのにという固定観念にNOを突きつける、男女間の給料格差を縮めるなど、さまざまな問題が取り上げられるなか、2017年に入ってからはセクハラが大きな社会問題に。セクハラ被害を告白する# MeTooや、反セクハラ黙殺の# TimesUpなどといった運動が世界的に起こり、フェミニズム旋風は拡大を続けている。
音楽界は昔からエンパワーメントの発信源だった
ではこのフェミニズム・ムーブメントのなか、音楽はどんな役割を果たしているのか?
音楽界でフェミニズムが唱えられるのは、今にはじまったことではない。これまでも、その時代の女性たちが抱えていた不満や思いが歌われ続け、ずっと女性をエンパワーしてきた。
女性が家庭を守る時代だった60年代には、アレサ・フランクリンが男性に家ではリスペクトのある態度で接するよう歌い(リスペクト)、女性の社会進出が進んでいた80年代にはマドンナが女性たちの解放を唱え(エクスプレス・ユアセルフ)、2000年代に入るとクリスティーナ・アギレラが社会のものさしに縛られない美を歌った(ビューティフル)。
そんな音楽界ではフェミニズム旋風という追い風に押され、今、若手から大物まで多くの女性アーティストがエンパワーメントソングを発表している。現代の特徴は、テーマが豊富なこと。女性が社会進出のために闘っていた60年代とは違い、現代には、セクハラやLGBT+ソングなど、さらに多くのテーマにスポットライトが当たっている。
最新のウーマン・エンパワーメントソング9選
2016年以降にリリースされた女性のためのエンパワーメントソングを9曲ピックアップ。
「フォール・イン・ライン/Fall In Line」
2018年版「ビューティフル」と称されるクリスティーナ・アギレラの新曲は、社会における抑圧や制限に同調(=fall in line)することにNOを突きつける一曲。支配的な夫に屈した母親を見て育ったためそれを反面教師にしているというクリスティーナは、この曲について、「“君たちに権利などない”なんて言う人たちには絶対に屈しないという、今の時代にとても重要なメッセージを届けている」と公式インタビューで語る。
「少女たち、よく聞いて/私には誰も教えてくれなかったから/あなたたちは知っているべき/あなたたちはこの世で、誰かに恩があるわけではない/体や心で返すべき借りもない」
「パワー feat. ストームジー/Power feat. Stormzy」
デビュー当時からガールパワーを歌い続けてきたリトル・ミックスの、キャリア最大のヒットとなった最新アルバム『グローリー・デイズ』に収録あれたエンパワーメントソング。曲の内容は題名のとおりで、「ガールパワーや、人生を楽しむこと、女の子同士で団結すること、そして女性の強さを歌った曲よ」とペリー。曲のテーマにぴったり合った刺激的なMVも必見。
「男はあなただけど、パワーは私にある/あなたが雨を降らせるなら、私はどしゃぶりにできる/主導権を握っているのは私だって分かってて/それを忘れないなら、ハンドルを握らせてあげるわ」
「ノー・エクスキューゼス/No Excuses」
メーガン・トレイナーが、リスペクトを欠く態度を取る男性に「言いわけ無用!(No Excuses)」と、ピシャリと言い聞かせる曲。「リスペクトをテーマにしたエンパワーメントソングを作る」と決意してスタジオ入りしたメーガンが、キュートなビートに合わせて「あなたのお母さんはあなたをそんな子に育ててないわよ」と叱るポップソングを完成させた。
「そんな口をきくなんて、何を飲んだの?/白い目で私を見るわ、いつもケンカをしかけるわ/なぜレディーに会ったことがないような態度を取ってるの?/私はあなたを軽視してない/だからあなたも私を軽視しないで」
「フォーメーション/Formation」
女性が憧れる女性ビヨンセが、女性として生きることの厳しさや強さを歌った大作『レモネード』でラストを飾る楽曲。ビヨンセは「この世界にダブルスタンダードが存在することを、男女共に認めなくてはいけない。そして変化を起こすためにも、リアルな議論をしなくてはいけない」と語っており、「女性たち!」の号令で始まるサビでは、女性を鼓舞する言葉が続く。
