『ハリー・ポッター』シリーズの原作者J.K.ローリングのトランスジェンダーに対して差別的な発言に批判が寄せられていることを受けて、ハリー・ポッター役のダニエル・ラドクリフがファンに謝罪するコメントを発表した。(フロントロウ編集部)

トランスフォビア的だとして『ハリポタ』著者の発言が物議

 映画『ハリー・ポッター』(以下『ハリポタ』)シリーズの原作となった同名児童向けファンタジー小説の著者で、『ハリー・ポッター』の新シリーズである『ファンタスティック・ビースト』の原作・脚本も手がける作家のJ.K.ローリングの「ある発言」がトランスフォビア(トランスジェンダー/トランセクシュアルに対するネガティブな感情・思想・行動)的だとして批判を集めている。

 ローリング氏は今回、Twitterで米メディアDevexの『意見:新型コロナウイルス以降の世界を月経がある人々にとってより公平なものにするために』というタイトルの記事をシェアした際、「“月経がある人”ね。以前はこの人たちを表す言葉があったと思うんだけど。なんだったっけ、誰か教えてくれない?ウンベン? ウィンパンド? それとも、ウーマッド?」と、あえて「女性(ウィメン)」と記載しなかったことに疑問を投げかけるツイートをしたところ、この発言がトランスジェンダーに対して差別的だと物議。

 この記事では、トランスジェンダー(※1)の男性(生まれ持った体は女性)やノンバイナリー(※2)の人たちも考慮に入れ、「月経がある=必ずしも女性ではない」ということを強調するため、タイトルでは「月経がある人々」という表現にされていたのだけれど、ローリング氏にはこの表現が引っかかったよう。

※1:生まれた時に割り当てられた性別と心の性が一致しない人。
※2:性自認が男女どちらかという二元の考えにあてはまらない人。

 ローリング氏は批判を受けて、「もし性別がリアルではないなら、同性同士が引かれることだってない。もし性別がリアルじゃないなら、これまで世界中の女性たちが生きてきた現実が消し去られてしまう。私はトランスジェンダーの人たちのことも知っているし、大好きだけど、性別の概念を取り除いてしまうのは、多くの人たちが自分の人生について有意義に議論をする可能性を奪ってしまう。真実を語るのは悪意ではない」と持論を展開し、トランスジェンダーを嫌悪しているわけではないと説明。

 しかしながら、非難の声は鳴りやまず、一般ユーザーからはもちろん、ドラマ『アメリカン・ホラー・ストーリー』の俳優サラ・ポールソンやホールジーら、セレブたちからも異論を唱えるコメントが続出した。

 ローリング氏は、Trans-Exclusionary Radical Feminist=トランスジェンダーの人々を排除しようとする急進的なフェミニストTERFではないかとたびたび言われてきており、2018年には「ドレスを着た男性」が女性よりも上に扱われているとするツイートをいいねして批判を浴びたものの、そのときは広報が押し間違えたと説明。また、2019年には、TERFとしてたびたび炎上していたユーチューバーのマグダレン・バーンズをツイッターでフォローしていることが発覚するなど、“トランスフォビア的”だとして事あるごとに批判されてきた。

ハリー・ポッターがファンに謝罪

 ローリング氏の発言に批判の声が多く寄せられているなか、映画『ハリー・ポッター』シリーズで主人公ハリー・ポッターを演じた俳優のダニエル・ラドクリフが一連の騒動に言及。LGBTQ+の人々を支援する活動を行なっている慈善団体ザ・トレヴァー・プロジェクト(The Trevor Project)のウェブサイトに声明を発表して、ローリング氏の発言をファンに謝罪した。

画像: ハリー・ポッターがファンに謝罪

 「いくつかのメディアはこの一件をJ.K.ローリングと僕の対立のように描きたがるかもしれませんが、そうではありませんし、大切なのはそういうことではありません。ジョーは間違いなく僕の人生を導いてくれた方ですが、光栄にもここ10年間、ザ・トレヴァー・プロジェクトと仕事をし、貢献してきた者として、そして1人の人間として、今は何か言わなければいけないと感じています」と前置きした上で、ダニエルは次のように記した。

