シンガーのジャスティン・ビーバーの新アルバム『Justice(ジャスティス)』に収録されている演説の内容が気になる!さらに、そのスピーチをめぐって一部のファンから批判の声があがっているワケとは?(フロントロウ編集部)

『ジャスティス』に収録されている「約2分間の演説」

 デビューしてから10年以上、音楽業界のトップを走り続けるシンガーのジャスティン・ビーバーにとって、約1年ぶりとなるニューアルバム『Justice(ジャスティス)』。
 
 日本語で「正義」を意味するタイトルがつけられたこの新アルバムのなかで、異彩を放っているのが、実質、アルバムの7曲目で、「Die For You (ダイ・フォー・ユー)」の直前に収録されている「MLK Interlude」。収録曲だと思って聞いたら、曲でもなければ、ジャスティンの声でもないことに「?」となった方もいると思うが、じつはこの声の持ち主はアフリカ系アメリカ人公民権運動の指導者でキング牧師の呼び名で親しまれる、故マーティン・ルーサー・キング・ジュニア(以下キング牧師)。

 白人と有色人種とでは決定的な差別があった社会で、肌の色ではなく人格そのもので評価される社会の実現を訴えたキング牧師は、アメリカの人種差別撤廃に向けて大きく貢献した人物として知られ、1963年に大規模集会で行なった演説「私には夢がある(I Have A Dream)」は、日本の教科書にも載るなど、アメリカだけでなく世界中に計り知れない影響を与えた。

画像: 『ジャスティス』に収録されている「約2分間の演説」

 「MLK Interlude」は、そのキング牧師が亡くなる前年の1967年11月5日にアトランタのエベニザー・バプティスト教会で行なった説教の一部で、ジャスティンの強い希望により収録が実現。内容が気になった方のために全訳したものがこちら。

今朝、あなたにお伝えしたいのは、もしあなたが自分にとって死ぬほど大切なものを見つけたことがないなら、あなたは生きるのにふさわしくないということです。

あなたは私と同じ38歳かもしれません。
ある日、あなたは素晴らしい機会に恵まれます。
そして、大原則のために立ち上がることを求められます。
何か大きな問題や大義名分のために立ち上がることを求められます。

しかし、あなたは恐れるあまりそれを拒みます。
あなたは長生きしたいがためにそれを拒むのです。
あなたは仕事を失うことを恐れているのです。
批判されることを恐れているのです。
人気がなくなることを恐れているのです。
あるいは誰かに刺されたり、撃たれたり、家に爆弾を落とされたりするのではないかと恐れているのです。
だからあなたは態度を明確にすることを恐れているのです。

あなたは90歳まで生きるかもしれません。
しかし、(今ここで何もしなければ)90歳まで生きたとしても、38歳で死んだも同然です。
何もしない人生で息をする感覚は、遅れてきた精神の死の告知に過ぎません。

あなたが死ぬのは正しいことをするために立ち上がることを拒んだときです。
あなたが死ぬのは真実のために立ち上がることを拒んだときです。
あなたが死ぬのは正義のために立ち上がることを拒んだときです。

一部のファンから批判が集まっているのはナゼ?

 キング牧師の演説が引用されているのは「MLK Interlude」だけではない。アルバムの1曲目に収録されている「2 Much(トゥー・マッチ)」の冒頭でも、「どこかで起きている不正は、どこかで起きている正義を脅かします」という、キング牧師が1963年に行なった演説の一節が使用されている。

 しかし、それに続く「2 Much」の歌詞は、“愛する人を見つめることができる時間を1秒でも無駄にしたくない”という、キング牧師の演説はもちろんのこと、アルバムのタイトルである「正義(Justice)」ともまったく無関係の内容となっている。それどころか、アルバムに収録されている楽曲の大半が、妻でモデルのヘイリー・ビーバーに捧げるラブソングであることから、「キング牧師の演説が使用されている意味がわからない」「何の関連があるの?」など一部のファンから混乱や批判の声があがる事態に。

画像: 一部のファンから批判が集まっているのはナゼ?

 たしかにキング牧師の演説は今世界が抱えている社会問題と合致しているが、『ジャスティス』の収録曲のなかに差別や不平等について歌った曲は1曲もないので、ファンが疑問に感じるのも無理はない。

キング牧師の娘がジャスティンを擁護

 ファンや批評家からはネガティブな意見が多いが、キング牧師の末娘であるバニース・キングは自身のツイッターで、「アーティストやエンターテイナーを含め、私たち一人ひとりにできることがあります。The King Centerと正義のための世界的な運動の一環であるBe Loveキャンペーンに協力してくれてありがとう」とジャスティンに感謝。

 演説とアルバムの関連性はともかくとして、ジャスティンは『ジャスティス』の発売を記念して、バニースが代表を務めるNPO団体「The King Center」や、困窮世帯の子供たちに学用品を配布する慈善団体「Baby2Baby」など、社会に貢献する計10団体への支援を表明していることから、どんなかたちであれ、キング牧師の言葉にもあったように“行動を起こすことが大事”だとしてジャスティンを擁護している。

ジャスティンが『ジャスティス』に込めた思い

 白人であるジャスティンは、これまでの人生でいわゆる“白人の特権(White Privilege)”を存分に得てきただけでなく、長らく迫害されてきた黒人たちが作り上げた黒人文化の恩恵も受けてきたことを本人も認めている。本人に悪気はなかったものの、過去にファッションの一部としてドレッドヘアを取り入れた際に、“黒人文化の盗用(※)”だとして批判を浴びたこともある。
※ある民族の文化的要素を、その文化に属していない人たちがファッションの一部などとして安易に取り入れること。

 だからこそ、昨年、黒人に対する暴力や差別の撤廃を訴える抗議運動「Black Lives Matter/ブラック・ライヴズ・マター(黒人の命にも価値がある)」が活発化した際、「今後、僕は自分のプラットフォーム(セレブという立場)を使って、人種差別問題について学び、人種間の不平等や制度的な制圧に対して声を上げ、今最も必要とされている“変化”の一部になるための方法を見つけていきます」(※インスタグラムから一部抜粋)と、これからはもっと人種差別問題について積極的に発信し行動に移していくことを誓っていた。 

画像: ジャスティンが『ジャスティス』に込めた思い

 その言葉通り、自身のSNSを通じて定期的にBLM関連の投稿を行なっているジャスティンは、インスタグラムに自身の思いをこう綴っている。

 「みんなに人種差別が悪であるということ、そして人種差別は僕たちの文化に根付いているということを理解してもらいたいんだ。僕は僕の黒人の兄弟や姉妹に、自分たちは支えられている、自分たちの姿はちゃんとみんなに見えている、自分たちは大切にされていると感じてほしい」

 そんなジャスティンが、『ジャスティス』を通してやりたかったのは、「キング牧師の声を今の時代に増幅させること」だという。

 「『MLK Inerlude』のスピーチは、彼が大義のために死のうとしていた時に行なわれたもので、彼が立ち向かったのは結局、人種差別と分断だった。彼がこのメッセージで伝えたかったのは、多くの人が正しいことのために立ち上がることを恐れているけれど、もし正しいことのために立ち上がらないのであれば、その人生に一体何の意味があるのかということだと思う」と話すジャスティンは、「深い話になっちゃって申し訳ないけど、これが僕たちの生きている時代なんだ。だからこそ、僕はこのアルバムを作りたかった。これは非常にタイムリーで、必要なことだったと僕は思ってる」と米Vogueに語っている。(フロントロウ編集部)

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