ジェームズ・キャメロンによる『ターミネーター』
1984年にシリーズ第1作目が公開された『ターミネーター』は、シリーズの生みの親であるジェームズ・キャメロン監督が2作目までメガホンを取り、2019年に公開された『ターミネーター:ニュー・フェイト』でふたたび製作に復帰した。
キャメロン監督は『ターミネーター』シリーズ以外にも、『エイリアン2』、『タイタニック』、『アバター』などの監督を務めてきた。ちなみに、それまで全世界興行収入1位だった『タイタニック』を、2010年に『アバター』が抜いた(※)という歴史があり、このタイトルだけでもキャメロン監督がどれだけのヒットメーカーか分かる。
※2021年現在の1位は、2019年に公開されたマーベルMCU映画の『アベンジャーズ/エンドゲーム』。
そんなキャメロン監督は、意外にも過去にはトラック運転手などの映画とまったく関係のない仕事をしていた経験もある。そんな監督だからこそ出せる作品の深みはファンも感じるところかもしれないけれど、『ターミネーター2』のある設定にも、キャメロン監督の考えが反映されていた。
T-1000が「警官」である意味
『ターミネーター2』で未来から送られてきたT-1000は、液体金属型ターミネーターであり、彼の映像は今見ても1991年に公開された映画の映像とは思えないクオリティ。ロバート・パトリックの代名詞的キャラクターとなるほどの人気を誇るT-1000は、人間からナイフまで様々な物に擬態することができるため、『ターミネーター2』でもいろいろな姿を見せた。しかし主に「警官」に姿を変えていることが多かったけれど、この設定にはキャメロン監督の意図があった。
監督に迫った本『The Futurist: The Life and Films of James Cameron(原題)』によると、ある時、本作によって後にアカデミー賞の視覚効果賞とメイクアップ賞を受賞したスタン・ウィンストンと一緒にT-1000の人物像について考えを練っていたという監督。当時はアイディアがまとまっておらず、イメージを明確にするために考え込んでいたという2人に、ある考えが浮かんだ。キャメロン監督は、作品についてこう述べている。
「『ターミネーター』シリーズは、じつは、人間という種が未来のマシーンに殺されるという話ではないのです。シリーズは、私たちが自らの人間性を失い、マシーンになっていき、そしてお互いに暴力的になり殺し合うということについてなんですよ。警官は、警察でない人間を見下し、バカで弱い悪者だと思っている。彼らは、自分たちが守ると誓った人々から人間性を奪い、仕事を遂行するために自分自身を鈍感にしている」
『ターミネーター』という作品について、未来のマシーンvs人間という単純な構図を当てはめる人もいると思うけれど、キャメロン監督の思いは、さらにその1歩先を行くもの。そして警官を悪役とした点や、「仕事を遂行するために自分自身を鈍感にしている」と指摘したことは、現在起きている社会問題にも繋がる。
キャメロン監督の携わった作品は、比較的若い世代から大人まで楽しむことができる作品となっているけれど、そこに込められた意図によって、ファンの年齢が変わるごとに違う見方ができるものとなっており、それこそが多くの人に長く支持される理由なのかもしれない。(フロントロウ編集部)