ジョーカー/アーサー・フレックの「笑い」
世界中で大ヒットを記録している映画『ジョーカー』。高く評価されている主演ホアキン・フェニックスの演技の中でもとくに観客の記憶に残るものといえば、あの「笑い」。ジョーカーとなるアーサー・フレックは脳に障害があることが原因で、笑いたいわけではないのに所構わず笑ってしまう。
これは現実に、情動調節障害(Pseudobulbar Affect:PBA)と呼ばれる疾患。
この疾患は感情を司る脳の領域に障がいがあり、突然激しく泣いたり笑ったりしてしまううえ、自分ではコントロールできない。頭部外傷後遺症(TBI)、多発性硬化症(MS)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、パーキンソン病、脳卒中やアルツハイマー型認知症に併発する。
PBAを持つ人から見たホアキンの演技は…?
アメリカでは、約180万人の患者がいると言われる情動調節障害。バージニア州に住むスコットは、2003年からこの障がいを患っているという。
原因は、飲酒運転の車に交通事故を起こされたこと。自分の婚約パーティーからの帰り道に飲酒運転の車に衝突されたスコットは、その事故で婚約者と母親を亡くした。
その現場で笑いをコントロールできなくなる症状が出たというスコットは、「現場で笑い続けて、警察に不審に思われたことを覚えているよ」と英Ladbibleに語る。
スコットによると、笑いは10分続くこともあり、レストランから追い出されたことや、自分が笑われていると誤解した人にケンカを仕掛けられたことがあるという。
そんなスコットからしても、ホアキンの演技はリアルだったそう。
「どんな場所にいるかにかかわらず、笑うことが止められない状況を彼は非常に上手く描いていたよ。バスのシーンでは、彼は、深く拒絶された経験があるように感じた。事故があったばかりの頃の自分が感じていたものと似ていたね。人が自分を見ているのは気になるものだよ。自分は説明したいんだけど、みんなはその前に君がヤク中かイカレれた奴って思ってしまうんだ。ホアキンは孤独や、他の人が理解してくれないことに対する苛立ちを表していたと思う。映画を見ている間、自分自身を見ている気分だったよ」
ジョーカーを演じるうえで、ホアキンが笑いの演技を重要視していたことは有名。出演が決まったあとも、トッド・フィリップス監督に笑いの演技のためにオーディションをしてくれと懇願したほど。そんなホアキンの真摯な姿勢が、本作の圧倒的クオリティを作り出した一因であることは言うまでもない。
ちなみに、2016年にはスコットも出演した、PBAを患う人々を追ったドキュメンタリー『Beyond Laughter andTears: A Journey of Hope(原題)』が公開されている。(フロントロウ編集部)