日本時間2020年2月10日に、第92回アカデミー賞授賞式が開催された。注目の韓国映画『パラサイト 半地下の家族』の大躍進や、気になる「白人優位」の問題など、アカデミー賞の受賞結果の傾向をご紹介。(フロントロウ編集部)

韓国映画の大躍進!『パラサイト』の勢いが最高潮に

 2020年アカデミー賞の最大の勝者は、なんといっても『パラサイト 半地下の家族』だった。

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 本作は、韓国映画史上初めてオスカーをつかみ取った作品で、外国語映画として史上初めて最高の栄誉とされる作品賞を受賞。

 「字幕は読まない」とされるアメリカの劇場でヒットを遂げ、オスカーの92年の歴史において初の快挙を達成した。

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 アカデミー賞のノミネーションと受賞に投票ができるのは、米映画芸術科学アカデミーの会員。投票する会員の84%が白人のため、アカデミー賞は白人が共感できる白人主導の作品が優位と長年されてきた。そんななか、アジア人が主導となった作品が選ばれたことは、素晴らしい快挙。

 ちなみに『パラサイト 半地下の家族』はカンヌ国際映画祭で最高賞のパルムドールを受賞して以来、約181億円(1億6千万ドル)の興行収入を上げている。

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 2020年の作品賞の有力候補としては、多くの予想者によってクエンティン・タランティーノ監督の『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』やサム・メンデス監督の『1917 命をかけた伝令』が挙げられていただけに大きな番狂わせとなったが、会場は一丸となって『パラサイト 半地下の家族』チームを祝福した。

男優賞・女優賞は鉄板の4名が勢ぞろい

 対する男優賞・女優賞には、目立ったサプライズは起こらなかった。受賞者には、ゴールデン・グローブ賞や全米映画俳優組合賞を獲得した俳優陣が勢ぞろい。

 主演男優賞を獲得したのは『ジョーカー』のホアキン・フェニックス。ホアキンは2020年のゴールデン・グローブ賞、SAG、BAFTAなど大型授賞式の主演男優賞を総なめにしており、今回の受賞も確実とみられていた。

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 ホアキンは、2012年にアカデミー賞について「くだらないと思ってるから関わりたくない」と言っていた“元アンチオスカー”だったが、しっかり出席し、栄誉ある賞のトロフィーを掲げた。

 ジョーカーを演じた俳優がオスカーを獲得するのは、史上2人目。1人目のジョーカーは、2008年の『ダークナイト』のヒース・レジャー。彼は受賞前に突然死し、死後にアカデミー賞助演男優賞を受賞した。

 主演女優賞を獲得したのは、『ジュディ 虹の彼方に』で大女優のジュディ・ガーランドを熱演したレネー・ゼルウィガー。まるで本人が憑依したかのような迫真の演技は、全ての観客を納得させる力があった。レネーは2003年の『コールド マウンテン』でアカデミー助演女優賞を受賞した時以来のオスカー受賞。

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 助演男優賞を獲得したのは映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』のブラッド・ピット。ブラッドはこれまで俳優として3度のノミネート経験があったけれど、トロフィーを獲得したのは今回が初めて。ちなみに、2013年の映画『それでも夜は明ける』では制作陣の一員としてアカデミー賞作品賞を受賞している。

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 助演女優賞のローラ・ダーンは『マリッジ・ストーリー』で離婚訴訟の弁護士を好演し、オスカーに輝いた。ローラはこれまで2回のオスカーノミネート経験があったけれど、50年近い俳優人生で受賞するのは初めてだった。

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#OscarsSoWhite問題はどうなった?

 2020年度のアカデミー賞では、20ある演技賞のノミネーションのうち18を白人が占めていたことで、「オスカーは真っ白(Oscar So White)」という批判が集中した。

画像1: #OscarsSoWhite問題はどうなった?

