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ハリー・スタイルズが、“男らしくない”洋服を着ることへの批判に静かに反撃。誰も傷つけないその方法が爽快。(フロントロウ編集部)

ハリー・スタイルズの“男らしくない”格好に批判

 2020年で結成10周年を迎えた英ボーイズグループ、ワン・ダイレクションのメンバーで、ソロシンガーとしても成功を収めているハリー・スタイルズは、11月に発売された米Vogue誌の12月号で、男性としては単独で初めて、歴史あるファッション誌であるVogueの表紙を飾った。

 ステージ衣装やレッドカーペットイベント、そして私服でも、一般的には女性が身に着けることが多いレースやパール、フリルといったディティールや色合いのアイテムを多用し、ジェンダーの枠にとらわれないファッションを楽しんでいることで知られるハリーは、Vogueの表紙や誌面でも、ドレスやスカートを取り入れた着こなしを披露。

 さらに、誌面のインタビューでは、「服というのは、楽しんだり、実験したり、遊んでみたりするためにあるんだよ」、「『男性のための服があって、女性のための服がある』っていう障壁さえ取り除けば、言うまでもなく、楽しむことのできる領域が広がることになる」と、ジェンダーによる暗黙の制約を取り払えば、おしゃれはもっと楽しくなるはずだと持論を語った。

 “男らしさ”にまつわる既成概念を打ち破る、現代を代表するファッションアイコンの1人としてさらに注目を集めたハリーだが、一部では、ハリーが“女性用”と言われてきた洋服を身に着けて、世界的に注目度が高いVogue誌に登場したことに難色を示す人々も現れた。

 その代表格が、保守派のコメンターとして知られるキャンディス・オーウェンズ氏。オーウェンズ氏は、ツイッターでハリーのドレス姿の写真を添付したVogueのツイートを引用し、「強い男性なくして生き残った社会などありません。東はこれを知っています。しかし、西では、子供たちにマルクス主義(※)が教えられるのと同時に、男性たちの女性化も教えられている。これは単なる偶然ではないでしょう。これは明らかに(社会への)攻撃です。男らしい男性を取り戻しましょう」と、ハリーが、まるで男性たちに“男らしさ”を失うよう仕向けるプロパガンダを担っているかのように批判。

画像: アメリカの保守派の作家・政治評論家、政治活動家であるキャンディス・オーウェンズ。当初はドナルド・トランプ大統領や共和党に批判的だったものの、その後、支持に回る。トランプ政権を支持し、ブラック・ライヴズ・マターや民主党に批判的な黒人女性として言論界で活躍している。

アメリカの保守派の作家・政治評論家、政治活動家であるキャンディス・オーウェンズ。当初はドナルド・トランプ大統領や共和党に批判的だったものの、その後、支持に回る。トランプ政権を支持し、ブラック・ライヴズ・マターや民主党に批判的な黒人女性として言論界で活躍している。

 オーウェンズ氏は、自身が、真面目で伝統を重んじる気質と言われるアメリカ東海岸の全体の思想を代表するかのように、開放的で自由な気質だといわれる西海岸の思想教育にまつわる陰謀説を匂わせた。

※ドイツの思想家カール・マルクスとフリードリヒ・エンゲルスによって展開された資本を社会の共有財産に変えることにより、“労働者が資本を増殖するためだけに生きる”という賃労働の悲惨な性質を廃止し、階級のない協同社会をめざす思想。


「男らしい男性たちを取り戻せ」

  オーウェンズ氏が言う“男性は強くあるべき”という考えが、そもそも、昨今問題視されている、 「トキシック・マスキュリニティ(有害な男らしさ)」<※>の典型的な例だと指摘する人々からは反論が続々。

画像: ※トキシック・マスキュリニティ(有害な男らしさ)とは、「男はこう振る舞うべき」、「男はタフでなくては」というステレオタイプ的な行動規範を男性たちに押し付けること。近年、男性のメンタルヘルスや多様性に悪影響を与えている可能性が指摘され、問題視されている。

※トキシック・マスキュリニティ(有害な男らしさ)とは、「男はこう振る舞うべき」、「男はタフでなくては」というステレオタイプ的な行動規範を男性たちに押し付けること。近年、男性のメンタルヘルスや多様性に悪影響を与えている可能性が指摘され、問題視されている。

 ハリーが出演する映画『Don’t Worry Darling(原題/ドント・ウォーリー・ダーリン)』の監督であり、Vogueの誌面でも「彼はトキシック・マスキュリニティとは無縁の男性としての自信を持っている人。彼の世代、すなわち、この世界の未来を象徴するような存在」と絶賛した俳優のオリヴィア・ワイルドや、ドラマ『Scrubs〜恋のお騒がせ病棟』の俳優ザック・ブラフといったセレブたちもハリーを擁護したが、オーウェンズ氏は自身の主張を取り下げることはなく、逆に「#BringBackManlyMen(男らしい男性たちを取り戻せ)」というハッシュタグを立てて、SNSでの抗議運動を先導した。


ハリーの誰も傷つけない「反撃」が冴えわたる

 この様子を静観していたハリーが、ついに、反対派からすると“男性らしくない”という格好をすることへの否定的な意見に反論。その方法が、なんともユニークでセンスが光るものだった。

 新たに米Varietyの表紙を飾ったハリーは、誌面に掲載された、ウェストラインが絞られたパロモ・スペイン(Palomo Spain)の淡いブルーのペプラムジャケットに、白いシースルー生地がプリーツ加工されたブラウスをINしたスーツ姿で、男性器を連想させる“バナナ”をかじる姿の写真をインスタグラムにアップ。

 キャプションには、オーウェンズ氏が発した「Bring Back Manly Men」というメッセージをそっくりそのまま応用していた。

 オーウェンズ氏が「#BringBackManlyMen」、または省略形である「#BBMM」というハッシュタグを使って同志たちに呼びかけるようなってから、ハリーの服装や表現の自由を擁護する人々は、あえてこのハッシュタグを使って、ハリーのドレスやスカート姿の写真はもちろん、女性物と言われる洋服を身に着けた男性セレブや知人男性たちの写真を投稿するなどして対抗してきた。どうやらハリー本人も、今回の投稿を通じてこの流れに乗り、“自由におしゃれを楽しむことこそが、真の男らしさ”だと暗にメッセージを発信したよう。

 Varietyとのインタビューでは、「女性用の服だからって何かを着ないなんて、素晴らしい洋服の世界をまるごとシャットアウトするようなもの」と、Vogueで語った内容を違う言葉で念押ししたハリー。「今は、何だって好きな物を着る時代で、それが面白いんだよ。XかY(※)のどちらかに決めなくたっていい。そういう境界線はどんどん曖昧になってきているんだ」と、ファッションの世界ではジェンダーに基いて、何を着るべきかはっきりと区別する必要はないと感じていると語った。

※男女の生物学上の性別を決める性染色体の「X」と「Y」を指しているとみられる。男性は「XY」、女性は「XX」のペアとなることで生物学上の性別が決まる

 オーウェンズ氏やそのほかの反対派の人々を名指しにするわけでもなく、自身への向かい風を完全に逆手にとったハリーの反論の仕方には、思わず拍手を送りたくなる。

 ちなみにハリーは、ファッション界の大手オンライン検索エンジンである英Lystが毎年発表している、その年のファッショントレンドに最も大きな影響を与えたセレブリティを称える「パワードレッサー」リストの2020年版で、男性としては史上初めてトップに輝いている。(フロントロウ編集部)

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