ヤングブラッドが新作『ウィアード』をリリース
「火星に生命は存在しますか? 火星に生命は存在しますか?」イギリスはドンカスター出身の23歳のアーティストであるヤングブラッドことドミニク・ハリソンは、12月4日にリリースしたセカンドアルバム『ウィアード!(weird!)』に収録された楽曲「mars」で、自分を受け入れてくれる場所を探し求め、すがるような歌声で何度もそう問いかけている。
遠く離れた火星をユートピアに見立てながら、ここではないどこかへ逃避したいという切なる願いを歌うこの楽曲は、ヤングブラッドが過去に実際に出会ったという、トランスジェンダーの少女について書いた1曲。ヤングブラッドはこの曲で次のように歌っている。「そこでは誰もが彼女のことを気に入ってくれる/友達みんなが彼女に電話をくれて/朝の4時まで話してくれるんだ」
ヤングブラッドが前作から2年半ぶりにリリースした待望の新作『ウィアード!』は、“変わり者=Weird”というタイトルに込められているように、すべての人たちの“ユニークさ”を祝福するアルバムとなっている。
掛け替えのない自分らしさを「人とは違っている」とネガティブな方向に考え、自分は「変わり者」ではないかと悩んだ経験が誰しも一度はあるはずだけど、どうか安心してほしい。火星に生命は存在しないかもしれないが、少なくともこの地球には、あらゆる「変わり者」たちを受け入れてくれるヤングブラッドというアーティストが存在する。
マシュメロやマシン・ガン・ケリー、ダン・レイノルズ(イマジン・ドラゴンズ Vo.)、ブリング・ミー・ザ・ホライズンら名だたるアーティストたちとのコラボ歴を誇り、現地時間11月8日にリモートで開催されたMTVヨーロッパ・ミュージック・アワード2020では、最優秀“MTV PUSH”賞を受賞したヤングブラッド。
そんな、最も将来を期待されているアーティストの1人である彼に今回、フロントロウ編集部がインタビューを実施。新作『ウィアード!』についてはもちろん、幼少期に影響を受けた音楽や、ジェンダーフリーなファッションへのこだわり、テイラー・スウィフトとアヴリル・ラヴィーンへの愛、そして、元交際相手であるホールジーと参加したBlack Lives Matter(ブラック・ライヴス・マター)運動についてまで、あらゆるトピックに情熱をもって答えてくれた。
ヤングブラッドにインタビュー
ヤングブラッドとは、マネージャーに(※“勢いのある新人/若手”を意味する)「young blood」と呼ばれていたことから付けられた名前だそうですね。この名前は今もご自身やその音楽性を表していると思いますか?
「『自分のことをどう呼んだらいいだろう?』と思っていた時のことを覚えてる。ドミニク・ハリソンだと、少し丁寧な感じがするからね。部屋に入ってきたマネージャーから『ヤングブラッド』と呼ばれて、いい響きだなって思ったんだ。大切な名前だよ。俺たち全員を表していると思ってる。ヤングブラッドとはそもそも、俺だけのことを表している名前ではないんだ。ヤングブラッドというのは、俺たち全員であり、コミュニティなんだ。自分が言いたいことを体現してくれるものだと思ってる。一緒になって作っていくものなんだよ。要するに、ヤングブラッドは、それに接するそれぞれの人にとって違う意味を持つ。俺は55歳になってもヤングブラッドと呼ばれているだろうね。意味は変わらないからさ」
自分たちの世代を代表する責任は感じていますか?
「俺は世代の声の一つに過ぎないよ。大きな声をあげている俺たちの世代のね。俺は彼らと同じだよ。一緒になって取り組んでいるんだ。1人で何かを変えるわけじゃないからね。1人では何も変えることができない。何かを変えるには、集団になる必要がある。そうでしょ?」
ヤングブラッドの音楽は、ロックやヒップホップ、エモなど様々な音楽がミックスされたものになっていると思います。幼少期はどのようなアーティスト、音楽から影響を受けましたか?
「オアシスは好きだし、マリリン・マンソンやレディー・ガガも好きだよ。クイーンや、ザ・ローリング・ストーンズ、マイ・ケミカル・ロマンスも大好きだったね」
そんなご自身の音楽を一言で表すとしたら、どんな言葉になるでしょう?
