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ハリウッド映画やドラマに登場するアジア系のキャラクターの描かれ方は、アジア系のルーツを持つ人々に対する偏見や差別を助長する一端を担っている? ハリウッドで今、最も注目されるアジア系俳優の1人であるロス・バトラーが、それに加担しないための“自分なりの抵抗”について語った。(フロントロウ編集部)

ロス・バトラー、アジア系へのステレオタイプを永続させないための抵抗

 ディズニーチャンネルで2015年から約3年間放送されたゼンデイヤ主演のドラマ『ティーン・スパイ K.C.』でその名が知られるようになり、近年ではNetflixのオリジナルシリーズ『13の理由』のメインキャラクターの1人であるザック・デンプシーを演じた俳優のロス・バトラーは、DCEU(※)映画『シャザム!』やドラマ『リバーデイル』、Netflixの大ヒットロマコメ映画『好きだった君へのラブレター』の続編2作などへの出演で、アメリカ本国ではすっかりお馴染みの役者となった。

※DCエクステンデット・ユニバース:DCコミックスを原作とするメディア・フランチャイズ及びシェアード・ユニバース

画像: ロス・バトラー、アジア系へのステレオタイプを永続させないための抵抗

 中国とマレーシアの血を引く母とイギリスとオランダの血を引く父を持つロスは、シンガポールで生まれ、4歳の時に母とアメリカに移住。以来、ずっとアメリカで育ち、自分をアジア系アメリカ人だと認識している。

 そんなロスは、今から約5年ほど前の米Mashableとのインタビューで、アジア系と限定してキャストを募集している役のオーディションは一切受けないことに決めたと告白。

 その理由について、最近応じたThe Talkとのインタビューで、ハリウッド作品で描かれる偏った・誤ったアジア系の人々のイメージに納得がいかず、そういった既成概念を助長することに加担したくはないため、また、人生の大半をアメリカで過ごしてきた自分自身のアイデンティティとは重ならないためだと、あらためてこう掘り下げた。

 「6、7年前まで(ハリウッドにおける)アジア系の役はぜんぶステレオタイプ(定型化)されていた。それをこれ以上永続させたくなかったし、それらの役は僕自身を反映するものではない。僕はアジア系アメリカ人。ここで生まれたわけじゃないけど、ここで育った」


「モデル・マイノリティ(手本となる少数派)」とは?

 さらに、映画やドラマに登場するアジア人キャラクターのイメージが、アジア系に対する差別や偏見を助長する要因の1つとなってしまっているのではないかとも考えているというロス。「ステレオタイプの別の言い方である、『モデル・マイノリティ・ミス』と呼ばれるものに起因しているんじゃないかと僕は思う。アジア系の人たちが“優れた少数派”だという事実ではない考え方からね」とも話している。

画像1: 「モデル・マイノリティ(手本となる少数派)」とは?

 「モデル・マイノリティ・ミス(Model Minority Myth/モデルマイノリティの俗説)」とは、実際には差別を受けているマイノリティ(少数派)を理想化したり、過剰に称賛したりする歪んだ差別の形のことを言う。

 「モデル・マイノリティ」とは日本語にすると「手本や見本となる少数派」という意味で、差別をされていても、教育やビジネスで成功を収めたり、法律や規則に従って社会の中でも規範となるような少数派のことを示す。

 アメリカではとくにアジア系の人々に対して使われることが多く、かなり噛み砕いて表現すると、“自分の立場をわきまえつつ、不条理にも反抗せず、社会に貢献する従順な少数派”という解釈も。

 「ミス(Myth)」とは「神話」のことで、実際には、モデル・マイノリティなどという考えは誤った通念であり、社会が勝手に作り出した虚像にすぎないということを表している。

画像2: 「モデル・マイノリティ(手本となる少数派)」とは?

