“抜擢されたラッキーな俳優”という誤解
メナ・マスードは、2019年の映画『アラジン』で約2,000人の候補者の中からアラジン役に抜擢され、一躍有名となった俳優。
同作品は、世界で1,000億円を超える大ヒットを記録し、新人俳優同然だったメナは、この大役を手に入れたことで、順風満帆な俳優人生を送っていくと思われていた。
しかし、メナは米Daily Beastで、映画『アラジン』に出演したあと、一度もオーディションを受けられていないと発言。その理由に大きな波紋が広がっている。
メナのアイデンティティとハリウッドの現実
メナは、エジプトのカイロに生まれたキリスト教徒で、3歳の時に家族でカナダのトロントに移住。幼少期から俳優になることをあこがれていたが、英語が母国語のカナダ人でありながら、ルックスはエジプト系であるメナは、その夢を否定され続けてきたと、自身のツイッターで語っている。
なぜなら欧米圏では、2001年9月11日に起きた同時多発テロ事件以降、イスラム教徒に対するマイナスのイメージが定着し、イスラム教徒が多い中東系の人々が差別や排斥の対象として見られるようになってしまったから。
これはハリウッドでも起きていて、中東系の俳優には良い役が少なく、あっても“テロリスト”のようなネガティブなステレオタイプであることが多い。
映画『ボヘミアン・ラプソディ』でフレディ・マーキュリーを演じアカデミー主演男優賞を演じたラミ・マレックも、両親ともエジプト人であるため、同様の悩みを抱えていると英Mirrorに明かして話題を集めたことがある。
人種差別によるオーディションの機会を増やすため尽力
夢をあきらめきれなかったメナは2011年ごろ俳優業を開始。そして2017年、ついにハリウッド映画『アラジン』に出演することが決まった。
アラジン役を務めることになったメナは、「テロリストでもなく悪いイメージもないキャラクターをついに演じることができることに興奮している」と、米ABCに語っていた。
さらにメナは、2019年9月ごろに人種や性別、民族などによって過小評価されている人のための財団を設立。米Hollywood Reporterに性別、人種、民族、LGBTQ+など、過小評価されているバックグラウンドのアーティストがキャリアを加速できるよう、映画やテレビのプロデューサーにも公正にキャストしてほしいと考えていると発表した。
これほど自身と同じようなアイデンティティを持つ俳優の活躍に尽力していながらも、メナは米Hollywood Reporterに「僕がここに座っているのは、『アラジン』が大成功したからってだけ。例えば今ここに『バットマン』のオーディションがあったとしても、僕は部屋にも入れさせてもらえない」と悲しみを吐露し、映画『アラジン』のような大作に主演した後でさえ、人種を理由に一度もオーディションを受ける機会を得られていないことへの落胆を明かした。(フロントロウ編集部)