※ダブルスタンダード:人や状況によって対応や反応が違うこと。
「さあ隊列(フォーメーション)を組むのよ/あなた達が対等な立場にいるってことを証明して見せてよ/確実にキメるのよ、さもなくば振り落とされる」
「ウーマン/Woman」
プロデューサーとの裁判を乗り越えて復活したケシャが発表した、自立した強い人々のためのアンセム。同曲をドリュー・ピアソンとスティーヴン・ラベルと共作したケシャは、「こんなに力強い女性のエンパワーメントソングを2人の男性と作ったことは、とても美しい経験だった。だって、男性も女性やフェミニズムの支援者になれるという認識を強めてくれたから」と、その思いをエッセイにて明かした。
「自分のものは自分で買う/支払いも自分でする/このダイヤモンドも、この車も、持っているものは全部自分で買った/男の子たちには私の愛を買えない/やりたいことをやる/好きに言ってればいい/私は毎日たくさん努力してるんだから」
「1950」
「自分の曲には女性名詞を使おう。自分のその部分を隠すのは意味分からないし」と決意した19歳のLGBT+シンガー、キング・プリンセスが、女性名詞で女性への愛をストレートに歌う。同性愛者であることを隠さないといけなかった1950年代へのトリビュート的な意味が込められている。キング・プリンセスは、同性愛者であることをカミングアウトした女優のアマンドラ・ステンバーグとの交際をウワサされている。
「私の存在があなたを幸せにしていることを願う/あなたがいなくならないことを願う/男の子に追われるのは嫌い/でもあなたが私を救おうとするのは好き/だって私もレディーだから」
「ブロークン・グラス/Broken Glass」
ヒラリー・クリントン氏が大統領選中によく口にした、女性の社会進出を阻む見えない限界<ガラスの天井/Glass Ceiling>。自分応援歌「ファイト・ソング」を世界的ヒットさせてレイチェル・プラッテンいわく、ウィメンズマーチを見て「(女性たちが)団結して統一勢力になるという点がインスピレーションになった」そうで、ガラスの天井を打ち破って壊れた破片の上で踊って見せると歌う。監督からキャストまで女性のみで作られたMVにも注目。
「あちら側にいくわ/ベイビー、私は生き延びるわ/だって私はファイターだから/あちら側にいくわ/ベイビー、私は燃えている/だって私はファイターだから」
「ユー・ドント・オウン・ミー feat. Gイージー/You Don’t Own Me」
第二派フェミニズム運動が起きた1960年代にレスリー・ゴーアがリリースした曲を、オーストラリア発のスモーキーヴォイス、グレイスがカバーして再ヒットしたもの。グレイスが「50年前も今も共感してもらえる」と語るように、「私はあなたの所有物じゃない」という女性にとってタイムレスなテーマが歌われている。
「これをしろって言わないで/これを言えって言わないで/お願い、一緒に出かけた時に私を見せびらかさないで」
「ラウドスピーカー/Loudspeaker」
「自分たちの曲が会話のきっかけとなってほしい」と語るガールズトリオのMUNA(ムーナ)が、暴行などのハラスメントの被害者に捧げたアンセム。自分の気持ちや言いたいことは全て、“Loudspeaker(拡声器)”で声を大にして言おう、というメッセージが込められている。メッセージ性の強い曲を多く歌うLA発のバンドは、ハリー・スタイルズの米・欧ツアーの前座に起用されてことでも話題に。
「あなたが望むのは、私が自分の時間をあなたのために無駄にすること/教訓を教えようとして/ベイビー、あなたからは一つだけ教わったわ/あなたが私の地獄になろうとも、私を叩きのめそうとしても、私が自分を愛そうとすればあなたの気持ちが傷つくの」
クリスティーナ・アギレラの「フォール・イン・ライン」をはじめ、今回紹介した曲はすべて日本で発売されている。(フロントロウ編集部)