映画『グレイテスト・ショーマン』のキアラ・セトルが「もやもや病」と診断され、脳手術を受けていたことを告白した。(フロントロウ編集部)

アカデミー賞の1週間前に起きた突然の発作

 大ヒット映画『グレイテスト・ショーマン』で髭女のレティを演じた女優のキアラ・セトルが、2018年4月に脳血管障害である「もやもや病」による脳梗塞発症の予防のために手術を受けていたことを米Peopleに初告白した。

 キアラが「もやもや病」と診断されるきっかけとなったのは、2018年のアカデミー賞の約1週間前に起きた、突然の発作。

 同アワードで『グレイテスト・ショーマン』の挿入歌「ディス・イズ・ミー/ This Is Me」をパフォーマンスしたキアラは、当時、多忙なスケジュールの合間を縫って練習を重ねていた。

 映画のプロモーション活動のため、しばらくの間、世界を飛び回るめまぐるしい生活を送っていたキアラは、アカデミー賞という世界最高峰のアワードでパフォーマンスを披露するという重圧にくわえ、精神的・身体的な疲労やストレスに耐えながらリハーサルを行っていた。

画像: アカデミー賞のレッドカーペットに登場したキアラ。

アカデミー賞のレッドカーペットに登場したキアラ。

 極限状態に達したキアラは、リハーサル中に急に崩れ落ちるように泣き出してしまったという。そして、その次の瞬間、彼女は、自身の頭蓋骨に激痛が走るのを感じ、右半身の感覚が無くなってしまったことに気づいた。その時の状態についてキアラはこんな風に振り返っている。

「誰かが私の頭の上で卵の殻を割り、体の中心に1本の直線を引いたみたいだったわ。まるで体の片側の電源がオフになったみたいだった」

「体がすぐに崩れ落ちていった。顔に両手を当てようとしたけど、左腕しか上げることができなかったの。舌の一部が動かなくなっていたから、話すこともできなかった。立ち上がろうとしても立ち上がれなかったわ」

 完全にパニックに陥ったというキアラは、恐怖に怯えながら何とか必死に「Help(助けて)」というひと言を絞り出し、周囲に助けを求めたという。


「もやもや病」と診断 10時間におよぶ脳外科手術を経験

 キアラを襲ったのは、脳の循環障害により起こる一過性の神経症状である「一過性脳虚血発作」と呼ばれる脳血管疾患。

 その後20分ほどで症状は治まったものの、数日間にわたって病院で検査を受けたキアラを待っていたのは、彼女をより不安にさせる診断結果だった。

 キアラは、彼女の脳の半分の血流が頸動脈が狭窄のため数年前からストップし、その代わりに、血流不足を補うため脳の細い動脈が太くなる「もやもや病」の症状を発症していると医師から告げられた。

「もやもや病」とは?
 もやもや病は脳の血管に生じる病気。内頚動脈という太い脳血管の終末部が細くなり、脳の血液不足が起こりやすくなることで、一時的な手足の麻痺、言語障害を起こすことも。血流不足を補うために拡張した脳内の血管、“もやもや血管”が脳底部に見られることが特徴のこの病気は、脳血管の様子をMRIなどで見ると、細い血管がモヤモヤと立ち上る煙のようにみえることから、1960年代後半に日本人医師の鈴木二郎教授が命名したとされる。日本人を中心にアジア人に多い疾患であるため、日本での研究が世界をリードしているといわれる。

 アカデミー賞でのパフォーマンスを数日後に控える中での難病発覚に大きなショックを受けたキアラだったが、彼女は自身の健康状態について、家族やごく親しい友人や関係者にしか明かさなかった。

 その中には、『グレイテスト・ショーマン』の共演者である俳優のヒュー・ジャックマンも含まれており、ヒューはアワードまでの数日間、毎日フェイスタイムでキアラに連絡を入れ、体調を気遣い、励ましていたという。

画像: 2018年2月に東京・歌舞伎町で行われた『グレイテスト・ショーマン』のジャパンプレミアに登場したヒューとキアラ。

2018年2月に東京・歌舞伎町で行われた『グレイテスト・ショーマン』のジャパンプレミアに登場したヒューとキアラ。

 検査入院から数日で自宅に戻り、リハーサルに復帰したキアラは、抗発作薬と鎮痛剤を服用しながら稽古に励み、無事、アカデミー賞の舞台に立った。

 そんな命を懸けた彼女のパフォーマンスは、会場に駆けつけた多くのセレブや業界関係者だけでなく、世界中の視聴者たちの心に響く素晴らしいものだった。

 パフォーマンスの終盤では、感情が高ぶったキアラが思わず涙を浮かべる場面も。この時の彼女の心の中には、それまでの数日間に経験した恐怖や葛藤、周囲の人々への感謝など、さまざまな想いが渦巻いていたに違いない。

 発作から2カ月近くが経った4月27日、キアラは、10時間におよぶ脳の右半分の血流を確保するダブル・バイパス手術に臨んだ。

 術後、キアラが6日間を過ごした集中治療室には家族や友人たちにくわえ、『グレイテスト・ショーマン』の共演者である女優のゼンデイヤもお見舞いに駆けつけたという。

画像: ゼンデイヤとキアラ。

ゼンデイヤとキアラ。


手術を終えて思うこと

 術後の経過は良好ながら、「もやもや病」は完全な治療法はまだなく、再発の可能性が高いといわれる病気。キアラは、この病気は生涯つき合っていくものであり、油断は禁物だということを心得ている。

 手術から約半年を経て、ようやく自身の病気を世間に打ち明けたキアラ。手術を経て“生まれ変わった”自分について、こんな風に語っている。

画像: 手術を終えて思うこと

「世界を見る目が完全に変わったわ。これまでにないくらい、ずっと安らかな気持ち。今まで気にも留めなかったような物事に喜びを見出せるようになったの」

 アワードでのあんなパワフルなパフォーマンスの裏で、人知れず病魔と闘っていたキアラ。医師の指導の下、無理のない範囲でキャリアに邁進している彼女は、2019年1月に米FOXで放送される名作ミュージカル『RENT(レント)』のライブ版への出演が決定している。(フロントロウ編集部)

This article is a sponsored article by
''.