2020年10月2日に日本公開となる映画『フェアウェル』のルル・ワン監督にフロントロウ編集部が取材。本作にかけた想いや作中の表現について詳しくインタビュー!(フロントロウ編集部)

※この記事には映画『フェアウェル』のネタバレが含まれます。

延期を乗り越え公開『フェアウェル』

 映画『フェアウェル』は、映画『オーシャンズ8』や『クレイジー・リッチ!』で知られるオークワフィナが主演を務め、ゴールデン・グローブ賞で主演女優賞を受賞したヒューマンドラマ。2019年7月12日に全米たったの4館で限定公開されるとすぐ、同時期に公開されていた映画『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』や『アラジン』に迫る勢いの興行収入を記録し、891館にまで公開が拡大し、大好評を得た。

 2019年のサンダンス映画祭でプレミア上映された際は、アマゾン・スタジオやNetflix、フォックス・サーチライト・ピクチャーズなど、名だたる映画会社が配給権をめぐって争い、6億5,000万円以上(600万ドル)の価格でA24が上映権を獲得。本作は非常に評価が高く、米批評サイトRotten Tomatoesでは99%のスコアを記録している。

 監督を務めたのは、米Varietyの“2019年に注目すべき監督10人”に選ばれた注目の女性監督、ルル・ワン。『フェアウェル』は、そんなルル・ワン監督の身に実際に起こった「嘘」をもとに作られた作品。中国に生まれアメリカで育った監督ならではの感性で、優しい「嘘」を描き出す。 

画像: 主演のオークワフィナ

主演のオークワフィナ

 今回、映画『フェアウェル』の公開を記念して、フロントロウではルル・ワン監督に取材を決行。新型コロナウイルス感染拡大の影響により、惜しくも来日が叶わなかった監督はスカイプインタビューの中で、劇中に登場するシーンの意味するところや、本作にかけた想いなどを答えた。

映画『フェアウェル』ルル・ワン監督インタビュー

画像: 映画『フェアウェル』ルル・ワン監督インタビュー

結婚式で新郎新婦が日本の童謡『竹田の子守唄』を歌っていました。どうしてあの曲を選んだのでしょうか?

 ルル・ワン監督:実際に私のいとこと奥様が結婚式で本当に歌った曲だったから。曲も面白いと思ったけどリアルに、もっとより寄り添うためにあの曲を選びました。

オークワフィナはこの撮影のために北京語を学んだと聞きました。ビリーは、「ゴンシー」(おめでとう)という簡単な言葉も知りませんでしたが、何か意味はありますか?

 ルル・ワン監督:それは私があえて選択したというよりも、例えば中国ではよく使われる言葉かもしれないけれども、ほかの国で育っている私のような人は母親に聞くまでその言葉の意味を知らなかったんです。結婚式にも行ったことがなかったしその言葉を聞く機会もなかったので知りませんでした。移民の子供たちが体験する、言語的に何を知っているか、何を知らないかっていうのは、それらの言葉を使うきっかけがあるか、ないか、なだけで、特に論理があるわけではないと思っています。

本作では、鳥が象徴的です。部屋の中に迷い込むシーンや、木から一斉に飛び立つシーンです。監督にとって「鳥」は何を意味するのでしょうか?

 ルル・ワン監督:「信じる気持ち」みたいなものを象徴しています。もしかしたら私たちのこの物理的な世界を超えたところに、より大きな何かがあるのかもしれないとほのめかしているのですが、例えばスピリチュアルなものを信じている人であれば、劇中のように国をまたいで同じような鳥が2回窓辺にやってきたら何かそこには意味があるのではないかと思う、と私は考えています。でもそういうことをまったく信じない人にとっては何の意味も持たないわけだから、決めつけることはなくその可能性を示唆させる形で取り入れています。

画像: 本作では、鳥が象徴的です。部屋の中に迷い込むシーンや、木から一斉に飛び立つシーンです。監督にとって「鳥」は何を意味するのでしょうか?

 かつての時代はすべてが白か黒か二つのものしかない世界だったのが、今はより複雑にいろいろなニュアンスを持つ世界になってきていて、しかもそれがいろんな形で交錯もしていく、だから人は一度にいろいろなものでありえる時代になってきていると思います。(ルル・ワン監督)

オークワフィナさんやルル監督のように、2つの全く異なる国にルーツを持つ人がどんどん増えています。このような人たちに対して、昔は「どちらが」母国という見方がされてきましたが、それが「どちらも」母国という印象へと少しずつ変わってきていて、それには本作や『クレイジー・リッチ!』といった映画の影響力が大きいと思います。それについてどう思われますか?

 ルル・ワン監督:その通りだと思います。私は国粋主義的な考え方は全く信じていなくて、自分の「母国」みたいな考え方というのも、例えば文化的なルーツはあれど、そういったものが段々なくなってきているのではないかとも考えています。つまり自分の文化的なルーツというのに人は深くつながっているとは思いますが、かつての時代はすべてが白か黒か二つのものしかない世界だったのが、今はより複雑にいろいろなニュアンスを持つ世界になってきていて、しかもそれがいろんな形で交錯もしていく、だから人は一度にいろいろなものでありえる時代になってきていると思います。実は私が興味を持っている物語はそういうストーリーなのです。分かりやすく言うと、いろんな文化を持っている方とか、生まれと育ちが違う場所の方とか、移民の物語とか。

本作の中国でのタイトルは『Don't Tell Her(彼女に言わないで)』です。『farewell(別れ)』とは少し意味が違いますが、監督ご自身で考えたのですか?どちらの方が気に入っていますか?

 ルル・ワン監督:実は中国のタイトルは私が決めたものではないのです。でも決める際に私の母が手伝いました。中国のプロデューサーと中国の配給会社さんが最終的には決めました。同じ「farewell」という言葉を中国語にしてしまうと、英語よりもよりダークな意味合いになってしまうそうで、簡単なサヨナラとは違うもっと深い意味を持ってしまうようです。せっかく英語で持っているメランコリックな甘さみたいな意味がなくなってしまうと思い、最終的にこの「Do n't Tell Her」にしました。

 映画『フェアウェル』は2020年10月2日に日本公開。(フロントロウ編集部)

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