処方箋ドラッグの乱用が問題に
アメリカの若者たちの間で近年ブームとなっている、自殺や友人の死、ドラッグがテーマの鬱的な内容を歌った「エモ・ラップ」。日本語では“鬱ラップ”とも表現できる、この新たなヒップ・ホップのジャンルの第一人者的アーティストの1人として支持されているのが、顔面に無数のタトゥーが入ったラッパー、リル・ザン(Lil Xan)。
アーティスト名に含まれる「Xan(ザン)」は、最も若者たちの乱用が問題視されている抗不安薬のザナックス(Xanax)に由来するもの。現在23歳の彼が、以前から使用を公言しているザナックスは、日本を含む世界の国々の心療内科等で処方されているが、非常に依存性が高いと言われている。
米国立薬害研究所のウィルトン・コンプトン医師は、指定された用法を守れば、不安薬として正しく作用するが、その依存性により、ハイになることを目的で乱用する若者が増えていると指摘。アメリカ国内での年間ドラッグによるオーバードーズの死因の30%以上がザナックスや類似ドラッグによるものだと米Fox74に解説している。
若手ラッパーたちが好んで使うことでも知られているザナックスは、俳優の故ヒース・レジャー、シンガーの故マイケル・ジャクソン、故ホイットニー・ヒューストンなどの死因の1つとしても関わっていたことが発表されており、近年では、2017年に命を落としたラッパーのリル・ピープ(Lil
Peep)の過剰摂取でも注目を浴びた。
尊敬するアーティストの死がきっかけ
自分の名前や歌詞にも取り入れるほどザナックスを愛してやまなかったリル・ザンだが、ある人物の死をきっかけに、ザナックスや麻薬性鎮痛薬のヒドロコドンといった処方箋ドラッグへの依存から卒業することを決意。
その人物とは、2018年9月にアルコール、覚醒剤であるコカイン、そして依存性が高い処方鎮痛薬として知られるフェンタニルが組み合わさったオーバードーズ事故で亡くなった、ラッパーのマック・ミラー。
シンガーのアリアナ・グランデの元恋人としても知られるマックは、リル・ザンにとって“近すぎる存在”だった。「マックと自分は同じような問題を抱えてるって知ってた。彼の死は、僕に更生するべき時が来たと感じさせた」と米TMZに語ったリル・ザンは、ここ1年の間に経験した、壮絶な薬物依存とのバトルについても赤裸々に明かした。
禁断症状で発作、病院送りに
いざドラッグ断ちに取り組んでみると、思っているよりもはるかに大変だったと話したリル・ザンは、やり方を間違えたせいで、大変な目に遭ったことも告白。
通常、薬物依存の治療というと、医師や専門家の指導やサポートのもと、段階を経て徐々にドラッグから距離を置いていくのが一般的だが、早く依存から脱出したいと考えたリル・ザンが試したのは、通称“コールド・ターキー”と呼ばれる、薬物を突然きっぱりと断つ方法。
あまりにも突発的にザナックスなどの摂取をストップしたせいで、彼の体はひどい禁断症状を起こし、さらに、複数回のけいれん発作にも見舞われたという。
「あの時はみんな、『ディエゴ(※)が行方不明になった! ディエゴはどこに行ったんだ?』 って焦ってたけど、僕は病院にいたんだ。コールド・ターキーをやっちまったせいでね。だって、これ以上もう、絶対にドラッグはやりたくなかったから。でも、禁断症状が原因で発作が起きたんだ」と、突然の入院を余儀なくされた当時について振り返ったリル・ザンは、この経験が警鐘となったと語り、「ドラッグを完全にやめたかったけど、やり方を間違えた」と、自らの浅はかさを正直に認めた。
※リル・ザンの本名であるディエゴ・リアノス。
改めて、同じくラッパーとして活躍しながら、若くしてこの世を去ったマックやリル・ピープの死が自分が処方箋ドラッグへの依存から立ち直る決意に繋がったことを口にしたリル・ザン。その後、専門家の助けを借りて、薬物を断つことができたことを明かし、「今ならやっと自分がクリーンだって、世界中に胸を張って言える」、「これまで感じたことがないくらい、頭の中がスッキリしてる」と薬漬けだった生活からの脱出を宣言した。(フロントロウ編集部)