「『情熱的(Passionate )』だね」
以前、BBCでテイラー・スウィフトの「Cardigan」とアヴリル・ラヴィーンの「I'm With You」のマッシュアップを披露されていましたよね。どうしてこれを思いついたのでしょう?
「アヴリルのことがずっと好きだったから、アヴリルを演奏したいと思ったんだ。それに、テイラーの新作(※『フォークロア』)も最高だったからさ。ボン・イヴェールとやった曲(※「exile」)は素晴らしいよね、驚いたよ。予想外だったけど、今の世界情勢を考えると、すごく必要とされているものだと思った。それで、どうにか2曲を組み合わせられないかって考えたんだ。2つの時代を代表するような曲たちをね。アヴリル・ラヴィーンの曲は8分の6拍子で、テイラー・スウィフトの曲は4分の4拍子だったんだけど、組み合わせて広げてみたら、すごくうまくいったんだ。サプライズだったよ。最高だったね」
これまで多くの名だたるアーティストたちとコラボしていますが、今後コラボしてみたいアーティストはいますか?
「亡くなっている人と存命の人の両方でもいいかい? 亡くなっている人なら、デヴィッド・ボウイ。存命の人なら、レディー・ガガかマリリン・マンソンかな」
そして、12月4日にニューアルバムをリリースするわけですが、そのタイトルは『ウィアード』となっています。名付けた経緯について教えてください。
「このアルバムは、今起きている世界的なパンデミックすら忘れさせてくれるようなものになっている。人生における最も奇妙(ウィアード)な時期についてのアルバムなんだ。『ウィアード!』と名付けたのはそういう理由だよ。これは人生についてのアルバムで、聴く人の年齢に関係なく、大人になることや、年を取ることについてのアルバムになってる。例え75歳の人でも、15歳の頃に戻ることができる。どんな年齢の人でも、自分自身のことを理解できるようなものになっていて、人生についての、ストレートウィスキーみたいな作品なんだよ。ジェンダーやセックス、ドラッグ、愛、失恋、うつ病、不安、痛みの中で、自分自身のアイデンティティを見つけるための作品なんだ」
この世の中で“ウィアード=変わり者”でいることは決して簡単なことではないと思います。そのようなストレスにはどう対処していますか?
「俺にはコミュニティがあるからね。それが答えかな。自分にはあまり友達がいないと感じていたり、孤独や、閉塞感を感じたりしている時には、(コミュニティの仲間に向けて)真実を話して、ありのままの自分になってみること。そうすれば、自分の人生に必要な人たちを見つけることができる。自分自身のことを少しでも隠してしまえば、本当の自分を理解してくれる人たちなんて見つけられないし、間違った人たちを見つけることになる。言っていることわかるかい? 実際、変わり者でいることは難しいことじゃないんだ。人と違ったり、変わっていたり、クレイジーであったりすることは難しいことじゃない。真実を話しさえすれば、誰にも君の邪魔はできない」
「君にも、君にも、君にも夢中になる」と歌われる「cotton candy」のミュージックビデオでは、男性も女性も関係なく交じり合うシーンが印象的です。この楽曲や、ミュージックビデオに込めた思いを聞かせてもらえますか?
「この曲は、愛についての曲なんだ。自由な愛やその表現、究極的には、セックスについてのね。セックスやセクシャリティについての曲で、自分自身についてや、自分がどうなりたいか、自分が何を望んでいるか、これからどうなっていくかを定義しなければいけない時に降りかかるプレッシャーについて歌っている。言ってること分かるかな? いろいろなことにトライしてみようっていうことでさ。この曲を聴いて、『(他の人からどう見られているかなんて)どうでもいいな』って感じてくれたらと思ってる。自分自身をきちんと理解するためには、たくさんの人たちの交わる必要があるというのが俺の考えでさ。いろいろな人たちと多くのことにトライして、自分のことを表現してみる必要がある。何も、たくさんの人たちとセックスしろって言っているわけじゃない。会話をして、そこから学ぶということ。そうすることで、(自分自身が)明確になっていくと思うんだ」
ファッションについてはどうでしょう? 「cotton candy」のミュージックビデオでスカートを着用しているように、いつもジェンダーに捉われない服装をされていますよね。ファッションにはどのようなこだわりがありますか?
