「Blackout Tuesday(ブラックアウト・チューズデー)」とは?
黒人男性のジョージ・フロイドが白人の元警察官(※)デレク・ショービン容疑者に殺害された事件をうけて、黒人に対する暴力や差別の撤廃を訴える抗議運動「Black Live Matter/ブラック・ライヴズ・マター(黒人の命にも価値がある)」がこれまで以上に活発化するなか、6月2日の火曜日に「Blackout Tuesday(ブラックアウト・チューズデー)」と呼ばれる世界規模のストライキが行われた。
※事件後に懲戒免職となり、第3級殺人と第2級故殺の疑いで逮捕・起訴された。
日本時間の昨夜から、SNS上で「Blackout Tueday」というハッシュタグをつけて、黒一色の投稿を行なう人たちが続出していることに気づいた方も多いと思うが、「Blackout Tuesday」とは、6月2日の火曜日にビジネスを一時中断し、黒人差別撤廃のために企業や個人がそれぞれこの問題に考えを巡らせ、できることを実行しようと発足した運動。
音楽業界で働く2人の黒人女性、ジャミーラ・トーマスとブリアンナ・アジェマン(※アジマンと表記する場合もある)が、音楽業界が黒人の作品で莫大な利益を得ているにもかかわらず、彼らに十分なパワーを与えていないことを知らしめる目的でスタートさせたキャンペーン「The Show Must Be Paused(ショーは中断しなければならない)」が元になっており、それが形と名前を変えて「Blackout Tuesday」となり、現在のスタイルとして定着した。
一部のセレブが苦言を呈しているワケ
「Blackout Tuesday」も、黒人に対する暴力や差別の撤廃を訴える抗議運動「Black Live Matter/ブラック・ライヴズ・マター(黒人の命にも価値がある)」に並ぶ立派な抗議活動であることに違いはないが、この活動がもたらす影響や一時のノリで便乗する人たちに苦言を呈する声も。
じつは、「Blackout Tuesday」の投稿を行なった人たちが、「Blackout Tuesday」だけでなく「Black Lives Matter」のハッシュタグをつけて投稿したことによって、インスタグラムで「Black Lives Matter」というハッシュタグをクリックすると画面が黒一色になる事態に。そのせいで、抗議活動に参加する人たちやこの運動を主導する人たちが必要な情報を得られなくなったとして、一部の人たちから批判の声が噴出した。
リル・ナズ・X
昨年のプライド月間に同性愛者であることをカミングアウトしたラッパーのリル・ナズ・Xは、「これは何の助けにもなってない。一体、誰がこんなことを考えたんだ?みんなもこの事実を知るべきだ」とツイートすると、続けて「みんなの主張はわかるんだけど、丸1日、何も投稿しないっていうのは最悪のアイデアだと思う。今はこれまで以上に前に突き進む時だ。いまだかつて、このムーブメントがこれほどパワフルなものになったことがあるだろうか。何も投稿しないことで、活動を停滞させるべきじゃない。むしろ、もっと大きな声で必要な情報を発信するべきだ」と呼びかけた。
i just really think this is the time to push as hard as ever. i don’t think the movement has ever been this powerful. we don’t need to slow it down by posting nothing. we need to spread info and be as loud as ever. https://t.co/9nvy3HodjD
— nope (@LilNasX) June 2, 2020
ケラーニ
シンガーのケラーニは、「Blackout Tuesday」を支持しつつも、リル・ナズ同様、自身のツイッターで「Black Lives Matter」の活動に弊害が生じていることを批判すると同時に、“何も投稿しない”というのは個人的な内容の投稿を自粛するという意味で、黒人の差別問題に対する自身の意見や、関連する必要な情報を何も発信しないということではないとコメント。
また、ケラーニは実施日が“火曜日”であることや、この活動への参加に名乗りをあげたレコード会社の“姿勢”について、「大体、新曲や新アルバムがリリースされるのは(火曜日じゃなくて)金曜日って決まってる。火曜日だけ活動をやめても何の影響もない。何もリリースしないなら、最低でも1週間、なんなら1ヵ月くらい続けるべきだと思う。あと、この活動に賛同する企業は、黒人のアーティストにすべての利益を支払うことを約束するべきね」と、痛いところも突いている。
fuck no first of all. the major release day is FRIDAYS. tuesdays not a big deal. no releases should come out at all for the week shit maybe for the month. and if they do, these companies need to pledge to giving the Black artists who release ALL THE MONEY MADE FROM IT. fuck it. https://t.co/S6lNSqvO4x
— Kehlani (@Kehlani) June 2, 2020
