“100%あげるだけ”の『Buy Nothing Project』
地球環境の保護はもちろん、本当の豊かさとは何かを見つめ直すという意味でも近年注目を集めているサステナビリティ(環境・社会・経済の3つの観点から、世の中を持続可能にしていくという考え方)。
モノがあふれがちな現代人の生活のなかで、一体どうやったら廃棄を減らし、限りある資源を守っていけるかということも大きな課題の1つ。
そんな課題に、原始的な方法で向き合っているのが『Buy Nothing Project(バイ・ナッシング・プロジェクト』と呼ばれるグループ活動。
文字通り、「買わない」ことで無駄を削減し、地域の人々のあいだで不要な物を譲り合うことで、末永く使ってもらおうということを目的としているこの活動は、2013年にアメリカ・ワシントン州に暮らす女性たちが考案し、スタートしたもの。
ギフトエコノミー(※)の精神に基づき、現金のやり取りや物々交換は一切禁止で、地域ごとに管理されているフェイスブックのグループページに寄せられる「あげます」「ください」というメッセージをもとに、提供者は見返りを求めず、100%無償で不要なアイテムを相手にあげることができる。
※Gift Economy=「等価交換を主とする経済」ではなく、「見返りを求めず、与えることを優先する経済」のこと
地域の人々の絆を育む
現在、世界44カ国のさまざまな地域に「Buy Nothing Group(バイ・ナッシング・グループ)」が存在し、日々、やりとりが繰り広げられているけれど、サステナビリティを意識して始められたこの活動は、結果として、地域の人々の連帯感を生み出し、絆を育むことにもつながっているという。
カナダ・マニトバ州にあるリバー・ハイツ地区のBuy Nothing Groupの共同管理人をしているアマンダ・グレイズマンは、同グループの活動は、単なる不用品の“あげ合い”の域を超えていると、加Winnipeg Free Pressにこう語る。
「物をあげたり、もらったりするだけでなく、人々は感謝を表したり、貴重な時間や能力を注いでいます。近所の住民たちがつながりを持つことにも、すごく貢献しているんです」。
リバー・ハイツに引っ越してきたばかりの頃は、まったく友人もおらず、4軒ほどの隣人と顔見知り程度だったというアマンダだが、Buy Nothing Groupに参加したことで、近所の住民たちはもちろん、地域のほとんどの人たちと知り合いになったそう。
参加者が増加し、今では3つに分かれることとなったリバー・ハイツ地区のBuy Nothing Groupでは、不用品の無償譲渡以外にも、困り事を解決したり、ちょっとしたヘルプを申し出たりする人々も。
アマンダは、「私の子供の火山の模型が壊れてしまったときに、『誰か直せる人はいませんか? 』と聞いてみたんです。すると、同じ通りに住むある女性が協力を申し出て、直してくれました。私の子どもたちは、今では彼女のことを『火山レディ』と呼び、家の前を通るたびに手を振っています」と、グループのフェイスブックページに書き込んだことが縁で交流が生まれたと体験談を明かしている。
日本にもグループが存在 自分でグループを始めることも可能
ご近所さんとの物の譲り合いや、それによって深められる絆は、なんだか、昭和やそれ以前の日本にも、ごく当たり前のように存在した古き良き地域交流を彷彿とさせる。
現在は、とりわけ都会では、そういったつながりは希薄になってしまったけれど、安全やプライバシーに関するグループ規則を尊重したうえで、私利私欲を捨てて、みんなでサステナブルなライフスタイルを目指そうというのがBuy Nothing Projectの狙い。
なかには、ルールに反して金銭を要求したり、詐欺をはたらこうと目論んだりする輩も潜んでいるので注意が必要だけれど、各グループの管理者たちは、新規参加者への審査を強化するとともに、違反者は即刻排除するなど厳しい姿勢で取り組んでいる。
ちなみにパンデミック禍では、感染拡大防止のため、屋外での受け渡しが鉄則とされている。
Buy Nothing Groupの公式ウェブサイトに掲載されているリストによると、日本でも、すでに愛知県・長久手市、神奈川県・横須賀海軍基地、沖縄県キャンプ・コートニー、山形県鶴岡市の4つのグループが活動中。
最寄りの地域にグループが存在しない場合には、自分が管理人となってグループを発足・運営することもできる。
これまでは、おもにフェイスブックのグループ機能が使用されてきたけれど、Buy Nothingは、現在、スマホやタブレット端末用のアプリを開発中。今後さらに使いやすくなりそう。
地球を思いやることは、そこに暮らす仲間を思いやり、協力し合うことでもある。サステナブルなライフスタイルにくわえて、人と人とのコミュニケーションを促すBuy Nothing Projectに要注目。(フロントロウ編集部)