スーパーヒーロー作品は“映画”とは見なさない。過去にそんな発言をしていた俳優のイーサン・ホークがMCUドラマ『ムーン・ナイト』への出演を決めた理由が深い。(フロントロウ編集部)

スーパーヒーロー作品をディスっていたイーサン・ホーク

 映画『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離』から始まる3部作のラブストーリー『ビフォアシリーズ』で名を馳せた俳優のイーサン・ホークは、アカデミー賞助演男優賞にノミネートした『6才のボクが、大人になるまで』、そして近年では日本人監督、是枝裕和監督がメガホンをとった日仏合作のドラマ映画『真実』など、大衆市場よりもニッチな層に好まれるアート系のヒューマンドラマ作品に多く出演してきた。

画像: 『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離』©CASTLE ROCK ENTERTAINMENT / BRANDENSTEIN, GABRIELA / Album/Newscom

『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離』©CASTLE ROCK ENTERTAINMENT / BRANDENSTEIN, GABRIELA / Album/Newscom

 巨額の費用が投じられた、“ザ・ハリウッド”な大作とは距離を置き、自らが信じる役者道を歩んできたイーサンは、スーパーヒーローが活躍する作品について、かつては個人的にあまり良い印象を抱いておらず、2017年に公開されたヒュー・ジャックマン主演/マーベル・エンターテイメント制作の『X-MEN』のウルヴァリンを主人公にした映画『LOGAN/ローガン』について、米Film Stageとのインタビューでこう語ったことも。

 「偉大なスーパーヒーロー映画だとは思うよ。でも、やっぱり全身タイツを着て、手から金属が飛び出すなんて、ブレッソン(※1)やベルイマン(※2)とは違う。だけど、人々は、まるで同等であるかのように語る。『素晴らしい映画だ』と言われても、僕にとっては『本当に? いや違う、これは良いスーパーヒーロー映画だよ』という感じ。この2つには大きな違いがあるけど、大手のスタジオはそうは思っていない。彼らは観客たちに『これは素晴らしい映画だ』と思わせたいからね。そうすれば、金儲けができるからさ」

※フランス人映画監督のロベール・ブレッソン。極限まで虚飾を省いた大胆かつ慎重に作り上げられた繊細な作風で知られる。※2スウェーデン出身の映画監督のイングマール・ベルイマン。誌的・舞台劇的作風で知られる20世紀を代表する映画監督の1人。

画像: スーパーヒーロー作品をディスっていたイーサン・ホーク

 平たく言うと、マーベル・コミックやDCコミックといったアメコミをベースとするヒーロー作品は“名作とは認めない”と、独自の見解を語っていたイーサン。しかし、2020年に入り、彼が、ディズニープラス(Disney+)で配信されるMCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)の新ドラマ『ムーン・ナイト』に悪役として出演することが決定したという情報が明らかに。

 イーサンが、MCU作品に参入するという報道には、多くの映画ファンがちょっとした衝撃を受けた。


MCUドラマ『ムーン・ナイト』ってどんな作品?

 ドラマ『ムーン・ナイト』はマーベル・コミックに1975年に登場した“規格外ヒーロー“ムーン・ナイトを主人公にした作品。

 元傭兵だった彼は、超人的なスーパーパワーは持っておらず(※3)、キャプテンアメリカでさえ一目置く高い戦闘スキルと、自らが持つ「狂気」、ハイテクアイテムなどを武器に敵に立ち向かう孤高のクライムファイター。

※3作品によっては、月の満ち欠けによってスーパーパワーが発揮されるという設定もある。

 一般的に「多重人格」と呼ばれる精神疾患を抱えており、さまざまな人格が時々脳内会議を繰り広げながら、それぞれのアイデンティティを使い分けて活動を行なっているというのが、ムーン・ナイトが“規格外ヒーロー”と呼ばれる所以。

 精神的に不安定な部分があるのが特徴で、あまりにも複雑なキャラであることから、多くのファンから「ドラマ化は不可能なのでは」とウワサされてきた。

 そんな作品で、難易度が極めて高そうな主人公のムーン・ナイトを演じるのは、映画『スター・ウォーズ』シリーズでポー・ダメロン役を演じたオスカー・アイザック

画像: MCUドラマ『ムーン・ナイト』ってどんな作品?

 『護送車の中で/クラッシュ』のエジプト人監督のモハメド・ディアブがメガホンをとる同作のクリエイターには、Netflixの人気ドラマシリーズ『アンブレラ・アカデミー』のジェレミー・スレイターが名を連ね、ドラマ『ラミー 自分探しの旅』のメイ・キャラマウィの出演も発表されている。


『ムーン・ナイト』への出演を決めた理由

 かつては、スーパーヒーロー映画に出演するなど考えられなかったイーサンが、『ムーン・ナイト』への出演を決めたおもな理由は大きく分けて3つ。

 イーサンが最近応じた米The Ringerとのリモートインタビューで明かしたところによると、まず第1に、『ムーン・ナイト』があまり世間に知られていない作品だということ。

 知名度が低いヒーローを主役にした作品だからこそ、「クリエイティブ面でより自由が利く」と考えているそうで、ディアブ監督の映画をいくつか観たが、彼の目覚ましい才能を目にし、一緒に作品を作ってみたいと思ったそう。

画像1: 『ムーン・ナイト』への出演を決めた理由

 そして最も重要だという第2の理由に挙げたのは、主演のアイザックと一緒に仕事がしたかったということ。

 「正直言って、これが(出演を決めた)大半を占めるけど、オスカーは僕らの分野において、すごく興味深いプレイヤーだと思うんだ」。そう語ったイーサンは、「彼が人生においてやっていることが好きだし、彼は、僕が初めてニューヨークに出てきた頃に出会った尊敬する俳優たちにどこか似ている。オスカーは僕より若いけど、彼の立ち居振る舞いや考え方が気に入ってる。一般的に、考え方が好きだと思える人たちと一緒にいると、良いことが起こるだろ? そう思わない?」と、オスカーを褒めちぎったうえで、彼と一緒に仕事をすることで何かポジティブなものが生まれると考えていると話した。

画像2: 『ムーン・ナイト』への出演を決めた理由

 そして、最後に、イーサンは、役者としての自分に与えられた、限られた時間をどう使うべきかと考えたとも語った。

 かつては、「自分がどんな作品に出るべきか、どんな作品には出ないほうがいいのか」をナーバスに考えていたというが、どんな作品にも、居場所があっていいと考え、「許容範囲を緩和した」そう。

 「良い決断をするかもしれないし、悪い決断をするかもしれない。でも、どちらにせよ、自分には、その仕事にどんな思いを注ぎ込むかということをコントロールすることはできる」と、大きな心境の変化があったことも熱く語った。

 イーサンが演じる悪役は、“メインの悪役”ということ以外は分かっていないが、彼が一目置くアイザックとどんな化学反応を見せてくれるのか、期待大。2022年配信予定の『ムーン・ナイト』は3月からハンガリー、ブダペストで撮影が開始する。(フロントロウ編集部)

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