Uber Eats配達員が語ったこと
アメリカのワシントン州シアトルでフードデリバリーサービスの配達員として働く男性が、TikTokに公開した映像が全米で注目を集めた。「ウーバーイーツや(米フードデリバリーサービス)DoorDashでオーダーをする人に、配達員として働くとはどういうことかを理解してほしい」と話し始めた男性は、自分に起こった出来事を話した。
男性によると、この動画を撮る前に終えた配達では、45分を要したという。さらに、配達先の近所に車を停められるところがなく、オーダー主に家の外に出てきてくれないかと頼んだけれど、そうしてくれなかったため、駐車代に3ドル(約330円)がかかったそう。そしてその配達でウーバーイーツ側から彼に支払われたのは2.5ドル(約280円)で、オーダー主からのチップは1.5ドル(約170円)だったという。
仕事であるにもかかわらず、ごく少額しか手に残らないという事態に直面した彼は、さらに自身が置かれている過酷な状況についてこう明かした。
「僕は2週間のうちに家賃3ヵ月分を払わなきゃいけないし、それは出来ない。何個もの仕事を掛け持ちしても、眠れなくても、食事をほとんど食べられなくても関係ない。前の5月から、3度目のホームレスになろうとしてる。なぜなら、人々が配達員にチップを払わないから。僕たちに5ドル払うのはそんなに難しい?」
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♬ original sound - Riley Elliot
米USA Todayの取材に対し、ピザハットでアルバイトをしながら、様々な企業の配達員として仕事をしていると明かす彼は、動画の最後に、「パンデミックのなかで命をかけてやっているのに、誰も気にしない」という思いを綴った。
彼がこの動画を投稿した時、TikTokのフォロワーはたったの9人で、何かしらの反応を期待していたわけでは全くなかったそう。しかし彼の動画は、様々なSNSで大拡散され、アメリカの各メディアでも報じられるほど大きなニュースとなった。
アメリカではチップの制度は文化の一部となっており、彼が主張した、配達員にチップを払うべきだという意見には多くの賛同が寄せられた。さらに彼には、予想外の出来事が発生。それは、多くの人からの寄付。
なんと、彼の元には、約5万5,000ドル(約605万円)もの寄付が集まったという。彼によると、その金額は家賃を大きく上回るものであり、そのため、そのうちの150万円以上は医療費に苦しむ知人や、貧困に悩む知人などに渡したという。
変革を求められるUber Eats
今回、彼はチップについての意見を述べたけれど、ウーバーイーツの在り方もたびたび問題になっている。
ウーバーイーツ配達員のように、単発で仕事を行なう人をギグワーカー、そしてそういった人々によって成り立つビジネスをギグエコノミーと呼ぶ。インターネットが発達した社会での新しい働き方やビジネスであり、ウーバーイーツ配達員だけでなく、単発で働く様々な人がギグワーカーに当たる。
組織に縛られない、時間がフレキシブルに使える、副業として気軽に始められるというメリットがある一方で、ギグワーカーは企業の従業員ではないため、最低賃金や有給休暇の対象にならない。そういったことが労働者の搾取に繋がるとして、現在議論が進められている。
2019年には、アメリカのカリフォルニア州では、ギグワーカーである労働者の権利を保護するための法案が可決された。しかし2020年に、ウーバーやDoorDash、配車サービスのLyftなどといったギグエコノミー企業は、ドライバーを独立した請負業者として扱い続けることができる法案Proposition 22の可決のために、220億円(2億ドル)以上を投入してキャンペーンを実施。そしてカリフォルニア州の住民投票で賛成票が58%となり、承認された。これにより、これら企業は、ギグワーカーを従業員として扱う必要がなく、失業手当や健康保険などを提供する必要もない。
イギリスのウーバーイーツも、配達員は個人事業主であり、ウーバーイーツの従業員ではないとしていた。しかし2016年に、ウーバーイーツ配達員2名がウーバーイーツを訴え、配達員はウーバーイーツの従業員であり、最低賃金や有給休暇などの適用を要求。そして2021年にイギリスの最高裁で、配達員の主張が認められた。
男性がTikTokに投稿した動画からは、様々な議論が呼び起こされている。(フロントロウ編集部)
※Proposition 22についての記述を加筆致しました。