ゲイであるニール・パトリック・ハリス
映画『ゴーン・ガール』や『マトリックス4』への出演や、ドラマ『glee/グリー』へのゲスト出演、『レモニー・スニケットの世にも不幸なできごと』での主演、さらに数々の舞台作品など、多岐にわたる作品に出演してきた俳優のニール・パトリック・ハリスは、ゲイであることをオープンにしている。現在は夫デイヴィッド・バーカと、双子の子供と毎日を送っている。
そんなニールが、ここ数年で映像業界において議論のテーマとなっている、「ストレート・ウォッシング」について意見を述べた。
ストレート・ウォッシングとは?
ストレート・ウォッシングとは、作中におけるLGBTQ+の登場人物をストレート/シスジェンダーの俳優が演じること。
映像業界では、本来であれば非白人であるはずのキャラクターを白人が演じ、白人以外のキャラクターが登場する機会や、白人以外の俳優のチャンスを奪うことになる「ホワイト・ウォッシング」が長年問題になっている。
ストレート・ウォッシングもそれに似た考え方から問題になっており、LGBTQ+キャラクターはLGBTQ+当事者の俳優が演じるべきという意見があがってきている。
例えば、舞台『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』でトランスジェンダーのロックシンガーであるヘドウィグや、実録犯罪ドラマ『アメリカン・クライム・ストーリー/ヴェルサーチ暗殺』で同性愛者の連続殺人鬼アンドリュー・クナナンを演じたダレン・クリスは、2019年に、今後はクィアの役柄は引き受けるつもりはないとコメントした。
また、ドラマ『プリズン・ブレイク』で主人公のマイケル・スコフィールドを演じ、実生活ではゲイであることをオープンにしているウェントワース・ミラーは、今後はゲイ以外の役を演じるつもりはないとしている。
ちなみに、メディアにおけるLGBTQ+キャラクターのモニタリングなどを行なう米GLAADが発表した調査結果によると、2019年から2020年にかけて放送されたテレビドラマのレギュラーキャラクターのうち、LGBTQ+のキャラクターは10.2%。また、2018年にGLAADが調査した大手配給会社による110の映画作品のうちでは、18.2%がLGBTQ+キャラクターだった。
ニール・パトリック・ハリスの考え
しかしニールは、ストレートの俳優がLGBTQ+キャラクターを演じることが問題であるとは考えていないという。
ニールが出演する、HIVに翻弄された1980年代のゲイコミュニティを舞台にして話題沸騰中の英ドラマ『It’s a Sin』の製作者ラッセル・T・デイヴィスは、「誰かをキャスティングする場合、私はその人を、恋人や敵、麻薬をやっている人、犯罪者や聖人としてキャスティングしていると強く感じている。つまり彼らは『ゲイを演じる』ためにそこにいるわけじゃないんだ。非障がい者を車いすに乗せたり、誰かを黒人にしたりしない。信憑性は私たちを楽しい場所へと導いてくれる」とコメントして、同性愛者の役には同性愛者の俳優をキャスティングすることにこだわったことを明かしている。
しかしニールは俳優として、ドラマ『ママと恋に落ちるまで』で女好きなバーニーを演じた経験も振り返りつつ、英The Timesでこう意見した。
「ストレートの俳優をゲイの役に起用することはセクシーさがあると思うけどね。もし彼らが、それに心血を注ぐのであれば。僕は、自分にまったく似ていない役を9年間演じた。僕だったら、ただ最高の俳優を起用したいかな。僕たちが生きている世界では、監督はそれ(俳優のセクシャリティ)は要求できないよ。だって、誰かがゲイっぽいかどうかって、誰が決められるの?」
ストレート・ウォッシングの業界的な問題点
映像業界でのホワイト・ウォッシングやストレート・ウォッシングの問題は、“俳優という職業は自分以外の誰かを演じる仕事である”という点がつねに議論の要点となる。そうなると、ニールが言うように、最高の俳優を起用するのが一番のはず。一方で、例えば良い役が回ってくるには白人俳優の方が優位というハンディがある中で、最高の俳優が本当にフェアに選ばれているのかという議論もある。
さらに、例えば、これまで多くの異性愛者の俳優が同性愛者の役を演じてきたけれど、同性愛者の俳優はカミングアウトすると、例えば異性愛者同士のラブコメ映画にはキャスティングされなくなるなど、アンフェアな制限があることは長年多くのLGBTQ+の俳優たちが訴えてきた。
複雑だからこそ、俳優界でも色々な意見が出ているストレート・ウォッシングというテーマ。
女性と交際している俳優のクリステン・スチュワートはこの問題について、「私自身、経験者が伝えるべきだと思う物語を自分が伝えたいとは決して思わない」としつつ、「こうした特定の決まり事に全員を当てはめてしまえば、私はもうストレートのキャラクターを演じられなくなる」と、この論争の難しさを語っていた。(フロントロウ編集部)