 トランスジェンダーの女性は『女性』です。これに反する意見は、トランスジェンダーの方々のアイデンティティや尊厳を傷つけ、この問題についてジョーや僕よりも遥かに専門性を有する医療の専門家たちのあらゆる助言と対立するものです。ザ・トレヴァー・プロジェクトによれば、トランスジェンダーやノンバイナリーの方々の78%がジェンダーのアイデンティティのために差別の対象にされていると言います。トランスジェンダーやノンバイナリーの方々のアイデンティティを無効にしたり、さらなる傷を与えたりするのではなく、彼らをサポートするためにより多くのことをしなければいけないのは明白です。

 僕は今も、より良いアライになるために学び続けています。僕と一緒にトランスジェンダーやノンバイナリーの方々のアイデンティティを学びたいという方は、ザ・トレヴァー・プロジェクトの『Guide to Being an Ally to Transgender and Nonbinary Youth』をチェックしてみてください。ここでは、性別とジェンダーの違いなど、幅広いトピックを網羅した入門的な教育資料にあたることができ、トランスジェンダーやノンバイナリーの方々を支援するための最適な方法が公開されています。

画像: ©️WARNER BROS. PICTURES

©️WARNER BROS. PICTURES

 (『ハリー・ポッター』の)本に対する経験が損なわれてしまった、もしくは薄れてしまったと感じているすべての方々に、一連の発言が引き起こしてしまった痛みを心よりお詫び申し上げます。皆さんが物語の中で見つけた貴重な物が完全には失われてはいないことを願っています。この本が皆さんに、愛がこの宇宙で最も強い力であり、何事も克服できることを教えてくれくれたのなら、強さは多様性の中にあり、純粋さからくる独善的な思想は脆弱な集団の抑圧に繋がるという事を教えてくれくれたのなら、もしも皆さんが、特定のキャラクターについて、彼らがトランスジェンダーで、ノンバイナリーで、ジェンダー・フルイド(※)で、もしくはゲイで、バイセクシャルである事を信じてくれたのなら、皆さんがこの物語に共感できるところを見つけ、人生において物語が救いになった瞬間があったとしたら、それは皆さんと皆さんの読まれた本の間に生まれたもので、神聖なものです。僕個人としては、それは誰にも触れることのできないものだと思っています。それはあなたにとって意義のあることで、今回の発言がそれを汚し過ぎてしまっていないことを願っています。

※ジェンダーが流動的であること

他の『ハリポタ』キャストたちも発言に言及

 ローリング氏の一連の発言に言及した『ハリー・ポッター』のキャストはダニエルだけでなく、映画でハリーの初恋の相手であるチョウ・チャン役を演じた俳優のケイティ・リューングは、直接の言及こそしていないものの、黒人トランスジェンダーが受けている差別などを解説したページや、黒人トランスジェンダーを支援する団体への寄付金を募るサイト、差別や暴力の対象となりやすい黒人のトランスジェンダーを保護する制度の設立を英政府に訴える署名運動へのリンクなどを立て続けに紹介するツイートを投稿した。

 また、舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』でハーマイオニー・グレンジャーを演じた黒人俳優のノーマ・ドゥメズウェニはトランスジェンダー女性として知られる人々の名前を書き連ねた上で、「私は彼女たちを抹消するのではなく、彼女たちが生きてきた人生に敬意を払います。彼女たちは『女性』なのです!耳を傾けるという『魔法』があります。地球には千年単位の歴史があります。あなたならきっと知っているはずです。愛を込めて」とツイートした。

※この記事ではtransphobiaという言葉を当初「反トランスジェンダー」と記載していましたが、より適切な「トランスフォビア(※トランスジェンダー/トランセクシュアルに対するネガティブな感情・思想・行動)」に修正しました。

(フロントロウ編集部)

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