2016年→2040年で海洋ごみ流出量は3倍に
2050年には海で魚よりもごみの量が多くなるという衝撃的なデータが2016年に発表され、これまでの“(資源を)取って・(ものを)作って・捨てる”という一方通行なプロセスの代償の大きさにスポットライトが当てられてから約5年。
データが発表された2016年の時点で毎分5トントラック1台分のプラスチックが海に排出されているとされたけれど、2020年8月には、年間のプラスチックごみの海洋流出量は2040年までに2016年の3倍近くになるというデータが発表され、この約5年の海洋ごみ削減の取り組みでは、到底、解決に向かえないことが明らかになった。
自分が捨てたプラスチックを食べている
プラスチックが1950〜60年代の工業化で安価で大量生産できるようになってから、社会で使われるパッケージは瓶・紙・布・網などからプラスチックへとシフトした。しかしプラスチックは土に還るのに数百年がかかる。さらに1950年〜2015年のあいだに廃棄されたプラスチックのうち、リサイクルされたのはわずか9%、焼却されたのは12%。つまり私たちが1950年から使ってきたプラスチックは、その約80%が何かしらの形で地球に残っているということ。捨てられずにリサイクルも難しいため半永久的に残るプラスチック製品は、そもそもデザイン不良商品であることが近年ついにわかった。
そして地球に残されたプラスチックの多くは自然界に流れており、例えば2021年に発表された調査結果では、人間が食べる種を含めて数百種の魚の中からマイクロプラスチックが発見された。つまり私たちは、自分たちが生活の中から排出したプラスチックを巡り巡って自分たちに食べさせているということ。
事業成長とサステナブル社会の両立を目指すD2CブランドP.G.C.D. JAPAN(ペー・ジェー・セー・デー)のCEO野田 泰平氏はこの現象を、日本の四大公害病であり、日本の環境省ができたきっかけとなった水俣病と重ねる。「水銀をそのまま海に流していて、それを食べた魚を人間が食べて水俣病にかかったんです。マイクロプラスチック問題も同じですよね。人のためと思って作っていたものが結局はまわりまわって自分の体を壊していっている」。
お風呂場のヘアケアだけで3.6本のプラボトル
人にとっても地球にとってもサステナブルではない今の状況を変えるために、環境に優しいプラスチックの開発など各国で新たなイノベーションが進んでいるなか、野田氏はシンプルに帰ることもイノベーションだとする。
「人口が多くなっていて、技術も進歩していく成熟している時代の中に、やはり足るを知るであったり、日本の文化で言う断捨離だったり、シンプルであることはイノベーションだと思うんです」。
野田氏によると、私たちのお風呂場に置かれているプラスチックボトルのヘアケア商品は平均3.6本。「髪の毛を洗うためだけの行為になぜか3.6本のボトルが必要になっていて、ということは、3.6回水を流しているということ。こんな技術が進歩した時代にもかかわらず減っていない。3.6本と3.6回の水を流していることから何も変わらない世の中。僕からするとすごくおかしい」。
そうした今の“おかしい”を変えるために、野田氏のブランドP.G.C.D. JAPANでは、リンス不要、トリートメント不要な固形石けん「サボン モーヴ」を開発。「僕たちが石鹸というプロダクトを選んだ理由のひとつとして、本物であるというのが定義にありました。その本物の定義が何かというと、流行りものではなく、時間のふるいに残っているものです。石鹸って1300年の歴史があるんです。日本でいうとおみそと一緒なんです。1300年の歴史の中で色々な時代で残ってきた本物のプロダクトなのでそれだけオーガニックなんです。それだけナチュラルなものなんです」と野田氏。
P.G.C.D. JAPANでは日本からヨーロッパまで世界各国でコンペを行ない、最終的に現在の固形石けんの原型を生み出したと言われる石鹸大国フランスでも著名なロルコス社と組み、200回以上の試作・試用、4年半の歳月をかけて、プラスチックボトルを使わないゼロウェイストなスカルプケアソープを開発。原材料には、紫外線対策として紫外線が強い高山に育つ植物などが、保湿成分として乾燥地帯で生き抜く植物がと、厳選された天然素材が使われ、洗うだけではなくスキンケアする、“人も地球も美しく。”というコンセプトの商品を誕生させた。
同社はSDGs(持続可能な開発目標)活動への積極性が称えられて2020年に小泉環境大臣から表彰されたほか、現在は、商品やパッケージだけでなく、商品が作られている工場が環境に配慮されているかなど、審査が非常に厳しいことで知られるヨーロッパのオーガニック認証の商品も開発、販売しているという。
ものを買うとき、そこに未来は想像できる?
生活から無駄なものを減らすためには、発想の転換も重要になってくる。
野田氏はその一つとして、ものを買うという行為との向き合い方を挙げる。「ものを買う行為というのは、未来を買う行為なんです。私はAよりもBの商品を買う。なぜならばどっちの方が未来に対してポジティブなのかというとBだから。ものを買うという行為は実は今を満足させる行為ではなくて、未来を選択する行為につながっているんです。だからこそ、何を買うかがすごく重要だということをヨーロッパの人たちはすごく知っている。そのトレンド、その価値観が、この先の成熟していく我々の時代においてはとても重要なのかなと思っています」。
ほかにも、“こうでなくてはいけない”という呪縛から解放されることが物からの解放に繋がる場合もある。例えば、2020年12月に日本で実施された調査では、77%以上がメイクをする理由として“マナーだから”を挙げたという。メイクはそれぞれがしたければする、したくなければしない環境が整えられるべきだが、本当はしたくないのにしている場合は、それだけ本来は必要のないものを買っているということ。
野田氏は、「する必要がないものはする必要がない、毎日する必要がないものは毎日する必要がない。そういうことでもっともっと自分の生活をシンプルにしていくことが結果的にはゴミを出さないということになります」と語る。
大きくてもいいが、小さくてもいい。1人ひとりが、自分にできる意識改革やライフスタイルの変化を起こすことに明日を変えるパワーがある。ごみゼロウィークにぜひ考えてみて。(フロントロウ編集部)