ハリウッド映画界に根強く残る「あの問題」をチクリ
現地時間の1月6日に行われた第76回ゴールデン・グローブ賞授賞式で、コメディ俳優のアンディ・サムバーグと共に司会を務めた韓国系カナダ人女優のサンドラ・オー。アジア人がハリウッド映画界で最も権威あるアワードの1つであるゴールデン・グローブ賞の司会を務めるのは史上初とあり、開催前から大きな注目を集めた。
人気ドラマ『グレイズ・アナトミー 恋の解剖学』への出演でおなじみのサンドラは、同シリーズでの演技が高く評価され2005年に開催された第62回ゴールデン・グローブ賞で助演女優賞を受賞。今年のアワードでは、それに続き、ドラマ『キリング・イヴ/Killing Eve』でテレビの部ドラマ部門の主演女優賞にノミネートし、並み居る実力派女優たちを抑えて見事受賞を果たした。
この快挙は、1980年にドラマ『将軍 SHOGUN』で主演女優賞を受賞した日本人女優の島田陽子以来、アジア人女性ではじつに39年ぶりのこと。
司会&受賞という歴史的偉業をダブルで成し遂げたサンドラは、この日、アンディとともに、ウィットに富んだ話術を活かしてジョークを連発し、観客や視聴者たちを魅了。
しかし、彼女は、人々を楽しませながらも、自身がハリウッドで活躍するアジア系の俳優・女優の代表として同授賞式のステージに立っているという重大な役割を決して忘れてはいなかった。
ノミネート作の出演者や監督たちをひと通りいじったオープニング・モノローグでは、キャスト全員がアジア系というハリウッドでは異例の作品ながら、世界中で大ヒットを記録した映画『クレイジー・リッチ!』にも触れ、皮肉めいたこんなジョークでハリウッド映画界に根強く残る“ホワイト・ウォッシング”(※)をチクリ。
※非白人のキャラクターを白人の俳優が演じること。さまざまな人種の俳優が数多く活躍する現代においてキャラクターを白人化することは人種差別的な行為だとして批判が上がっている。
「オール・アジア系キャストの映画『クレイジー・リッチ!』がミュージカル&コメディ部門の作品賞にノミネートされたのは、『ゴースト・イン・ザ・シェル』と『アロハ』以来ね」
サンドラが名前を出した『ゴースト・イン・ザ・シェル』も『アロハ』も、“ホワイトウォッシング”された作品として知られており、これには白人でありながら『アロハ』でハワイ先住民&中国人をルーツに持つ主人公を演じて批判された女優のエマ・ストーンが客席から大声で謝罪するという前代未聞の反応を示して話題となった。
「私には“変化”が見える」
さらに、オープニング・モノローグの終盤では、アンディがわざとサンドラが読み上げるはずだったはずのセリフを口にし、「あっ、 君が読むはずのセリフを横取りしちゃったよ。ホワイト・ウォッシングをやっちゃった!」と大袈裟に慌てて見せる場面も。
このやりとりをきっかけに、「一瞬だけ時間をもらえるなら…」と神妙な面持ちになったサンドラは、時折、声を震わせながら、自身が同アワードの司会を引き受けた理由についてこう語り、喝采を浴びた。
「今夜、司会者としてこのステージに立つというオファーに私は不安を覚えながらもイエスと返事をしました。(不安の理由は)このステージから客席を眺めたとき、“変化”の瞬間を目の当たりにしたいと切に願っていたからです。でも、今、私には確かな“変化”が見えています。来年はまた状況が変わってしまうかもしれない。でも今、この瞬間は本物です。私には“変化”の証である、あなたたちの“顔”がはっきりと見えています。そして、きっと、皆さんにも見えているはずです」
客席を見渡したサンドラの視線の先には、『クレイジー・リッチ!』のアジア系キャストをはじめ、映画『ブラックパンサー』のアフリカ系キャスト、外国語映画賞に輝いたメキシコ発の映画『ROMA/ローマ』のキャストらの姿が。
映画ハリウッド映画界が、少しずつではあるものの、着実に多様化の兆しを見せていることを表現したこのサンドラのこのスピーチの直後、テレビ画面には客席にいたさまざまな人種の女優や俳優が大写しに。現代映画界が、白人だけでなく、さまざまな人種の役者やスタッフたちから成り立っているものであることを強調したこの演出も視聴者たちの心を打った。
自身の受賞スピーチの終盤では、客席で見守る両親に向かって涙ぐみながら感謝の言葉を口にし、彼らの母国語である韓国語で「アッパ、オンマ、サランヘヨ(お父さん、お母さん、愛してる)」と叫んだサンドラ。
彼女がこの日、司会者として舞台に立ったこと、名誉ある賞を受賞したこと、そしてステージから非白人である両親に対して母国語で愛を伝えたこと、その事実すべてに大きな意味がある。それはまるで、ハリウッドがより多様性に富んだ明るい未来方向へと進んでいるという希望を象徴しているかのようだった。
サンドラは、ゴールデン・グローブ賞開催前に行なわれた米The Hollywood Reporterで、「(アワード当日は)ネガティブな部分を突くのではなく、ポジティブな部分に焦点を当てたい」と語っていた。
彼女は、映画界全体が大きく変化し、そして、それが定着するには、まだまだ時間が必要だと認識している。それでも未来は明るいと信じているサンドラは、「盛衰があるのは仕方ないこと。変化には時間がかかるもの。時のみぞ知るね。でも、(映画の)制作者たちがより文化的背景のある物語を描くことに興味を示せば、観客たちはおのずとついて来てくれると思う」と希望的観測を語っていた。(フロントロウ編集部)
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