ルピタ・ニョンゴがチャドウィック・ボーズマンを追悼
大腸がんとの約4年におよぶ闘病の末、この世を去ったことが米現地時間の8月28日に公表された俳優のチャドウィック・ボーズマン(享年43歳)。
チャドウィックが、主人公のブラックパンサー/ティ・チャラを演じたMCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)映画『ブラックパンサー』で、幼馴染で元恋人である女スパイ、ナキアを演じた俳優のルピタ・ニョンゴは、数多くの共演者たちやMCU作品でヒーローを演じる役者たちらがチャドウィックへの追悼メッセージを寄せるなか、2週間以上にわたって頑なに沈黙を貫いてきた。
プライベートでも慕っていた友人でもあるチャドウィックを失った悲しみを、なかなか言葉にして表現することができなかったというルピタは、カリフォルニア州マリブで、家族や友人、『ブラックパンサー』の共演者たちを集めて行なわれたチャドウィックの追悼式に出席した翌日の9月8日、インスタグラムを通じて、最高の笑顔のチャドウィックとハグを交わす思い出の写真を公開し、長文メッセージを綴った。
以下、ルピタの追悼メッセージをフロントロウが全文訳。
「大きな希望を持っていたある1人の男性を称えるこのメッセージを絶望とともに綴っています。友人であるチャドウィック・ボーズマンについて“過去形”で考えたり、語ったりすることに苦戦しています。だって、信じられないから。
彼が亡くなったという報せに、毎朝、まるでお腹にパンチを食らっているような気分です。私たちが、いつかはみんな死ぬということは解っているけれど、まるで不死身かのようなエネルギーを持っている人たちっているでしょう? 前世からずっと存在しているかのような。いつも、いるべき場所にいて、年を取ったりもしないような…。
チャドウィックは、そういう人の1人でした。チャドウィックは、与えられた時間を最大限に活用しながらも、ゆっくりと時間をかけて物事に取り組む人でした。私はそんなに長い時間を彼と過ごせたわけではないけれど、彼と過ごした時間は私に大きな影響を与えてくれました。
『ブラックパンサー』で共演した時、私は、彼の静かながらパワフルな存在感に感銘を受けました。彼はまったく気取らない人でしたが、みんなよりも高い周波数で機能しているかのような人でした。その場にしっかりと存在していながらも、遠い未来に目を向けているような、そんな人でした。私は、そんなチャドウィックが焦っているところを一度も見たことがありません。彼は、自分に与えられた時間を自由に操っているかのようでした。
彼は私たちと一緒に、全力で仕事をしていました。すべてのリハーサルやトレーニング、撮影に気合いの入った顔つきで参加していました。彼は物事をすぐに吸収し、機敏でした。寛大な心で仕事に取り組み、他人にエゴを押し付けずに、自らがお手本となり、職場環境のハードルを上げていました。
彼はいつも、あたたかい眼差しで見守ってくれ、力強いハグをしてくれました。彼の大きな手が私の肩をギュッと掴むと、自分でも気づいていなかった緊張が解けていくようでした。チャドウィックの手は、映画の重みをしっかりと受け止める強さを持ちながらも、私が必要としているときには、肩をギュッと掴んで励ましてくれる余裕も持っていたのです。彼が口にする言葉も非の打ち所がないほど完璧でした。私は彼が文句を言っているのを一度も耳にした事がありません。文句を言いたくなるような事がいくつもあったのに。彼は言葉が持つパワーをよく理解していたのだと思います。だからこそ、自分の言葉を使ってパワーを明示していたのではないでしょうか。彼は言葉というものを、誰かや何かを破壊するためではなく、何かを築いたり、人々を啓発するために使っていました。ときには、後悔してしまいそうなくらいダサい“お父さんジョーク”を口にすることもありましたが。
彼は自分に抗わない方法を鍛錬していました。彼は自分を本当に愛しているようでした。自分はどんな人間なのかを表現し、あえて笑顔を見せないこともありました。彼は自分というものを受け入れていました。だからこそ、たくさんの人を深く愛することができたのだと思います。
彼は自分の肉体を最大限に活かしていました。スタントも自分で演じたり、自分のパーティーなのに自分でドラムを演奏したり、いくつもの夜を踊り明かしたり、武道をマスターしたり…数え出したらきりがありません。彼は自分の肉体を愛し、称え、尊重し、限界以上のことをしてきました。彼は、それによって、命をリスクにさらし、最大限に生きたのです。だから、まるで、チャドウィックが命を諦めたのではなく、命のほうがチャドウィックを諦めたかのようでした…。チャドウィックのそばにいると、私は、細かい事など気にせず、しっかりと目的を持った、より良い自分になりたいと感じました。彼は、恐れではなく愛によって活力を得ていました。静かに、慎重に、他人に自分や自分のアイディアを押し付けたりすることのないように行動していました。
そうしながらも、自分に与えられた命の意味を確実にまっとうしていたのです。それに関しては揺るぎない信念を持っていました。自分の仲間である黒人の人々の人間性について、深く考え、私たちのプライドを活性化させてくれました。そして、高い目的を持って成し遂げることを選んだ映画により、彼は永遠を手に入れたのです。私たちは彼の貢献や存在により、(エネルギーを)チャージされました。彼のパワーはこれからも生き続け、次の世代へと鳴り響きます。彼は自分の命をかけて、有意義な物語を伝えました。今度は私たちが彼の物語を伝える番です。
チャドウィックの死は、私にとって容易に受け入れられたり、冷静に処理できる出来事ではありません。時間が経てば、もしかしたら…。でも、私は、思う存分時間をかけるつもりです。そして、彼の名誉にかけて、自分に与えられた時間を無駄にはしません。みなさんもそうしてくれることを願っています。
彼の家族や友人、そして、このフレーズをはっきりと響き渡らせるように口にしていた彼の最愛の妻シモーン(※)に心からお悔やみを申し上げます。
#TakeYourTimeButDontWasteYourTime」
※2015年からチャドウィックと交際し、2019年10月にチャドウィックと結婚したシンガーのテイラー・シモーネ・リドワード。
チャドウィックの「時間の使い方」
ルピタが最後に添えていた「#TakeYourTimeButDontWasteYourTime(時間をかけて、でも、時間を無駄にしないで)」というハッシュタグは、おそらく生前のチャドウィックが口にしていた格言か、彼の生き方を的確に表現した格言。
自身から見たチャドウィックが一体どんな人物だったのか、彼の寡黙ながらもひたむきな仕事や人生に対する姿勢が伝わって来るルピタの追悼メッセージには、シンガーのジョン・レジェンドやジャネール・モネイ、シアラ、俳優のガブリエル・ユニオン、ケリー・ワシントンといったセレブたちからも共感のコメントが寄せられるとともに、100万人以上が賛同している。(フロントロウ編集部)