「単純に、クールだからだよ。スカートについては、特にその背景に込めた思いなんてない。意味をつける必要すらないと思うよ。時代遅れだよね。以前は、『男がスカートなんて履いてる』なんて言われていたけどさ。そんなのクソだよね。好きなものを着ればいい。スカートは女性だけのものなんて考え方は古いよ。好きなものや、自分が魅力的に見えるものを着ればいい。自分自身を誇れるようなものをね」
アルバムに収録されている「mars」では、実際に出会ったトランスジェンダーの女性について歌われているそうですが、このことについて聞かせていただけますか?
「今までに経験した中でも、特に印象的な話の1つなんだけどね。振り返ってみると、『ワオ、すげぇ』って思ってしまうような類の話なんだ。アメリカのメリーランドで出会った若い女性がいてね。その女性のことは一生忘れないと思うんだけど、彼女が俺に、自分はトランスジェンダーだけど、両親は自分が娘だということを理解してくれないということを話してくれた。ご両親はそういう(自分のアイデンティティに悩むような)『時期』だと思い込んで、理解を示してくれなかったらしいんだ。自分たちが思っていたような子じゃなかったということに、理解が追いつかなかったみたいでね。お金を貯めて、良い成績が取れたら、両親をヤングブラッドのショーに連れていきたいと言っていた。それで、彼女は実際にショーにご両親を連れてきてくれた。ご両親はそこで、彼女のような人々やキッズ、情熱、闘争心、そして、自分自身以外の何者にもならないという強い反骨心を目にしたんだ。ご両親はそれを目の当たりにして、彼女を娘だと認めてくれたんだよ。俺は衝撃を受けたね。俺たちのコミュニティの一員であり、俺にも関係があることだからさ。全員に関係があることだからね。そうやって1人の人生を変えたのかと思うと、衝撃だったよ」
ここ日本では、多くの人たちがセレブリティの活動を通してBlack Lives Matter(ブラック・ライヴズ・マター/※「黒人の命も大切」を意味する反人種差別のスローガン)について学びました。あなたとホールジーがデモ活動に参加したこともそうです。ホールジーと前線に赴いたのはどうでしたか? 加えて、Black Lives Matterとは直接関係がないと感じていたり、自分事として考えるのが難しいと考えたりしているファンに伝えたいことはありますか?
「まず言いたいのは、彼女は素晴らしかったということ。勇敢で、聡明で、情熱的な人だよ。理解していない人たちもいるかもしれないんだけど、ものすごくシリアスな闘いが起きているんだ。巨大な人種問題が世界を覆っているんだよ。2020年の今なお、無視され、抑圧されていると感じている人たちのコミュニティが存在する。(“すべての人たちが大切”と主張する)『オール・ライヴズ・マター』を実現するためには、まずは『ブラック・ライヴズ・マター』が重要なのは紛れもない事実だし、全員が向き合うべき問題だよ。一緒になって学び、闘っていくんだ。現場に赴いたことの何が素晴らしかったって、自分たちの健康や多くを危険に晒しながらも、正しいことを求めるという、そういう純粋な情熱と意志を感じられたことだね。これを変えていくのは俺たちの世代だよ。ずっと感じていることだけど、『黒人の命も大切』なんだよ。さっきも言ったように、黒人の命が大切にされるまでは、『全員の命が大切』にはならない。(黒人は)大きなコミュニティだし、人類の一部なんだからさ。2020年にもなったのに、まだ人種に対する抑圧があるなんて俺には信じられないよ。理解できないね。俺たちは全員が平等だ。平等でいる権利がある。肌の色が何色であれ、大きさがどうあれ、体型がどうあれ、セクシャリティが何であれ、意見がどうあれ、関係ない。声を聞かれ、愛され、自分は隣にいる人と同じだって感じる権利が誰しもにある」
最後に、日本の「ウィアード」なファンにメッセージをお願いできますか?
「ハロー、ジャパン! みんなのことが恋しいよ。早くみんなに会いたい。生まれてからずっと、君たちの国に行くのが夢だった。みんなと話をするのが待ちきれないし、早くモッシュピットに飛び込みたいよ。みんな、愛してる。早く会おうね。ウィアードでい続けて! そのままでいてね!」
ヤングブラッド
最新アルバム『ウィアード!(weird!)』発売中
(フロントロウ編集部)