 さらに、監督賞や作品賞など主要な賞においても韓国映画『パラサイト 半地下の家族』を除く全てが白人による監督作品だったことも要因となり、大いに炎上。ネット上では、「マイノリティの候補者が1人いるからといって、#OscarsSoWhiteな顔触れが正当化されるわけではない」という意見もあがっていた。

 結果的には、有色人種の監督の作品として唯一ノミネートした『パラサイト 半地下の家族』が作品賞、監督賞、脚本賞、国際長編映画賞を獲得。一方で、4つある演技賞はすべて白人が独占受賞した。

 そんななか、ショーのサプライズとして出演したエミネムが、意図せず#OscarsSoWhiteの標的に。

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 エミネムはショーで自身のヒットソング「Lose Yourself」を熱唱。この曲は、2002年に公開された自伝的映画『8 Mile』の主題歌としても有名。

 『8 Mile』は、「ラップは黒人のもの」というイメージを覆したいという反骨精神で白人ラッパーのエミネムがのし上がっていくストーリー。

 白人中心だと批判されていた2020年のアカデミー賞で、白人ラッパーによってわざわざ18年前の作品の主題歌がパフォーマンスされたことに、違和感を覚える視聴者が続出。エミネムのパフォーマンスの話題はツイッターでワールドトレンド入りし、大型授賞式にはあまり姿を現さないエミネムの登場を喜ぶ声があった一方、「OscarSoWhite」というハッシュタグを使って揶揄する声も多く挙がった。

女性監督の活躍を願う声

 第92回アカデミー賞では、監督賞での女性監督ノミネートがゼロとなり、これが話題になった。

画像: 『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』グレタ・ガーウィグも監督賞にはノミネートせず。

『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』グレタ・ガーウィグも監督賞にはノミネートせず。

 しかし長編ドキュメンタリー部門では、ジュリア・ライカートが共同監督を務めた『アメリカン・ファクトリー』が、短編ドキュメンタリー映画賞ではキャロル・ディシンガーとエレナ・アンドレイチェヴァが監督した『Learning to Skateboard in a Warzone (If You're a Girl)』が受賞し、ドキュメンタリー部門では女性監督が活躍。

画像: :『アメリカン・ファクトリー』スティーブン・ボグナー監督(左)、ジュリア・ライカート監督(右)

:『アメリカン・ファクトリー』スティーブン・ボグナー監督(左)、ジュリア・ライカート監督(右)

 ジュリアは受賞後のバックステージで、「1977年に初めてオスカーに来た時、ここは白人の海であり、報道機関の写真家はすべて白人男性でしたが、少し良くなってきているように思う」と述べた。さらに、ノミネートされなかった女性監督たちに対し「私たちは互いに支え合わなければいけない。男のグループ、家父長制に合わせる必要はないの。そして、男の子がやったようにやる必要もない。それがなんであれ、女性が望んだようにやることができる」とメッセージを送った。

 とはいえ、アカデミー賞における女性監督作品のノミネートは全体のわずか30%程度。俳優のナタリー・ポートマンは、現状への抗議もかねてドレスの上に羽織ったケープに、“ノミネートが期待されていたのにノミネートされなかった女性監督たちの名前”を金の糸で刺しゅうして登場。刺しゅうで書かれた名前には、『フェアウェル』のルル・ワン監督、『ハスラーズ』のロレーヌ・スカファリア監督、『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』のグレタ・ガーウィグ監督などが入っていた。

画像: 女性監督の活躍を願う声

 ちなみに、92年という長い歴史を持つアカデミー賞で、監督賞を獲得した女性監督は、2009年に映画『ハート・ロッカー』で受賞を果たしたキャスリン・ビグロー監督ただ1人。現在までに、片手で数えられるほどの女性たちしか監督賞の候補に選出されたことがないなか、2020年のアカデミー賞でも、女性監督は監督賞から締め出しを食らった。

スピーチでは政治的メッセージが目立った

 アカデミー賞は2001年から「スピーチは45秒以内に行なう」というルールが設定されている。

 そんな中でも、受賞者はしっかりと自らの意見や立場を壇上でスピーチして思いを伝えた。なかでも素晴らしいスピーチをしたのは、主演男優賞受賞のホアキン・フェニックス。

画像1: スピーチでは政治的メッセージが目立った

「ジェンダーと平等、人種差別、クィアの権利、先住民の権利、動物の権利などにかかわらず、ひとつの国、人種、性、種が何の罰もなく他者を支配、コントロール、利用する権利があるという信念に対する闘い」だと述べたホアキンは、スピーチの最後に今は亡き兄リバー・フェニックスの詩を涙ながらに披露。「Run to the rescue with love, and peace will follow(愛を持って助けよ。その末に平和がある)」という言葉と共に締めくくった。

 また、『ジョジョ・ラビット』のタイカ・ワイティティ監督は、ニュージーランドの先住民マオリ族を血族にもつ者として初めてのオスカー受賞者となったということもあり、先住民の若者に向け「僕たちは物語の語り部で、ここに立つことだってできる」と伝えた。

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(フロントロウ編集部)

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