「授乳の現実」を伝えるCMが歴史を作る
女性のためのウェルネスブランド「Frida Mom」が、新米ママの大変さを伝えるために制作したCMが第78回ゴールデン・グローブ賞授賞式で放映され、「まさに歴史的瞬間」と反響を呼んでいる。
インスタグラムをはじめとするSNS上で女性の乳首が排除されていることはご存じだと思うが、アメリカでは主要テレビ局でも同様の規制があるため、女性が胸を見せることはどういった事情であれタブーとされてきた。今回、ゴールデン・グローブ賞授賞式の合間に流れたFrida MomのCMは、そんな慣例を破る内容となっており、女性の乳首がモザイク処理されることなく放送された初のCMとして歴史をつくった。
子育て中の女性の多くが直面する授乳の過酷な現実を伝えるこのCMでは、慣れない育児に疲弊した様子の母親が母乳をあげる姿や、夜泣きする赤ん坊をあやす姿、苦悶の表情を浮かべながら乳房をマッサージをする姿、真夜中に搾乳をする姿など、決して良いことばかりではない育児のありのままを一切隠すことなく映し出している。
産後のバストケアを向上させることを目的とした製品を多く取り扱うFrida Momは、「(授乳を)始めるにしても、やめるにしても、母乳育児は感情的かつ肉体的に長い道のりであり、多くの新米ママは準備ができていないうちに高揚感と低揚感の両方を味わいます。電動歯ブラシの持ち手を使って(乳房を)マッサージしたり、“キャベツ湿布(※)”を貼ったり、授乳中の悩みをDIYで解決する新米ママと彼女たちの胸が直面する課題を、私たちはひとつひとつクリアしていきたいと思っています。赤ちゃんだけでなく、あなたの胸もケアが必要です」と、このCMの意図を説明。
※授乳中の乳腺炎が良くなると一部の人たちのあいだで信じられている民間療法。
実際、YouTubeのコメント欄には経験者と思われる女性たちから、「今まさに娘に授乳しながら泣いた」、「心にすごく響く。授乳は本当に大変だった。でも娘が生まれるまでその大変さをまったく知らなかった」といった書き込みが。また男性からも、「僕は男だけど妻の産後を思い出して胸が熱くなった」といった声があった。
Frida MomのCEOであるチェルシー・ハーシュホーン氏は、「母乳育児の身体性、例えば皮がむけた乳首や子宮収縮、乳腺炎といったことに目を奪われがちですが、誰もそれが膣の回復と同じように痛みを伴うことを教えてくれません。これらはすべて産後の経験の一部ですが、放送時間を与えられることはありませんでした」と、米Insiderを通じてコメント。
また、ゴールデン・グローブ賞授賞式の放送局であるNBCも、「我々は自分たちのプラットフォームを利用して女性の物語を共有することに尽力しており、Frida Momの画期的でクリエイティブなCMを通じて、母性の喜びと課題にスポットライトを当てることを誇りに思っています」と声明を発表している。
2020年のアカデミー賞では“放送拒否”
ちなみに、Frida Momは2020年のアカデミー賞授賞式でもCMの放映を求めていたが、放送元のABCから「露骨すぎる」という理由で却下されている。
アカデミー賞から拒否されたCMでは、使い捨てのおむつを履いた産後間もないひとりの母親が、トイレでナプキンの交換や膣のケアを行なう様子が如実に描かれており、世の母親たちから共感する声が殺到すると同時に、「むしろこういったCMをもっと流すべき!」と、放送を却下したABCとアカデミー賞を主催する映画芸術科学アカデミーに対して批判が集まった。(フロントロウ編集部)