※この記事には、『セックス・エデュケーション』のネタバレが含まれます。
エマ・マッキー、学校での性教育に意見
シーズン2までが配信されているNetflixドラマの『セックス・エデュケーション』は、人間関係としてのセックスをメインテーマに、高校生やその親、教師たちのリアルな悩みを描いて、世界中で高く評価され、大人気となっている。これまでタブーとされてきたり、単に“エロ”として扱われたりしてきたセックスを、人間関係の一部として扱った本作では、微笑ましい人間関係の悩みから、中絶や性暴力までを細かく描いている。
そんな『セックス・エデュケーション』で、メインキャラクターの1人であるメイヴを演じたエマ・マッキーは、「性教育(セックス・エデュケーション)」というタイトルにちなみ、学校における性教育について、英Glamourのインタビューでこう語る。
「私達は学校で、セックスは生殖のためだけのもので、女性は子供を作る機械だって教えられる。でも私達が家父長制を引きずり下ろす方法は、性教育にある。私達は、これが排卵で、これが生理、これが精液で、こうなってこうなってこうなって、赤ちゃん!って教えられる。でもセックスは挿入するだけの話じゃない。その段階に、色々なことがある。そしてセックスは、究極的には快楽のためでしょう。私達世代の多くは、赤ちゃんを持つためにセックスするわけじゃないよ。そして、崩壊して燃え上がっているこの狂った世界で、親密さを見つけるのは美しいことだと思うし、私達はそれを祝福すべき」
メイヴはなぜ中絶が出来た?イギリスの医療とは
そんな思いを持つエマだからこそ、『セックス・エデュケーション』という作品を通して、視聴者に良い情報を発信することができたと感じているよう。とくに、シーズン1でメイヴが中絶をする様子を、大袈裟なドラマチックなものにせず丁寧に描けたことを誇りに思っている様子で、米Teen Vogueのインタビューでこう話した。
「あのエピソードの重要なポイントは、私達は中絶をセンセーショナルには描きたくなかったし、それを重大で、ドラマチックで、難しい決断とは描きたくなかったということ。メイヴは、自分自身の生活にすらお金がない。自分自身のためのお金もなくて、トレーラーに住んでて。17歳だしね。彼女はサポートも得られない、家族もいない。彼女は、さっさとどうにかするしかなかった。
(このドラマがなければ)何も知らなかった。でも今は、ドラマのおかげで中絶がどんなものか知ることができた。すごく情報を与えてくれるし、教育的だよね。まあ、イギリスに住んでいる人達にだけなんだけど。アメリカとかでも同じかどうかは知らない。いずれにせよ、教育的ではあるし、分かりやすく説明していると思う。タブーをなくしているし、メイヴと一緒に順序を経験できる。どんな予約をしなきゃいけなかったか、彼女は何をしなきゃいけなかったかを見ることができた」
『セックス・エデュケーション』が舞台のイギリスでは当然のことなので、ドラマ内では説明が省かれているのだけれど、なぜお金のないメイヴが中絶手術を受けられたかというと、イギリスでは国民保健サービスに登録していれば、中絶費用は誰でも無料。そしてイギリスでは、手動真空吸引法(※1)か経口中絶薬(※2)による中絶が行なわれている。
※1:鋭的な器具は使用せず、子宮内を真空状態にして吸引する方法。合併症のリスクが少なく、静脈麻酔ではなく局所麻酔で行うことができる。
※2:従来の手術よりも安全性が高い方法。
ちなみに、エマが言うようにイギリスとは違って他の国では状況が異なり、例えば日本では、中絶は保険が適用されないため高額実費になる。そして日本で行なわれている中絶方法の主流である掻爬(そうは)法(※)は、世界保健機関が「時代遅れの外科的中絶方法であり、真空吸引法または薬剤による中絶方法に切り替えるべき」と勧告しているもので、American Journal of Preventive Medicineで2000年に発表された論文によると、イギリスでの実施率は当時ですでに0%。また、WHOの必須医薬品に指定されている経口中絶薬は、2020年7月時点で日本では高額どころか認可すらされていない。
※金属製の細長い器具を子宮口から入れて、子宮内の妊娠組織を全体的にかき出す方法。静脈麻酔で眠らせて手術を行なう。
イギリスではアフターピルの在り方も異なる
『セックス・エデュケーション』では、中絶の他にも、アフターピル(緊急避妊薬)にも触れたエピソードも。シーズン2で主役のオーティスが、もしかしたらコンドームをせずにルビーとセックスをしてしまったかもしれないという出来事が。2人は交際していたわけでもなく、特に親しいわけでもなかったけれど、オーティスはちゃんとルビーに付き添って薬局へ行き、アフターピルを購入した。
イギリスでは薬局でアフターピルが購入でき、多くの場合は無料。もしくは安価な価格となっている。日本では薬局でアフターピルは販売しておらず、費用も高額になっている。また、アフターピル以外も、イギリスでは低用量ピルやIUD/IUS、避妊インプラント、避妊シールなど、女性が主体的に行なえる数多くの避妊法があり、価格も無料もしくは安価なものとなっている。
日本では、2019年6月に開かれたアフターピルについてのオンライン診療検討会では、「若い女性は知識がない」「若い女性が悪用するかも」という意見が委員から飛び出し、そんな検討会の委員のうち女性は1人だけだったことが問題となった。
また、2020年7月29日の『おはよう日本』で、アフターピルを薬局で購入できるようにという女性達の声に対し、産婦人科医会の男性副会長が、若い女性に性教育が足りておらず、女性が安易な考えに流れると発言。男性の性教育の欠落には触れていないことや、女性の身体に関することを男性が決定していることなどについて批判の声があがった。
『セックス・エデュケーション』を通して、男らしさなどについて考えたというエリック役のチュティ・ガトヮは、英Glamourにこう話している。
「男性ももっと、女性の仲間にならなくてはいけない。女性を説明する時に、もっとエンパワメントな言葉を使う必要がある」
(フロントロウ編集部)