また、モデルのエミリー・ラタコウスキーや黒人の血を引くプロテニス選手の大坂なおみは、これまで黒人の差別問題にまったく関心を寄せていなかった人たちが、ここぞとばかりに「Blackout Tuesday」というハッシュタグをつけて黒い正方形の画像をSNSに投稿し、それ以外では沈黙を貫いていることへの違和感を口にした。
エミリー・ラタコウスキー
フェミニストを公言し、社会問題全般に強い関心を持つエミリーは、「黒い正方形の画像を投稿するだけなら超簡単ね。もう何年もSNSを更新していなかった人たちが、黒い正方形の画像を投稿してるのを見かけたわ。沈黙を貫いていたことを恥じていた人たちは、最低限のことをしただけなのに、さぞ気分が良いでしょうね」と、これまで黒人の差別問題やいかなる社会問題にも反応してこなかった人たちに対する皮肉をツイート。
So easy to post a black square. I’m seeing people who haven’t posted in YEARS come on to post a black square. Your silence was embarrassing and now you can feel good about yourself while doing the bare minimum. This is the worst kind of virtual signaling. (1)
— Emily Ratajkowski (@emrata) June 2, 2020
続けて、「これは最悪の合図であり、ものすごく危険なことでもあると思う。多くの主流メディアは活動をやめていない。私の投稿をつねに監視してるMAGA(※)野郎たちも同様にね。(SNSという)信頼できる情報源とコミュニケーションツールの機能を停止させることは、良いアイデアとは思えない」と、偏った報道しかしないニュースサイトだけが活動を続け、Black Lives Matter関連の正確な情報を得るのに有効なツイッターやインスタグラムに人々が何も投稿しなくなるのは、Black Lives Matterの活動の妨げになる可能性があると指摘した。
※ドナルド・トランプ米大統領が掲げるスローガン「Make America Great Again」の頭文字を取った略称。エミリーはトランプ支持者を指して使っている。
And it’s straight up dangerous. The mainstream media isn’t blacking out today, the MAGA dudes in my mentions aren’t blacking out today. Clogging up the only reliable news source and communication channel ISNT HELPFUL. (2)
— Emily Ratajkowski (@emrata) June 2, 2020
大坂なおみ
日本人の母とハイチ系アメリカ人の父を持つ大坂なおみは、「Blackout Tuesday」のコンセプトそのものには賛同しており、自身のインスタグラムに黒一色の投稿を行なっているが、エミリーと同じく「Blackout Tuesday」だけに乗っかる人たちに対して彼女なりに思うところがあったようで、「この約1週間で黒い正方形の画像しか投稿していない人たちをこきおろすべきか、それともまったく何も投稿しないという選択肢もあったのに、極小でもパンのかけらを与えてくれた(=最低限の行動を取った)という事実と姿勢を受け入れるべきか、その狭間で揺れている」とツイートしている。
I’m torn between roasting people for only posting the black square this entire week...Or, accepting that they could’ve posted nothing at all so I should deal with this bare minimum bread crumb they have given.
— NaomiOsaka大坂なおみ (@naomiosaka) June 3, 2020
ちなみに、「Black Live Matter」のページが真っ黒になる問題に関しては、「Blackout Tuesdayの投稿をする時には、Black Lives Matterというハッシュタグをつけないで!」 と呼びかける声や、「Blackout Tuesday」の投稿をする際の手順を記した画像やツイートが広まったことで、わずかながら改善が見られた。
批判もあったが社会に与えた影響は絶大
リル・ナズやケラーニの主張はごもっともであり、これまで黒人の差別問題に一切関心を示してこなかった人たちが、「Blackout Tuesday」だけに乗っかることに憤りを覚えたというエミリーや大坂なおみの気持ちも理解できる。
しかし、発端となったアメリカ国内だけでなく、アメリカから遠く離れた日本でも様々なメディアを通じてこの活動が報じられ、さらに大坂なおみや錦織圭、大谷翔平、八村塁といった日本の著名人がこの活動に賛同したことで、フロイド氏の死をめぐる騒動の背景にある根強い人種差別問題が日本人にも広く知れ渡るなど、「Blackout Tuesdady」が国際社会に与えた影響と功績は大きい。
大切なのは、「Blackout Tuesday」に賛同した企業や個人が、今後も積極的に自分たちの意見や立場、必要な情報を発信し、サポートを続けていくこと。そうすることで、フロイド氏の死をきっかけに活発化している「Black Lives Matter」をはじめとする抗議活動が実を結び、やがて大きな変化を社会全体にもたらすことになるのではないだろうか。(フロントロウ編集部)