 アジア系だけに限らず、モデル・マイノリティと称される人々が、皮肉にもそう呼ばれるほどになるまでの努力をしてきた背景には、移民に対する敵意や言語の壁など、さまざまな要因による不利な状況を乗り越えて、アメリカ社会で認められるようになろうとしたことが根底にある。

 しかし、それを逆手に取り、ステレオタイプにはめ込んで、ひとくくりにし、都合良く扱う行為は差別にあたる。

 「こういう問題について、早く世間でオープンに議論が交わされるようになれば、僕たちが経験しているマイノリティへの差別を乗り越える近道になるはず」とロスは語っている。


お笑い担当、オタク、風変りなアクセント

 近年、白人の役者が選ばれがちな役を勝ち取ってきたロスや、彼と肩をならべるドラマ『リバーデイル』の韓国系アメリカ人俳優チャールズ・メルトンといった新世代の俳優たちの活躍ぶりは異例で、アジア系の俳優が人種に関係のない役に選ばれることはまだまだめずらしい。

画像: チャールズ・メルトン

チャールズ・メルトン

 「モデル・マイノリティ」は、少々分かりにくい例だったかもしれないが、ハリウッド作品に代表される欧米の映画やドラマ、アニメなどにおけるアジア系のキャラクターの描かれ方に偏りがあることには、多くの人が気づいているはず。

 アジア系のキャラクターは、コミカルで奇抜なお笑い担当や、やたらと数学や科学、ITに精通しているインテリ系、陰キャなオタクといったクセのある脇役か偏執的な悪役などに甘んじることが多い。

 有名どころでは、韓国系アメリカ人俳優のケン・チョンやランドール・パークがよくタイプキャストされている役と言ったら、映画好きの人にはピンと来やすいかもしれない。

画像: 左:ケン・チョン、右:ランドール・パーク

左:ケン・チョン、右:ランドール・パーク

 さらに、俳優たちは、役を演じるうえで、“アジア系っぽい”アクセントを求められることもしばしば。

 ドラマ『ウォーキング・デッド』のグレン役でおなじみの韓国系アメリカ人俳優のスティーヴン・ユァンは、若い頃に受けたあるオーディションで「良かったよ。アジア系のアクセントでもう一度やってもらえるかな?」と、クセのあるアクセントで演技をやり直すよう要求されるという屈辱的な体験をしたことを明かしている。

画像: スティーヴン・ユァン

スティーヴン・ユァン


過剰な性の対象化、フェティッシュ化

 アジア系女性の場合には、上記のステレオタイプにくわえて、過剰な性の対象化(オーバー・セクシャライゼーション)や「アジア系女性はセクシーで尻軽」といったイメージを植え付けることで誤ったフェティッシュを増殖させるような女性蔑視的な描写も上乗せされることがある。

 最も有名なのが、スタンリー・キューブリック監督によるベトナム戦争を題材にした1987年の映画『フルメタル・ジャケット』に登場にするアジア人売春婦のシーン。

 体をくねらせながらアメリカ人兵士に近づいてきた女性が、たどたどしい英語で「私、すごくムラムラしてる」「私、長く愛してあげる」などと売春を持ちかける。

画像: ©YouTube

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 韓国系アメリカ人の元MTVリポーターのス―チン・パクは、ある同僚が別室で同作の「あのシーンに登場する女性にそっくりだ」と、自分を笑い者にしているのを聞いてしまい、ひどく傷ついたと、昨今アメリカ全土に広がっているアジア人に対する差別撤廃を訴える「Stop Asian Hate/ストップ・アジアン・ヘイト(アジア系への差別をやめよう)」のムーブメントを機に告白している。

画像: スーチン・パク

スーチン・パク

 2002年公開の映画『オースティン・パワーズ ゴールドメンバー』に登場するセクシーな日本人の双子の姉妹「フクミ」「フクヨ」は、英語ではそれぞれの名前が「F*ck Me(私を犯して)」「F*ck You(あなたを犯す)」と聞こえるという性的なパンチラインになっている。

 それだけでなく、マイク・マイヤーズ演じる主人公のオースティンを「トップシークレットなマッサージをしてあげる」と誘惑し、彼女たちと3人でセックスをしたことを連想させるシーンも。

