爆破テロにまつわる歌詞が問題視
ニューアルバム『ミュージック・トゥ・ビー・マーダード・バイ(Music To Be Murdered By)』をサプライズリリースしたラッパーのエミネム。
計20曲から成る同作には、全米で深刻な問題となっている銃乱射事件の撲滅を訴えかけた楽曲「ダークネス(Darkness)」が収録されているほか、シンガーのエド・シーランとのコラボ曲「ゾーズ・カインダ・ナイツ(Those Kinda Nights)」や2019年12月に21歳という若さで急死したラッパーのジュース・ワールドとのコラボ曲「ゴジラ(Godzilla)」なども収録されていることでファンを大興奮させているが、「アンアコモデイティング(Unaccommodating)」という名の楽曲に登場する一部の歌詞が物議を醸している。
日本語に訳すと「不親切な」という意味となるタイトルの同曲で、ニューヨーク・ブロンクス出身の女性ラッパーのヤングM.A.とコラボしているエミネムは、メディアや批評家たちの意見に屈しない自らの姿勢について言及。
ジェイ・Z&ビヨンセ夫妻やドレイク、そして長年のコラボ相手だったドクター・ドレー、人気ラップグループ、ミーゴス(Migos)のクエヴォ、以前、楽曲を通じて自身に噛みついてきた若手ラッパーのマシン・ガン・ケリーをネームドロップしているほか、過激派の政治主導者たちの名前を挙げたり、自分自身を指先ひとつで地球の未来を変えてしまう映画『アベンジャーズ』シリーズの悪役「サノス」に例えて、ヒップホップ界での圧倒的な地位を誇示するリリックも登場する。
そんな「アンアコモデイティング」の終盤に登場するのが、2017年にシンガーのアリアナ・グランデのイギリス・マンチェスターでの公演会場で発生し、22名の死者と60名近い負傷者を出した爆破テロ事件にふれたこんな一節。
「試合中に『爆弾投下!』って叫んでやろうと企ててる/アリアナ・グランデのコンサート会場の外で待ち伏せしてさ」
この一節の後には爆破音が続き、さらに自爆攻撃やテロリズムなどにまつわる歌詞が続く。
エミネムは、このリリックを通じて、自らの楽曲リリースが世間に与える影響の大きさが爆破テロと同じくらいだと比喩したようだが、「アンアコモデイティング」が公開されると、すぐにアリアナのファンや爆破テロの被害者の遺族を含むたくさんの人々から「不謹慎だ」、「無意味だ」と批判の的に。
SNS上では、「アリアナの人気にあやかろうとしているのでは?」、「私はエミネムの大ファンだけど、マンチェスターでのテロに関するリリックはさすがに配慮に欠けていると思う」、「爆破音もやりすぎ」といった意見も多く見られる。
被害者支援に協力していたのに…
2017年5月にテロが起きた直後には、ツイッターを通じて被害に遭った人々の家族をサポートするための基金への募金を呼びかけるなど、痛ましい事件に胸を痛めている様子だったエミネム。彼の呼びかけにより、日本円にして2億円以上の寄付が集まったとも言われている。
Join me in helping Manchester victims & their families, Make a donation to the @BritishRedCross and @MENnewsdesk https://t.co/JchJtYOdMU
— Marshall Mathers (@Eminem) May 25, 2017
そんな背景がありながらも、爆破テロを茶化すかのようなリリックを楽曲に織り交ぜた、彼の二面性にショックを受ける人が続出している。
しかし、彼のコアなファンたちは、今回のアルバム収録曲全体を通して“反暴力”や“反テロ”をうたい、銃規制を訴えているエミネムが、ただ単に被害者や遺族、そしてアリアナの傷をえぐるためにこの歌詞を取り入れたはずはないと、問題視されている一節には、もっと深い裏メッセージが込められているものと受け取っている。(フロントロウ編集部)