映画業界で闘ってきたシャロン・ストーン
映画の都と言われるアメリカのハリウッドでは、これまで何十年にわたり繰り広げられてきた女性制作者や女性俳優に対する性暴力に声をあげるMeTooムーブメントとTime’s UPムーブメントが2017年に大規模発生し、女性が置かれている環境に対する改善が進められている。
しかし、2017年にやっとその動きが起こるまでにも、闘ってきた女性たちは多い。映画『氷の微笑』や『トータル・リコール』などで知られるシャロン・ストーンもそのうちの1人。
現在63歳となったシャロンは、『氷の微笑』によってセックスシンボルとされたことで、とくに性の対象と印象づけられてきた。しかしプロフェッショナルとして働くうえで、共演者とセックスしたほうが良いと“アドバイス”されても拒否したり、適切な金額の賃金を要求したりと、信念を持って活動してきたため、女性が行動を起こしたり権利を主張したりしたときにありがちな“難しい女”とレッテルを貼られたと、自叙伝『The Beauty of Living Twice(原題)』のなかで振り返る。
「人々は、『シャロン・ストーンはハリウッドの最もめんどくさい奴だ』と言っていたことがあった。私がある程度の賃金を得ていた初めての女性の1人であったことは偶然ではない。男性よりは全然少なかったけれど、それまで女性が支払われていたよりは多かった」
たった1人の女性として闘ったシャロン、その苦しさ
シャロンが芯の通った性格に育ったのには、両親の影響があるという。彼女が幼い頃、父親はこんなことをシャロンに言い聞かせていたそう。
「お前は好かれたいからって、男の子たちに勝たせてあげている。さあ、あっちへ行って、勝て。そうれば彼らは君を尊敬する」
しかし、傷つかずに闘うことは、どんな人であっても出来ることではない。シャロンの心の中には、現在でも泣きたくなることがあるという。「人々が私を批判して、男性が私に怖がっていたと言う。それには、泣きたくなる」と綴る彼女は、過去の撮影現場について、こう振り返った。
「数百人の男性がいる撮影現場で、私がたった1人の女性になることは多かった。数百人の男性と私。私が働き始めた頃には、料理のケータリング屋でさえ女性がいることはなかった。私のメイク担当もヘア担当も、男性だった。撮影現場にいるたった1人の女性、たった1人の裸の女性であることがどんな感じか想像できる?いても1人か2人の女性が側にいるだけで。衣装か脚本家の。なのに、私が怖がらせていた側だと言われている」
現在でも、撮影現場において女性が少ないことは指摘されている。しかし、シャロンが若い頃には、彼女しか女性がいないことも多々あった。数百人の男性に囲まれるなかで、自分だけが女性という状況は、それだけ厳しいものがあるだろう。しかもそのなかで、裸でいなければいけないだなんて、話を聞くこちらまで動悸がしてくるような状況。怖い思いをしていたのは明らかにシャロンのほうだけれど、気丈に振舞っていたであろう彼女は、威圧的だったと批判される。
職場において、競争心や積極性などの俗に“男らしい“と言われる姿勢が求められる一方で、女性であれば、優しさや穏やかさといった俗に言う“女らしい“姿勢が求められるといった、2つの対立する要素の間で板挟みになることは「ダブルバインド」と呼ばれる。女性はこの状態になることが多く、また、女性が“男らしく”振るまえばシャロンのように“威圧的”と言われることは多い。
撮影のために裸でいたシャロンですらこう言われるという事実には、他の多くの女性が直面する過酷な現実も浮かび上がる。
しかしシャロンの心が負けることはない。彼女は2019年に、米GQのWoman of the Yearに選ばれた際、「私たちは、自分で選んだどのような形のセクシャリティの中でも、パワフルでいられる権利があります。そして、誰もそれをあなたから奪うことはできない」と、力強いスピーチを送った。(フロントロウ編集部)