アンジェリーナ・ジョリー、シリアでの経験
これまで多くの人道支援に携わり、2012年から国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の特使を務める俳優のアンジェリーナ・ジョリーが、内戦が続くシリアで経験した出来事について、米Timeに寄稿した。
「内戦が勃発してから数ヵ月経った2011年のシリアで、スナイパーの攻撃を避けるため、暗闇に隠れて国境をわたる緊張状態のシリア人家族たちがいるヨルダン国境を訪れました。検問所の医師は、最近到着したという1組の家族について話してくれました。彼らは、ケガを負った8歳の息子と、彼の切断された脚を抱え運んでいたそうです。少年の脚は空爆によって深刻な状態となっていました。少年は、逃げる際にも脚を持って行きたいと家族に懇願したと言います。どうにかそれを、再びつけることができるようにと。
その当時の私は、彼のような物語が、裕福で強大な国々が(シリアで起こっている)暴力を止めるきっかけになることを願っていました。しかし今、約10年の時が経ち、その物語はシリア内戦そのものを表しているように思えます。粉々に砕け散った子供たちの無邪気さ、現実的な問題によって生じた取り返しのつかない損害、多民族社会、何年にもわたって無視される助けの声といったものです。
私は、シリア内戦が始まってから、10回程度シリアを訪れました。当初、そこに住む家族たちには希望がありました。彼らは、『お願いです。私たちに何が起こっているのかを人々に伝えてください』と言っており、1度でも真実が世界に知られれば、世界は彼らを助けにきてくれると信じていました。しかしその希望は、怒りと、生き残りをかけた苦悩へと変貌することになってしまいました。子供を抱えて、私のほうに見せてきた1人の父親は、『この子はテロリストか?私の息子はテロリストか?』と聞いてきました。また、多くの家族が、毎日、どの子供に少ない食料や薬を与えるかという苦悩と闘っていました」
シリア内戦には世界各国も加担している
シリア内戦は、シリアにおけるアサド一家による独裁政権からの脱却を目指した市民が声をあげ、自由シリア軍を編成してアサド政権と軍事対立を開始したことで、2011年より勃発した。
「内戦」と言われるシリア内戦だけれど、自由シリア軍にはアメリカ、EU、トルコ、サウジアラビアの支持がつき、アサド政権にはロシア、中国、イランの後ろ盾がついたことで、各国の国際的な対立も浮き彫りになっている。また、内戦が長引いたことでイスラム国(ISIS)が台頭し、さらに内戦から逃れたい武力を持たない一般市民の難民問題など、世界各国でひずみが生じている。
シリア人権監視団が2020年1月に発表したところによると、これまでに内戦によって死亡した人数は38万人を超え、そのうち11万5,000人以上が民間人であった。
シリアの人口は2,240万人。UNHCRの調査では、故郷シリアを追われ他国へ逃げざるを得なかった難民数は670万人にのぼり、その数は世界で最も多い。また、逃げた先でも劣悪な環境下での生活を強いられる難民が多いことが問題となっている。
シリア、そして世界のためにするべきこと
シリアだけの問題ではないこの内戦について、アンジェリーナは、最後にこう語る。
「私たちは、シリアで起こっている戦争の残忍な大詰めを、自分たちには関係ないかのように見ています。しかし、それは私たちに関係があるのです。停戦のために、そして政治的参加や説明責任、難民の安全な帰還のための平和への交渉のために、私たちは外交力を使うべきです。
そうしないと、シリアは、一般市民に対する大量破壊や残忍な行為が許されることだという証拠として残ることになるでしょう。そして、すでに重荷を背負っている次の世代に、壊れてしまった国際システムを立て直すことを強いることになるのです」
(フロントロウ編集部)