全米映画俳優組合(SAG-AFTRA)のストライキがついに終了。スタジオ側との新たな契約では、セクハラ防止条項のなかでインティマシー・コーディネーターの採用を推奨する項目が追加されたと、組合の交渉委員が明かした。一方で、全現場に配置したくても数が足りないという課題も。

新契約に盛り込まれた「インティマシー・コーディネーター」とは?

 インティマシー・コーディネーターとは、セックスシーンやヌードシーンなどのインティマシー・シーンの撮影で実際に現場に立ち会い、シーンの振付をし、俳優を身体的・精神的にサポートする重要な存在で、俳優と制作サイドの間のコミュニケーションを取り持つ役割も担っている。

 これまで、性的なシーンは俳優たちの演技や、監督の演技指導に任されてきた。しかし、肌を見せて性的な行為を行なうシーンの撮影は、俳優にとっては精神的にも身体的にも負担のかかること。

 その問題を是正するために登場したのがインティマシー・コーディネーター。MeToo運動によって更に注目が集まり、2018年には米HBOがすべての性的なシーンの撮影現場でインティマシー・コーディネーターを配置すると発表するなど、各社で起用が広がっている。

画像: エル・ファニング

エル・ファニング

 俳優サイドからも好評で、セックスの描写が「重要」な役割を果たすドラマ『THE GREAT ~エカチェリーナの時々真実の物語~』で主人公を演じたエル・ファニングは、「(インティマシー・コーディネーターは)私たちと一緒にシーンの振り付けをしてくれて、みんなが快適に過ごせるように、ものすごく安全で自由な環境を作ってくれた。だから、私たちはある種、周りを気にすることなく存分に恥ずかしい思いをすることができて、自由に、安心して演じることができた」とフロントロウ編集部にコメント

画像: フィービー・ディネヴァー(右)

フィービー・ディネヴァー(右)

  『ブリジャートン家』でのマスターベーション・シーンの演技をインティマシー・コーディネーターに援助してもらったフィービー・ディネヴァーも、『セックス・エデュケーション』でマスターベーション・シーンを演じたエイサ・バターフィールドも、インティマシー・コーディネーターの存在が演技の質に大きく貢献したとしている。

インティマシー・コーディネーターに関する契約の詳細

 全米映画俳優組合(SAG-AFTRA)がハリウッドのスタジオと新たに交わすことになった契約書には、初めてインティマシー・コーディネーターについての記述が加わったという。

  • プロデューサーは、ヌードや性行為を含むシーンについてインティマシー・コーディネーターを派遣するよう最善の努力を払う。
  • プロデューサーは、出演者または出演者の代理人による、他のシーンでインティマシー・コーディネーターを雇うというリクエストを誠意を持って検討する。
  • プロデューサーは、インティマシー・コーディネーターを要請した出演者に対して報復してはならない。
画像: インティマシー・コーディネーターに関する契約の詳細

 SAG-AFTRA交渉委員会理事兼理事のケイトリン・デュラニー氏は、米Rolling Stoneのインタビューで、撮影現場でインティマシー・コーディネーターを継続的に起用していくことは、俳優側にとって意義深いものであると話した。

 「不快な経験、もしくはトラウマ的な経験をするのが非常に一般的だと思います。それはまったく健康的ではありません。ですから、これを契約に含められたことは大きな勝利です」

 交渉委員のジャック・マルケイ氏が、セクハラ防止条項はストライキ前からSAG-AFTRAとスタジオが合意することができた最初の契約の一つだったと述べていることからも、インティマシー・コーディネーターの起用拡大はスタジオ側も真剣に考えていることのよう。

  組合は当初、インティマシー・コーディネーターを必須としていたが、全ての撮影現場に派遣できるほど十分なコーディネーターがまだ存在していないため、「プロデューサーが最善の努力を払う」という文言に変更された。そしてこの「最善の努力」とは、最善の努力をしなければ訴訟の対象となる可能性があるという意味だとも語っている。

 フロントロウ編集部がインティマシー・コーディネーターの第一人者であるイタ・オブライエンに取材したとき、この職業は「よくトレーニングされた」人物でないと危険性があることを警告していたが、だからこそハリウッドでもまだ人材が足りないということなのだろう。

将来的にはインティマシー・コーディネーターもSAG-AFTRAの会員へ

 現在、インティマシー・コーディネーターにはSAG-AFTRAの会員になる資格はない。

 しかし、SAG-AFTRA会長のフラン・ドレッシャー氏は2022年に「インティマシー・コーディネーターをSAG-AFTRAファミリーに迎え入れ、他のメンバーがすでに享受しているような利益と保護を、彼らが確実に受けられるようにすることに尽力している」と述べた。

 俳優を守る存在であるインティマシー・コーディネーターも、俳優と同じように労働組合によって適切にサポートを受けられる立場になることが求められている。

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