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映画『落下の王国』は、かねてより本作を制作したいと考えていたターセム・シン監督の自腹で作られていた。(フロントロウ編集部)

美しい映像美の世界『落下の王国』

 2006年に公開された映画『落下の王国』は、インド出身の映画監督ターセム・シンによる冒険ファンタジー作品。ターセム監督は、映画『ザ・セル』や『セルフレス/覚醒した記憶』など、壮大なSF作品を得意としている。

 リー・ペイスが主演を務めた『落下の王国』は、撮影中に大怪我を負い下半身付随になったスタントマンが、オレンジの木から落ちて腕を骨折した移民の少女に聞かせたおとぎ話をもとに、めくるめく冒険が始まるストーリー。

 CGを一切使用していないというその映像美と、オリエンタルな雰囲気が濃厚に漂う極彩色に、多くのファンが魅了された。映画を制作する前は商業的な映像を制作していたターセム監督は米Roger Ebertに「コンピューターのエフェクトは一切ない。私がコマーシャルでいつもやっていたような、実在する以上のものに見えるようなビジュアルになっているだけ。少なくとも17年以上かけて撮影した場所(コマーシャル撮影の現場)では『これはお給料をもらっている仕事で、コマーシャルだけど、いつかこの場所を魔法のように見せてやる』と言っていたよ」とコメントしている。

 もともと、映画制作に反対していた故郷インドの父親のもとを飛び出してきたターセム監督だけれど、映画『落下の王国』の制作はなんと自腹を切って行なっていたよう。

『落下の王国』を自腹制作!デヴィッド・フィンチャーも驚き

 CGを一切使っていない『落下の王国』は、ターセム監督がずっと撮りたいと思っていたものを作るため、なんと自腹を切って制作を始めたという。これまでCM制作で稼いだお金は構想に26年、そして撮影期間4年という『落下の王国』の制作に全て費やした。

画像: 『落下の王国』を自腹制作!デヴィッド・フィンチャーも驚き

 実は制作費について一番心配していたのが、映画『ファイト・クラブ』や『セブン』などを作ったデヴィッド・フィンチャー監督。ターセム監督とフィンチャー監督はあるミュージックビデオの制作で知り合い、それ以降ずっと関係が続いているそう。フィンチャー監督は、『落下の王国』の最初の草稿を渡されたとき、「これが何なのか想像もつかないと思った。まるで映画『オズの魔法使い』とアンドレイ・タルコフスキー(※)が出会ったみたいなんだ」と米NY Timesに語っている。

※アンドレイ・タルコフスキーは映画『惑星ソラリス』や『サクリファイス』などを制作したソ連の映画監督。水、雨、光などの自然を駆使した抒情的な作風により“映像の詩人”と呼ばれ、美しい画面構成や細部までこだわり抜かれた高い芸術性が評価されている。

 フィンチャー監督はターセム監督のために、彼の映画に出資してくれる可能性がある人と会うように手配してあげたけれど、その取引は実現しなかった。そのため、フィンチャー監督はこの企画がなくなってしまったものだと思っていたそう。

 ところが「ある日南アフリカから電話があって『ねえ、今『落下の王国』を作ってるんだけど』と言われたんだ。僕が『誰がそれに資金を提供してるんだい?』と聞くと『僕。これを作るのに必要になるであろう情熱や交戦的な気持ちを僕は10年後には持ち合わせていないだろうから』と言われたよ」と、驚きの展開を明かした。

画像: ©️ABSOLUTE ENTERTAINMENT/DEEP FILMS/GOOGLY FILMS/KAS MOVIE MAK

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 また、ターセム監督とミュージック・ビデオ制作を共に行なっていた過去を持つ映画『her/世界でひとつの彼女』のスパイク・ジョーンズ監督は、ターセム監督について「もし映画スタジオが彼と同じことをしていたら、8,000万ドル(約88億円)の制作費の映画になっていただろう。でも、彼は経験豊富で、世界中の人々を知り尽くしていて、小さなスタッフで撮影する方法を知っている。だから彼はそれで乗り切れたんだ。とはいえ、彼は自分のお金を使った。正気の沙汰ではないよ」と米NY Timesに語っている。

 ターセム監督自身はそれに対し、「最終的には、僕が“良い狂気”を持っていると思ってくれて映画を愛してくれる、本当に熱烈な人たちに出会えた」とコメントした。

 CG一切なしの自腹映画『落下の王国』を見るときには、ぜひターセム監督の映画愛を感じながら鑑賞してみて。(フロントロウ編集部)

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