画像: ©United Archives/Impress/United Archives/Newscom

©United Archives/Impress/United Archives/Newscom

 ジョークや演出として取り入れられたアジア系女性の過剰な性の対象化が、直接的に数字に結びついているという証拠はないが、2016年にNational Network to End Domestic Violence(家庭内暴力を終わらせる全米ネットワーク/NNEDV)が発表した調査データによると、生涯においてパートナーから身体的暴行や性的暴行を振るわれた経験があると答えたアジア系女性は41~61%とかなり多く、NNEDVは「アジア系女性に対する日常的な人種差別、性差別は命に関わる結果を生じさせています。女性たちの人間性を抹殺することが、暴力を振るっても許されるという誤った風潮を生み出しているのです」と結論づけている。


人種差別と性差別は交差するもの

 3月16日にジョージア州アトランタで3つのアジア系スパ・マッサージ店を銃撃し、6名のアジア系女性を含む8人の命を奪った白人の男ロバート・アーロン・ロングは、犯行の動機は人種ではなく、長きにわたって自身を悩ませてきたセックス依存症が一因だと警察に話していると発表されている。

 米New York Timesほかの報道によると、襲撃されたマッサージ店は性的サービスを提供していたという情報もあり、過去に売春の疑いで警察の捜査が入ったとも伝えられている。そういったマッサージ店を標的とした理由について、ロングは自分を「誘惑するものを抹消したかった」と供述しているという。

画像1: 人種差別と性差別は交差するもの

 アジア系の人口が4%のジョージア州で、意図的にアジア系の人々が働くマッサージ店を狙った犯行を、アジア系へのヘイトクライムだと明言しない警察に批判が集まる一方で、被害者たちを人間ではなく“モノ”であるかのように見ていたとするロングの捻じ曲がった価値観には、アジア人女性を軽視する社会の風潮が少なからず影響を与えたのではないかとの見方もある。 

 中国系イギリス人である映画『キャプテン・マーベル』のジェンマ・チャンは、アトランタの事件について報じたThe New York Timesの記事をSNSで共有し、「どうか、みなさん、今起きている事に注意を払ってください。(中略)人種差別と女性嫌悪はそれぞれ独立したものではないのです。私たちの多くが、性的な人種ハラスメントや暴力に日常的に直面しているのです。アジア人の非人間化をストップしなければなりません」などと訴えた。

画像: ジェンマ・チェン

ジェンマ・チェン

 人種差別や外国人嫌悪(ゼノフォビア)の問題は以前から存在したが、新型コロナウイルスが初めて確認されたのが中国だったことがきっかけとなり、アメリカでは、コロナ禍を通してアジア系人種に対するヘイトクライムが急増。

 アトランタでの銃撃事件以外にも、1月には、サンフランシスコでタイ出身の84歳男性が襲われて死亡。2月には、ニューヨークで電車に乗っていた61歳のフィリピン系アメリカ人男性が刃物で顔を切りつけられ、左のこめかみから右頬まで達する長さのケガを負ったほか、3月には、76歳のアジア系アメリカ人女性が男性に殴られ、応戦するという事件が起きた。

 南アジアとアフリカ系の血を引くアメリカ初の女性副大統領であるカマラ・ハリス氏は、3月19日の記者会見で、アメリカ全土で過去1年間に起きたアジア系アメリカ人に対するヘイトクライムの件数が3800件を超えたと悲痛の報告。その被害者の3分の2が女性だと伝えた。

画像2: 人種差別と性差別は交差するもの

 3月21日から22日の週末には、全米各地でアジア系に対する差別の撲滅を訴える抗議デモが開催。韓国移民の両親を持つカナダ人であるドラマ『キリング・イヴ/Killing Eve』のサンドラ・オーがペンシルベニア州で行なわれたデモに飛び入り参加してスピーチを行なったほか、女性の参加者たちも多くみられた。

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(フロントロウ編集部)

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