ひと夏の恐怖を描く『ミッドサマー』
映画『ミッドサマー』は、MCU映画『ブラック・ウィドウ』のエレーナ役を務めたフローレンス・ピューが主演のホラー映画。2020年に日本で公開され、現在でもカルト的な人気を誇っている。
本作は、スウェーデンの山奥にある架空の村“ホルガ”で90年に一度だけ開催される祝祭を見学しに行く5人の大学生たちの旅の様子を描いており、監督を務めたのは、映画『へレディタリー/継承』で知られる鬼才アリ・アスター。
意味深なシーンがてんこ盛りの『ミッドサマー』は公開後多くの反響を呼び、SNSには本作の考察をする投稿が溢れかえったが、このたびアリ・アスター監督自身が、『ミッドサマー』が影響を受けた9作品を米Indie Wireのインタビューで明かした。
『ミッドサマー』が影響を受けた映画
映画『Modern Romance(モダン・ロマンス)』(1981)
俳優として知られるアルバート・ブルックスが監督、主演を務めたロマンティックコメディ。本作は、映画監督の主人公が、恋人と別れるものの、彼女なしではダメだと気づき、復縁するために奔走するというストーリー。アスター監督は、本作での失恋の様子が『ミッドサマー』制作のヒントになったと語っている。
ドラマ『ある結婚の風景』(1973)
スウェーデンの巨匠、イングマール・ベルイマンによって制作されたミニシリーズの本作は、10年間連れ添ったある夫婦が離婚に至るまでの様子を描き出している。大のベルイマン好きであることを明かしたアルター監督は、『ミッドサマー』を作っているときはずっとベルイマン作品のことについて考えていたと言い、『ある結婚の風景』は「究極の別れの映画であり、それを超えることはない」と捉え、そこからインスピレーションを受けたそう。
映画『ドッグヴィル』(2003)
2003年にデンマークで制作された『ドッグウィル』は、ラース・フォン・トリアー監督によるスリラー映画。ニコール・キッドマン、ポール・ベタニー、クロエ・セヴィニーなどの有名俳優が参加している。ロッキー山脈の麓に孤立する村ドッグヴィルで起きる不気味で恐ろしい出来事を描いた本作では、特にエンディングシーンに影響を受けているそうで、アスター監督は「(映画制作の際は)観客が喜ぶような結末にしたいと思っているけれど、同時に、皆さんが直面しなければならないような複雑なものにしたいとも思っている」と、制作におけるモットーを明かした。
映画『ざくろの色』(1969)、映画『火の馬』(1965)
ソ連の巨匠セルゲイ・パラジャーノフ監督による『ざくろの色』は、18世紀のアルメニアの詩人サヤト・ノヴァの生涯にオマージュを捧げる詩的で美しいアート映画。同じくパラジャーノフ監督の『火の馬』は、ウクライナの文豪ミハイル・コチュビンスキーが1911年に発表した小説をもとに制作され、激動の時代に揉まれる男女の切ない姿を描き出している。この2作品には美術面で大きな影響を受けたそうで、プロダクションデザイナーのヘンリックス・ヴェンソンに見せた後、舞台セットの制作を始めさせた。
映画『散歩する惑星』(2000)
スウェーデンを代表するロイ・アンダーソン監督による『散歩する惑星』は、とある惑星に住む人々の不思議な日常や、不安定な社会の中で迷走する人々の姿をシュールに描き出した名作。アスター監督は「ロイ・アンダーソンは私にとって本当に重要な映画制作者」と明言し、特に、画面上に人がたくさん集まるシーンの参考にしたという。
映画『黒水仙』(1947)、映画『ホフマン物語』(1951)
イギリスのクラシック映画『黒水仙』は、ヒマラヤ山の女子修道院に住む尼僧たちの人間模様を描いた異色の名作として現在でも語り継がれ、テクニカラーと呼ばれる彩色技術を用いた非常に美しい名作。『ホフマン物語』はオペレッタ『天国と地獄』などで知られる作曲家ジャック・オッフェンバックのオペラ『ホフマン物語』を映画化した作品で、こちらの映像も美しいことで有名。アスター監督は特に『黒水仙』を『ミッドサマー』のカラリストに見せ、同じような美しさを再現できないか追求したという。
映画『地球を守れ!』(2003)
『地球を守れ!』は、地球がエイリアンに侵略されていると思い込む青年と、エイリアンに間違えられた会社社長の戦いを描く衝撃の韓国映画。韓国映画好きであることも公言しているアスター監督は、影響を受けた韓国映画の一つとして本作をピックアップ。特に、登場人物の狂気的で突飛な行動にはかなり刺激をうけたよう。ちなみに、パク・チャヌクの映画『親切なクムジャさん』にも影響を受けていると語っている。
自らを「シネフィル(重度の映画オタク)」だと言うアスター監督。そんな彼のピックアップする映画を見て、『ミッドサマー』を再び鑑賞してみては。(フロントロウ編集部)