ファッション界における「インフルエンサー」とは?
YouTubeやインスタグラム、ブログなどにおしゃれな着こなしやファッションにまつわるアイテムを公開して人気を集めるファッションインフルエンサーたち。
「ファッションブロガー」とも呼ばれる彼らが与える影響力はすさまじく、ファッションインフルエンサーの先駆けと言える、2000年代はじめに人気を博したフィリピン出身のブライアン・ボーイは、自身のブログをきっかけに知名度を高めてファッションショーのフロントロウ常連に。
一流デザイナーやセレブとの親交を深め、2008年にはマーク・ジェイコブスからブライアンにインスパイアされたバッグが販売されたほど人気を博した。
また、今ではセレブ愛用ブランドのアーユーアムアイ(ARE YOU AM I)のデザイナーとして知られるルミ・ニーリーも、独特の世界観を演出したブログをきっかけに、元祖ファッショニスタとしての地位を確立させ、世界中の若者から絶大な支持を得た。
そして、インフルエンサーの活動の場がブログからインスタグラムに移動した2010年以降、おしゃれな写真を中心にインスタグラムで人気を集めたのがキアラ・フェラーニ。
卓越したセルフブランディング力とモデル顔負けのルックスでインスタグラムのフォロワーを伸ばしたキアラは、インフルエンサーとして初めて西版Vogueの表紙を飾った。それだけでなく、自身が手掛けるブランドのキアラ・フェラーニ(Chiara Ferrani)は、欧米諸国だけでなく日本でも大成功を収めている。
彼らの成功を皮切りに、ファッション業界ではエイミー・ソング、カミラ・コエーリョ、ネーガン・ミルシャレイ、ガビ・グレッグといった十人十色なインフルエンサーが多く登場。
美容業界でもYouTubeを中心にチュートリアル動画が人気を集め、コスメブランドの広告塔に抜擢されるほか、コスメブランドを設立するインフルエンサーが現れるなど、今の時代に「インフルエンサー」を名乗る人々は、いわゆるセレブ・芸能人と並んで多大な経済効果を生み出している。
“たかがブロガー”過小評価されるインフルエンサー
しかしながら、ファッション業界で活躍するインフルエンサーは、モデルや俳優と並ぶ人気と影響力を持つものの、なかなかスポットライトが当たらず、いまだ十分な評価を受けていないことが多い。
それが露骨に表れているのが、毎年5月に行なわれる世界最大のファッションの祭典メットガラ。
ファッション業界やエンタメ業界に影響をもたらす“限られた人”しか招待されないメットガラに参加したインフルエンサーはごくわずかで、インフルエンサーがメットガラに参加したのは2015年のキアラが初めてだった。
そんななか、2019年のメットガラでは4人ものインフルエンサーが招待され、ファッションの祭典を祝福。のちに米WWDが公式インスタグラムにインフルエンサーたちの写真を投稿し、「インフルエンサーはファッション業界のエリート集団か?」という質問をユーザーに投げかけた。
この投稿に寄せられたコメントを見た、米Revolveによるインフルエンサー・オブ・ザ・イヤーに輝いたことがあるカリスマブロガーのネーガン・ミルシャレイが、500万人以上のフォロワーを抱える自身のインスタグラムに長文メッセージを残した。
インフルエンサーによる“インフルエンサー”の定義
ヘアケアブランドのギスウ(gisou)を経営し、ヴィクシーエンジェルのロミー・ストリドの親友としても知られるネーガンは、過小評価されがちなブロガーやインフルエンサーという職業について、そして「インフルエンサー」の今後のあるべき姿を言葉にした。
「昨晩、私は自分のフィードをスクロールしてWWDの投稿を見ました。メットガラに出席した4人のインフルエンサーについて、フォロワーに『インフルエンサーはファッション業界のエリート集団か?』と問いかけたものです。コメント欄を見た私は、その半数がネガティブな反応だったことにショックを受けました。
私たちインフルエンサーがしていることが認められなかったのは何年も前の話で、今の話ではありません。私たちは違うルートを歩んでここまでたどり着きましたし、ただ幸運だったわけではありません。情熱を費やし、先を見越したビジョンと戦略を立ててきました。私たちは毎日、自分たちでビジネスを構築させ、チームを導いてきました。
あともうひとつ、“インフルエンサー”の定義について今一度考えてみませんか? インスタグラムやYouTube、その他のプラットフォームを使ってSNS上のコミュニティを作った人々は、インフルエンサーというのではないでしょうか? そうなら、私たちはみんなインフルエンサーであり、企業家なのではないでしょうか? モデルもインフルエンサーになり、インフルエンサーはモデルになるのではないのでしょうか? 俳優や活動家、デザイナーに転身したインフルエンサーもそうなのではないでしょうか? もしかしたら今の時代、その境界線はあいまいになっていて、そういった肩書はもう存在しないのかもしれません。肩書を廃止することもできるのではないしょうか?
デジタル時代になる前は、変化を拒絶する人が常にいたけど、今はすべてが10倍速く進んでいます。誰かにとってインフルエンサーという考えが瞬く間に広まっていくのは怖いはずです。時間をかけて変化を受け入れる人がいるのも理解できます。
でも私は、4人のインフルエンサーは年に一度の限られた祭典に出席できるだけのことを成し遂げたと思っていますし、とても誇りに思っています」
インフルエンサーという肩書だけで、“セレブ”と一線を引かれてしまう考え方を見直してほしいという気持ちとともに、将来的にメットガラにより多くのインフルエンサーが出席する時代が来てほしいと願った。
リアリティスターもかつて軽視されてきた
ネーガンのようなトップレベルのインフルエンサーが生み出す経済効果は、人気セレブに並ぶものだが、ここまでの成功を収めることができるインフルエンサーは実際には一部に限られているのも事実。
作品に出演しないとキャリアを築けない俳優やモデルと違い、インフルエンサーはSNSをやっていれば“誰でもなれる”イメージがあるため、その気軽さがかえって過小評価されてしまう要因のひとつになっている。
まだまだ歴史が浅いために軽視されがちなインフルエンサーだけれど、それはかつてのリアリティスターも同じ。
言わずと知れたリアリティスターのキム・カーダシアンは、今でこそハリウッドを代表する一流セレブで、世界各国のVogueの表紙を飾るほどファッション業界でも一目置かれる存在。
しかし、リアリティ番組ブームがはじまった当初は、常に誹謗中傷を受けており、ファッション界の重鎮アナ・ウィンターが主催するメットガラには何年も招待されないどころか、アナからメットガラ出席禁止令まで出ていたというウワサもある。
出る杭は打たれる状態で批判されていたリアリティスターでも、確固たる地位を確立できた前例があるだけに、物事がめまぐるしく進む世の中で、SNSという強力なツールを駆使するインフルエンサーが脚光を浴びる時代は案外早くやってくるのかもしれない。(フロントロウ編集部)