社員の最低年収を770万円に
2015年に、自身の年収を1億2,000万円(110万ドル)から770万円(7万ドル)に減らし、代わりに社員の最低年収を7万ドルにすると発表した決済代行会社Gravity PaymentsのCEOダン・プライス氏。当時30歳という若さで大きな決断をした彼は称賛され、一躍時の人となったけれど、一方で、社会主義的だ、売名行為だ、といった批判も多かった。
彼はその決断をした理由の1つに、友人の家の家賃が約2万円(200ドル)あがることになり、その支払いに苦労している様子を見たことがあると、英BBCのインタビューで明かしている。また、従業員にも直接給与について意見を言われ、長らくアメリカで問題となっている、経営者と従業員の収入の差が尋常でないほど大きいことについて、その状況も変えたいと考えていたこともあるそう。
7万ドルという金額を設定したのは、プリンストン大学の行動経済学者であるダニエル・カーネマン教授による有名な研究が基となっている。それによれば、年収830万円(7万5,000ドル)までは収入とともに幸福感も増していくけれど、7万5,000ドルを超えると、収入と幸福感の相関関係は薄くなるという。
この5年間で会社はさらに成長
当時彼の会社では、新入社員の年収は約390万円(3万5,000ドル)で、プライス氏の決定により、70人の社員が昇給、そのうち30人は年収が倍増することとなった。一方で、彼の決定に不満を持った上級社員が2人辞めたり、会社の共同設立者である兄に裁判を起こされたり(のちにプライス氏が勝訴)と、様々な出来事が彼を襲った。しかし、そんな決断から5年が経ち、彼は自分の判断は間違っていなかったと声を大にして言える成功を収めたよう。プライス氏はツイッターで、こう報告した。
「2015年に、会社での最低賃金を7万ドル(約770万円)にした時、(保守派の大物ラジオ司会者)ラッシュ・リンボーは、『この会社は、ソーシャリズムは上手くいかないというMBA(経営学修士)の講義でのケーススタディになればいい。失敗するだろうからな』と言った。
その時から、私達の会社は3倍に成長し、ハーバード・ビジネス・スクールの成功例のケーススタディとなっている」
「2015年に7万ドルの最低賃金を始めてから
・私達のビジネスは3倍に成長した
・自分の家を持つ従業員数が10倍になった
・退職金制度401Kへの支払額は倍になった
・70%の従業員が借金を返済した
・子供を持つ従業員数が10倍になった
・転職率が半分になった
・76%の従業員が積極的な姿勢で仕事に取り組んでいる、これは国平均の2倍」
決断した後に発生した良かったこととして、ビジネスの成長だけでなく、従業員の生活の向上を数えていることに、プライス氏の人柄が現れているといえるこの発表。またプライス氏は、新型コロナウイルスの影響で多くの人が失業したり、給与がもらえなかったりするなか、アマゾンのジェフ・ベゾス氏や実業家のイーロン・マスク氏など、多くの世界的実業家達がその資産額を莫大に伸ばしていることについて苦言を呈している。(フロントロウ編集部)