プロナウン/代名詞とは?sheやheのほかtheyの使用が増えている
近年よく欧米を中心に耳にするようになったプロナウン(pronoun)は代名詞のことで、一般的には、自身の性自認・性表現が女性の人に対して使われる「she/her」、男性の人に対して使われる「he/him」、女性・男性という枠組みに当てはまらないノンバイナリーの人などに対して使われる「they/them」などがある。
英語では「they」という言葉は、「they went to the party together(彼らは一緒にパーティーに行った)」のように三人称複数として使われる場合が多いけれど、「Who left last? They left the door unlocked(最後に帰ったのは誰?その人は鍵を閉めていかなかった)」というように、ジェンダーが分からない時には単数形としても使える言葉。
それが近年はノンバイナリーの人々の代名詞として頻繁に使われるようになり、米ウェブスター辞書では、2018~2019年のあいだにこの言葉の検索数が313%もアップしたとして、“2019年の言葉”に選ばれた。
セレブ界でもここ数年のあいだに、グラミー賞シンガーのサム・スミス、リアリティ番組『クィア・アイ』のジョナサン・ヴァン・ネス、ドラマ『グレイズ・アナトミー』のサラ・ラミレス、映画『ハンガー・ゲーム』のアマンドラ・ステンバーグをはじめ、ほかにも多くの人が「they」という代名詞を使うと発表している。
プロナウン/代名詞をSNSのプロフィールに
she/her、he/himの2種類だけではない代名詞が使われるようになった今、ツイッターやインスタグラムといったSNSのプロフィール欄に代名詞を明記する人が続々と増えている。
フロントロウ編集部がインスタグラムを確認しただけでも、サム・スミス(They/Them)、ジョナサン・ヴァン・ネス(they/he/she)、サラ・ラミレス(she/they)のほか、テレビ映画『ディセンダント』のダヴ・キャメロン(she/her)、アメリカ次期副大統領のカマラ・ハリス(she/her)、ノルウェー出身の注目シンガーであるオーロラ(she/her)、グラミー賞ノミネートシンガーのメアリー・ランバート(she/her/gal)、ドラマ『グッド・プレイス』のティヤ・シルカー(she/her)、ドラマ『ハイスクール・ミュージカル:ザ・ミュージカル』のジュリア・レスター(she/her)とダラ・レネー(she/her)など、職種・年齢を問わず多くの著名人がSNSのプロフィールに使ってもらいたい代名詞を記載しており、この数はどんどん増えている。
プロナウン/代名詞を明確にすることの意味
代名詞を明確にすることには大きく分けて2つの利点があり、まずは、自分が正しい代名詞で呼んでもらえる/相手が正しい代名詞で呼べるということがある。例えば、田中という苗字なのに鈴木さんと呼ばれたら「いえ田中です」となるように、男性なのに“彼女”と呼ばれたら嫌なもの。アメリカ最大級のLGBTQ+権利団体HRCは、「他人から呼ばれる名前や代名詞ほどパーソナルなことはないかもしれません。その人が選んだ名前や求める代名詞を使うことは、お互いに対する尊敬の形であり、最低限の礼儀です」としている。
ピュー研究所の2018年の調査によると、アメリカでは13~21歳の35%が、he/she以外の代名詞を使っている人を知っていると答えている。それぞれが代名詞を明確にすることで、間違った代名詞で呼ぶ/呼ばれるというシチュエーションを減らすことができる。
また、代名詞を明確にすることは、生まれたときに割り当てられた性別と性自認が一致するシスジェンダーの人が行なうこともとても重要。
全員がやることで、代名詞は当たり前のように推測することではなく相手によって違うのだという考えがノーマライズ(標準化)され、“自分としては女性に見えるからshe/herである”という勝手な推測をなくすことに役立ったり、ノンバイナリーの人が明言しやすくなったりという利点がある。
HRCのスポークスパーソンは、「シスジェンダーのアライが自身のプロナウンを公的に宣言することはLGBTQコミュニティへのサポートを強く表すことです。とくに、トランスジェンダーやノンバイナリーの人にとっては、自分たちの存在が認められ、受け入れられ、応援されていると感じられます」と米NBCに語っている。
Every person deserves to be treated with dignity and respect, and that starts with using correct pronouns.
— Elizabeth Warren (@ewarren) October 16, 2019
I'm Elizabeth. My pronouns are she/her/hers. And I'll keep fighting to build an America where everyone feels seen and respected. #PronounsDay
^ シスジェンダーであるエリザベス・ウォーレン議員もSNSで代名詞を明確にし、「誰もが品格と尊厳を持って扱われるべきです。そしてそれは、正しいプロナウンを使うことから始まります。私はエリザベス。私のプロナウンはshe/her/hersです」とツイートしている。
職場でも正しい代名詞の使用を求める動き
希望する代名詞を明かすというアクションは職場のシーンでも拡大しており、最近は、メールの署名欄に代名詞も記載する人が増えている。
2020年5月にアクティビストのタミ・ソーヤーがツイッターで、「あなたの所属する団体/会社では、メールの署名欄での代名詞の記載に関してルールは設けられていますか?」と聞いた時には、コメント欄に、「私の地域では最近(記載するというルールが)導入された」「メールの署名フォーマットに(記入する欄が)最初から組み込まれている」「ルールとしてはないけど、みんなで勝手にやっていて問題になったことはない」などと、各地から、メールの署名欄に代名詞を書いているというコメントが書き込まれた。
メールのほかには、Slackのようなチャットサービスのプロフィール欄に代名詞を記載する人もいて、米Slackの公式ツイッターアカウント@SlackHQには、代名詞を記載する欄をデフォルトで入れてほしいというユーザーからの意見がたびたび送られており、Slack側は「検討している」としている。
さらに、代名詞を明かすという行動は顧客サービスにも反映されており、例えば、米金融大手TIAAは、顧客サービスの新しいガイドラインに「相手のジェンダーアイデンティティについて絶対に推測をしないように」「人の代名詞は時間の経過によって変わる場合があると理解しましょう。状況によって変わる場合もあります」という説明のもと、顧客の正しい代名詞を理解するために、まずは自己紹介するときに「こんにちわ、私の名前は〇〇で、代名詞はshe/herです」などと、自分の代名詞を示すようにとしたと、米Quarzが報じた。また、米IBMのように、人事資料や企業データに代名詞を記載する欄を追加した企業も出てきている。
she/her、he/him、they/themなど、たった数単語だけれど、明示するかどうかで大きな社会的インパクトがある代名詞/プロナウン。2017年にトランスジェンダーであることを公表したアクティビストのシャーロット・クライマーは、2019年10月の国際プロナウンデーにこうツイートした。「代名詞はLGBTQの人々だけではなく、全員にとって重要なことです。あなたがシスジェンダーの男性(生まれたときに割り当てられた性別が男性で、男性と自認している人)なのに、she/herと呼ばれたら気まずい気持ちになりませんか?その気持ちを私たちへの思いやりに変えてください」。(フロントロウ編集部)