ロンドン南部で夜間に徒歩で帰宅していた33歳のサラ・エヴァラードが行方不明になり、捜査にあたっていたロンドン警視庁が地域の女性たちに夜間の外出を控えるよう勧告していたことが分かり、イギリス全土で怒りが噴出している。それを受けて、SNSでは一部の男性たちが“自分は男性として女性のために何ができるのか?”という質問を女性たちにして、女性たちからのリアルな声が男性たちに届けられている。(フロントロウ編集部)

夜間に徒歩で帰宅中に失踪、警察が容疑者を逮捕

 英時間3月3日の21:00頃に友人の家から徒歩で帰宅した33歳のマーケティング責任者のサラ・エヴァラードが行方不明に。サラは帰宅中に恋人男性と15分ほど電話で会話をした後、21:30頃にセキュリティカメラに姿が映ったのを最後に行方がわからなくなった。

 翌日、サラが約束の時間に現れなかったことを不審に思った恋人の通報を受けた警察が捜査を開始。ロンドン警視庁は地域の家々をまわって情報収集するなかで、女性たちに“夜間の外出は控えた方が良い”と勧めていたことが英The Sunの報道で分かった。

 イギリスといえば、1975年からの5年間にわたり、女性が男に次々と襲われて13人が殺害されたヨークシャー・リッパー事件があった。なかなか犯人が逮捕されないなか、警察は女性たちに夜間の外出禁止を指示。これが女性たちの怒りを買い、“男性にこそ外出禁止を指示すべきだ”として、イギリス全土で大規模なデモ活動「Reclaim The Night(意味:夜を奪還せよ)」が起こった。結果的に、ヨークシャー・リッパーことピーター・サトクリフは1981年に逮捕されたのだけれど、逮捕後、警察側の売春婦に対する差別的感情や、女性に対する性差別的な推測、間違った情報への固執のせいで、もっと早い段階での犯人逮捕に繋がったであろう多くの重要な証言や証拠が無視されていたことが発覚。被害者の遺族が警察を訴えた。この一連の騒動は、2020年のNetflixのドキュメンタリーシリーズ『ヨークシャー・リッパー: 猟奇殺人事件の真相』でフィーチャーされた。

画像: 夜間に徒歩で帰宅中に失踪、警察が容疑者を逮捕

 そして今回、再び警察から被害者側である女性に対して発せられた“外出を控えた方が良い”という言葉。女性が安心して夜道を歩けないことすら不条理なのに、なぜ、被害者が行動を控えなくてはいけないのか、という怒りの声がイギリス全土であがっている。

 議論が起こるなか、ロンドン警視庁は英時間3月9日にサラの誘拐と殺害の容疑で男を逮捕。容疑者はロンドン警視庁の警察官だった。そして3月10日、警察はケント州の森林で人の遺体と思われるものを発見したことを発表。英時間3月12日に警察が遺体はサラ・エヴァラードのものと断定した。

 イギリスではサラの事件を受けて、70年代に起きた「Reclaim the Night」ならぬ「Reclaim These Streets(意味:ストリートを奪還せよ)」という名前で、英時間13日に祈りのイベントが企画されているものの、イギリスは新型コロナウイルスのロックダウン中のため実現するかはわからない。

男性たちが「男性は女性のために何ができる?」を女性に聞いている

 多くの人が事件に心を痛める中、一部の男性たちが女性たちのために行動を起こしている。被害者の自宅から5分以内の距離に暮らしているという男性は、ツイッターでこう質問した。

「(このエリアでは)誰もが警戒しています。静かな道では(女性から)なるべく距離を取ることと、自分の顔が見えるようにすること以外で、不安や恐怖を軽減するために男性が出来ることはありますか?」

 また、ロンドンに暮らす別の男性はこうツイート。

「サラ・エヴァラードの件を受けて、女性がより安心して家に歩いて帰れるように、友人たちを助けるために、私たち男性が出来ることはありますか? アドバイスは大歓迎です」

 どう感じていてどうしてほしいのかを当事者である女性たちに聞く、という男性たちの行動は多くの女性たちから歓迎されているだけでなく、当事者からの具体的な案が次々とあがるということに繋がっている。そして、そのやりとりを読んだ別の男性たちから「タメになる」「こういった場合はどうしたらいい」といった書き込みもあり、行動の輪が広がっている。

 以下が、女性たちから書き込まれた声の一部。

「もっと多くの男性に聞いてほしい素晴らしい質問。女性の背後を歩かなくていいように道の反対側に渡る。女性からは距離を取る。ジョギングしているときは絶対に真隣を走らない、とくに暗い時は。これ、びっくりするほど多くの男性がやる。女性の友達を歩いて送る」

「おかしく聞こえるかもしれないけれど、“うるさく”する。背後で相手から見えない時に、音でどこにいるか分からせてもらえたら助かる。こっそり忍び寄ろうとしていないことがわかるし。電話で友達と会話するのも良い」

「女性の背後を歩いているときは距離があっても、とくに暗いときは、道の反対側に渡って。これまでに何度か男性がこれをしてくれたことがあって、本当にホッとする」

「他の男性と対話してほしい。多くの人が見当違いだから。どんなに些細なことでも、ハラスメントを目撃したら声をあげて。多くの人が、女性を不安にさせる気持ち悪い人を見て見ぬふりする。それはそういった人をつけ上がらせるだけで、そういった行動をノーマライズ(標準化)してしまう」

「私たちが(ハラスメントを受けたという)実体験を話すとき、それをきちんと聞いてほしい。私が話した男性はいつも消極的で、それは特定の事例だと思っている。でも実際には全ての女性がこのような話を持っていて、それこそ、これが大きな問題であることを物語っている」

 1970年代にヨークシャー・リッパーが女性たちを襲っていた時代には、“夜間に1人で歩くのが悪い”や“すべての男性が加害者じゃない”といった発言が出ていた。その一方で、夜間は女性の友人を歩いて送る男性、夜道で女性と同じ道を歩く時には距離を取るといった行動を起こしていた男性もいた。

 そして今回のツイートでも、同じように一部から、“夜間に1人で歩くのが悪い”や“すべての男性が加害者じゃない”といった書き込みがあった。そういったツイートに対して質問をした2人目の男性はこう返答した。「このスレッドの中で女性や彼女たちのアドバイスに反論している人は自分自身を見つめ直した方が良い」。(フロントロウ編集部)

※ヨークシャー・リッパー事件の捜査における売春婦への差別や警察の不手際に関する情報を加筆しました。英時間3月12日の警察発表を加筆しました。(この記事は日本時間3月12日に公開されたオリジナル版から更新されています)

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