世界最大のLGBTQ+イベントのひとつであるニューヨーク・プライドが、NYPD(ニューヨーク市警察)などの法執行機関がイベントに参加することを2025年まで禁ずると発表した。その理由とは? フロントロウ編集部が解説。

ニューヨーク・プライドが警察のイベント参加を禁止

 世界で最も有名なLGBTQ+プライドイベントのひとつであるニューヨーク・プライドの主催団体ヘリテージ・オブ・プライドが、警察や刑務官といった法的執行機関の関係者がプライドイベントに参加することを2025年まで禁ずると発表。

 「NYCプライドは、LGBTQIA+とBIPOC(※黒人、先住民、有色人種)コミュニティのために、より安全な空間を作ることを目指していますが、その一方で、社会の中で取り残されたグループ、特にBIPOCとトランスのコミュニティに対する暴力がエスカレートし続けています。法執行機関が提供する安心感は、過剰な力や理由のない力で狙われることの多い私たちのコミュニティにとっては、かえって脅威となり、時には危険なものとなります」と、公式声明で理由を語った。

画像: ストーンウォールの暴動から50周年だった2019年には史上最大の約400万人がニューヨーク・プライドに集まった。

ストーンウォールの暴動から50周年だった2019年には史上最大の約400万人がニューヨーク・プライドに集まった。

 さらに団体は、イベントにおける警備の中枢をNYPDから「コミュニティから成るセキュリティとファーストレスポンダー(※消防、救急など)」へと移行すると発表。そのために、セキュリティと初動対応の予算を拡大し、訓練を受けた民間警備員、コミュニティ・リーダー、ボランティアに警備や救急対応などを任せ、NYPDからの支援は市当局が定めた「絶対に必要な場合」にのみ要請するという。

 ニューヨーク・プライドのパレードに例年参加している、LGBTQ+の警察関係者からなる団体Gay Officers Action League(GOAL)は緊急声明を出し、「ヘリテージ・オブ・プライド(NYCプライド)は長年にわたり当団体の大切なパートナーでした。当コミュニティの一部の活動家をなだめるために突然の方向転換を行ったことは恥ずべきことです。GOALと私たちのメンバーは、ニューヨーク市のLGBTQIA+コミュニティに関わるすべての警察改革や政策改正に助力してきました」と、今回の決断を批判した。

 一方でヘリテージ・オブ・プライドは今回の発表に至るまでに何ヵ月も協議を重ねたとしており、NYPDを締め出すという決断は、「法執行機関が自分たちによる害を認めるためと、今後の方向性を修正するよう要求するため」だとしている。

ストーンウォール、警察による差別、フロイド事件などが理由

 刑務官や警察の排除という決断の背景には、いくつかの理由がある。

 まず、ニューヨーク・プライドに警察がいることはおかしいという声は、一部の参加者からずっと挙がっていた。というのも、プライドパレードの発端となった事件が警察の弾圧からの解放だったから。

画像: ストーンウォール・イン(左の建物)は歴史を作った場所として今でも愛されている。

ストーンウォール・イン(左の建物)は歴史を作った場所として今でも愛されている。

 LGBTQ+コミュニティに対する差別が今よりさらに色濃かった1969年6月最後の週末に、ニューヨークのゲイバーであるストーンウォール・インに警察が立ち入り捜査を決行。LGBTQ+コミュニティでは日常的な光景だったものの、この日初めて、その場にいた人たちが警察に反発。ストーンウォールの暴動という名前で知られるこの出来事は、LGBTQ+コミュニティが権力に立ち向かった歴史のターニングポイントとして知られ、事件から1周年の日にニューヨークで初のプライド・パレードが開催。その後6月はプライド月間とされ、現在ニューヨークでは毎年6月最後の日曜日にプライド・パレードが開催されている。

 それから約50年のあいだにニューヨーク・プライドと警察は歩み寄りを見せたものの、2021年5月にUCLAのウィリアムズ・インスティチュートが発表した調査で、クィアの人々はストレートの人々に比べて警察から職務質問やプロファイリングをされる可能性が6倍高いことが判明。この偏見には各方面から批判が挙がっている。

 さらに昨年起きた、警察官による黒人男性ジョージ・フロイドの殺害事件をきっかけとしたブラック・ライヴズ・マター運動の激化で、黒人に対する警察の過剰な武力が次々と明るみになっていることも、警察に対する不信感を増長させている。

 そして今回、警察に当事者意識を持ってアクションを起こしてもらうために、という思いからイベントへの出入り禁止という措置がとられた。2021年のニューヨーク・プライドのテーマは「闘いはつづく(The Fight Continues)」。メインイベントであるプライド・マーチは6月27日(日)にバーチャル形式で開催される。(フロントロウ編集部)

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