『BTTF』の4年後に公開されたPART2
1985年に公開された『バック・トゥ・ザ・フューチャー』が映画史に残る大ヒットを記録し、その4年後に『バック・トゥ・ザ・フューチャー PART2』が公開された。
前作では、マイケル・J・フォックス演じるマーティ・マクフライが1955年にタイムスリップし、高校生時代の自身の両親ロレインとジョージを巻き込んだひと騒動を繰り広げたけれど、本作では2015年のマーティと彼女のジェニファー・パーカーが結婚した未来で、2人の子供や、ドクとビフを巻き込みながら、2015年や1985年、そしてふたたび1955年など、様々な時代をタイムトラベルする。
キャスティングですったもんだあった『BTTF2』
現在でも映画ファンから人気の多くの俳優が出演した『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズだけれど、第1作目でマーティの父ジョージを演じたクリスピン・グローヴァーは、出演料の金額で制作陣と折り合いがつかず、2以降は出演していない。
そこで制作陣が行なったのは、1のマーティの映像の再使用と、俳優ジェフリー・ウェイスマンの起用。ただ、ジェフリーがジョージを演じたわけではなく、クリスピンの顔の型を取ったものやメイクアップ技術を駆使し、クリスピン本人が再演しているようにみせた。
ここが、クリスピン本人が問題視した点だった。『バック・トゥ・ザ・フューチャー2』では、ジェニファー役がクローディア・ウェルズからエリザベス・シューになったことを例に出し、クリスピンは2014年に出演した米ラジオ番組『The Sam Roberts Show(原題)』でこう振り返っている。
「別の俳優を起用するだけであれば、それは私が予想したことだったし、完璧に合法だし、私もまったく気にしなかったよ」
クリスピン・グローヴァーがユニバーサルを相手に裁判
しかも、クリスピンの担当弁護士が米Hollywood Reporterに語ったところによると、製作総指揮のスティーブン・スピルバーグは現場で、ジェフリーのことをクリスピンと呼んでいたこともあったそう。その制作方法に疑問を抱いたクリスピンは、1990年に配給会社のユニバーサル・ピクチャーズに対して、パブリシティー権の侵害だとして裁判を起こした。それは、テクノロジーが発展してきていた1990年当時に起こった今回のようなことが、今後も映像制作の現場で他の俳優に起こりえると懸念があったからだという。
結果的に、ユニバーサル・ピクチャーズ側はクリスピンに、76万ドル(約8,400万円)程度を支払ったとみられている。
この件は、アメリカの映画俳優組合(SAG)のガイドラインで、俳優の違法な使用に関する項目に変化をもたらしたと言われているけれど、それが真実かどうかは不明。とはいえ彼のこの裁判は、テクノロジーを駆使するハリウッドにおいて、俳優のパブリシティー権についての意識を高めることになったと言われている。
しかし2020年現在、テクノロジーがさらに進化していくとともに、最近では亡くなった俳優を映像のなかで復活させる行為も増えている。例えば1955年に交通事故死したジェームズ・ディーンが、現在制作中の映画『Finding Jack』にCGで出演すると発表された際には、クリス・エバンズが苦言を呈した。この分野において、まだ課題は多い。
ちなみにクリスピンは、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のロバート・ゼメキス監督とは和解しており、ゼメキス監督による2007年の映画『ベオウルフ/呪われし勇者』に出演している。(フロントロウ編集部)