“選ばれし者”だけが参加中 次世代SNS「クラブハウス」
フェイスブックやツイッター、インスタグラム、TikTokといった、独自の個性や機能を持つソーシャルメディアが人々の生活に根ざすなか、海外で新たに注目を集めているのが、音声共有型SNSアプリ「クラブハウス(Clubhouse)」。
世界中のビジネスマンが注目する、“スタートアップの聖地”ことアメリカ西海岸のシリコンバレーを中心に話題が拡散したこの次世代SNSは、2020年初頭にはユーザー数がゼロだったにも関わらず、その高い可能性が見込まれて、5月には過去に前例を見ない時価総額1億ドル(約107億円)もの資金を調達した。
現時点では、まだベータテスト版のため、一般公開されておらず、招待を受けた“選ばれし者”たちしか使うことができないというクラブハウス。
3500人あまりと言われるVIPユーザーには、アメリカ国内や世界のビジネスを牽引する重鎮らやアクティビスト、有名スポーツ選手にくわえて、大物司会者のオプラ・ウィンフリーや、投資家としての顔も持つ俳優のアシュトン・カッチャー、映画『スーサイド・スクワッド』のジョーカー役や、マーベル最新作『モービウス』で主演を務めるジャレッド・レト、ラッパーのドレイクといったショービズ界で活躍するAリストセレブたちも含まれるほか、ラッパーのジェイ・Z&シンガーのビヨンセ夫妻も、招待を受けたようだと伝えられている。
シリコンバレーでは、次に来るSNSとして熱視線を浴びているクラブハウスだが、一体、既存のSNSとはどう違う?
クラブハウスってどんなSNSアプリ?
クラブハウスをひと事で表現するとしたら「声のSNS」。
平たく言うと、ツイッターはおもに「文字」、インスタグラムは「写真」、TikTokは「動画」、フェイスブックはそれらすべてを使って交流するが、Clubhouseはビジュアルは用いず、「音声」を通じて今の気持ちや考えなどを多くの人々と共有してコミュニケーションを図るツール。
クラブハウスのユーザーたちは、バーチャルなチャットルーム(会議室)を立ち上げて、ほかのユーザーたちと親密な音声通話ができる。好きな話題について、自由にトークを繰り広げられるのだが、その雑談の場では顔の見えない傍聴人たちが耳を澄ませていたり、この傍聴人たちが、挙手をして質問したり、議論に参加したりすることもできる。
感覚としては、ポッドキャストの生配信にリスナーたちが参加できるというのに近い。例えば、バスケ好きで知られるドレイクとある元NBA選手がバスケ談義に花を咲かせているのをバーチャルで“立ち聞き”したり、横から(相手の許可を得たうえで)口を挟んだりできるというわけ。
録音機能がないため、「今しか聞けない」というワクワク感や希少さもある。
セレブや著名人のレアな話が聞ける
ドレイクの例はあくまでも用途の説明上の例えだが、実際にセレブがクラブハウスのチャットルームに出没し、知られざる裏話を披露したケースもある。
12月初めには、13歳でデビューし、20億円以上を稼ぐ大人気ラッパーとなったバウ・ワウが、ヒップホップ界の大物であるスヌープ・ドッグに才能を見出され、その後、大御所音楽プロデューサーのジャーメイン・デュプリと契約を結んだというキャリアの起源や、スターへとのぼり詰めてからの苦悩などを赤裸々に語ってツイッターでトレンド入り。
“じつはあのアーティストとのコラボは当初別のアーティストとするはずだった”といった全盛期の裏話などを明かして、音楽ファンたちを沸かせた。.
なんでみんな使いたがっている?
セレブや著名人たちの、ほかでは聞けない話が聞けるという貴重さもあるが、海外の人々がクラブハウスに「今すぐ招待されたい!」と熱望しているのは、やはりその“特別感”が大きいよう。
人というのは「限定」「招待制」「VIP」といった言葉に弱いもので、まだ閉鎖的で謎のベールに包まれているクラブハウスにアカウントを所有することはステータスとなる。
さらに、まだ利用者が少ないうちなら、セレブや業界のトップとのコネクションを築くきっかけになるかもしれない。
2020年は、新型コロナウイルス の影響により多くの人が職を失った。VIPが集まるクラブハウスのチャットルームで“爪痕を残し”たり、自分が思い描いているビジネスプランを売り込むことができれば、起死回生やキャリアップに繋がると考える人もいる。
さらに、誰かと面と向かって話したり、身体的な接触をする機会が大幅に減ったことにより、文字よりも声という、ある種の“温もり”を感じられるツールであることもクラブハウスの利用希望者が増える一因なのかもしれない。
カナダ・トロントを拠点に展開する非営利SNSアプリ、ヘルピング・ハンズの創設者であるジャネル・ハインズ氏は、「共時的な会話は、文字をタイピングしている時よりも、ずっとパーソナルに感じられるものです。何通ものメールの往復をするよりも、(会議アプリの)Zoomがよく使われるようになったのには、それなりの理由があるのです」と米R29に文字での対話でなく、声を使って話すことで得られる安心感や人との繋がりについて語っている。
昨今では、アップル社のAirPodsなどに代表されるワイヤレスイヤホンの普及が、“ながら作業”の簡易化にひと役買っている。何かをしながら、クラブハウスで誰かが話しているのを聞き、パソコンやスマホなどのキーボードに文字を打ち込む代わりに、その場で「いいね」に相当する相槌を打ったり、コメントをすることができるという利便性もある。
言葉を口に出して表現するのが得意ではない人が多い日本人の習性には、正直、あまり合わないかもしれないが、一般向けに解放された暁には、クラブハウスの雑談に参加し、イヤホンを耳に街中でぶつぶつ言っている人が増えたりして?
偽物に注意
アプリ自体(アプリ名: Clubhouse: Drop-in audio chat /販売元: Alpha Exploration Co.)は、日本のAppleストアで公開されているため、iPhoneにダウンロードすることはできるけれど、起動しようとしても、まだ準備中とのメッセージが表示される。ただし、いち早く使ってみたいという人は、ユーザー名を取得することができ、ローンチの準備が整い次第メールでお知らせが届くよう。
あまりの人気ぶりに、同名の偽物アプリが存在したり、ツイッター上では「招待してあげる」と唆すような投稿も増えているので注意を。(フロントロウ編集部)