医療従事者からのリクエストに応えるSNSグループ
イギリス・ウェールズ地方に暮らす、ある一般女性たちが、新型コロナウイルスの最前線で闘う英国民保険サービス(NHS)のスタッフたちに、できる限り必要な物資を届けようと、「NHSカインドネス・ウィッシュリスト」と名づけたフェイスブックグループを立ち上げた。
発足から3週間ほどで参加者が2万人を突破したこのパブリック・グループでは、ウェールズ内のNHSの医療施設で働くスタッフたちが、必要なものや欲しいものを伝えると、参加者たちがそれに応え、物資を寄付できるという善意のやり取りが行なわれている。

これまで、このグループを通じて、寄付されたアイテムの総額は、日本円にして400万円以上。歯磨き粉や手指の消毒用ジェルといった生活必需品から、休憩時間に食べるクッキーやチョコレートまで、さまざまなアイテムがウェールズ内の70以上の医療機関で働くスタッフたちに届けられた。
しかし、ここへ来て、スタッフたちから携帯電話やスマホ、タブレットといった通信端末を求める声が寄せられている。
通信端末の寄付が求められる理由
医療従事者たちがこうした端末を求めているのは、自分たちのためではない。院内で隔離され、家族や友人にも会えず、たった一人で新型肺炎と闘っている患者たちのためだ。
NHSカインドネス・ウィッシュリストの発起人の1人であるサラ・プラットは、英BBCに医療スタッフたちからスマホやタブレットへのリクエストが寄せられるようになった理由について、こう明かしている。
「病院への訪問者が許されない状況のなか、多くの患者たちが孤独な死を遂げています。しかし、もしも、タブレットや携帯電話を手にすることができれば、息を引き取る前に、家族と会話をすることができるのです」。

さらに、「先日、2名の看護師から緊急のリクエストがありました。彼らは、自分たちがケアをしている患者が、亡くなる前に家族にひと目会うこともできないと、とても感情的になっていました」と明かしたプラット氏は、その件について、ウィッシュリストに書き込んだところ、すぐにタブレット端末と携帯電話が5台ずつグループ参加者から寄付され、翌日、その看護師たちが働く病院に届けることができたというエピソードを明かした。
新型コロナウイルスによる肺炎の重篤化によって亡くなった人々の多くが、最期の時間を家族と共有することができないまま、この世を去っている。そんななか、せめて最後にひと言だけでも、スマホやタブレットを通じて言葉を交わせたなら、遺される家族も少しは心の整理がつくかもしれない。また、闘病中の患者が、家族とコミュニケーションをとることで、不安を和らげたり、治療の励みになる可能性もある。
患者の使用を目的とするものか否かは明かされていないが、NHSは医療現場での使用を目的として、英Sumsung社に医療用手袋をしたままでも使用が可能なスマートフォン2万台を発注。これを受け、Sumsung社は、これらを無償で提供することを発表している。
さらに、フェイスブック社はビデオ通話デバイス「ポータル」2050台をエセックス、ロンドン、マンチェスターといった地域の医療施設に寄付するなど、イギリス国内では、企業による医療施設への通信機器の寄贈も相次いでいる。(フロントロウ編集部)
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