性別や人種によってユーザーを限定しないコスメブランドが増えるなど、ビューティ業界でも多様化が進むなか、海外では障がいを持つ人も使いやすい「アダプティブ・ビューティ」というカテゴリーが注目。アダプティブ・ビューティとはどんなものなのか、詳しくご紹介。(フロントロウ編集部)

海外で進む「アダプティブ・ビューティ」とは?

 ここ最近海外で話題の「アダプティブ・ビューティ」とは、障がいを持つ人を含むすべての人に適応した美容製品や美容に関する体験のこと。障がい者も取り入れやすいファッション「アダプティブ・ファッション」から派生した言葉であるアダプティブ・ビューティのカテゴリーは、近年大手の美容企業を含む業界全体で拡大が求められている。

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 国連の統計によると、世界の人口の15%にあたる約10億人もの人が身体的、精神的もしくは感覚的な障がいがあるとされているけれど、美容の製品やサービスでは、障がいを持つユーザーが使いやすいものが極端に少なく、ほかのカテゴリーと比較しても美容カテゴリーは進んでいないのが現状。

 世界最大の一般消費財メーカーP&G(プロクター・アンド・ギャンブル)が2019年に行なった調査では、美容・パーソナルケア製品を展開するブランドのうち、身体障がいに対応する製品を販売しているのはわずか4%だったという。そのほか美容に関する体験でも、障がいを持つ人が通いやすい美容院が少ないことや、オフラインとオンラインの両方における買い物のしにくさなど多くの課題があり、障がいを持つ人が取り残される傾向にあった。

画像2: 海外で進む「アダプティブ・ビューティ」とは?

 そんな状況を打破するべく、障がいを持つ人を含むすべての人にとって使いやすい「アダプティブ・ビューティ」を推進する取り組みが活発化している。具体的にどんな取り組みがあるのか、注目の3つをご紹介。

ユニバーサル/インクルーシブデザイン製品の開発

 海外で徐々に増えてきているのが、障がい者にとっても使いやすいよう設計された「ユニバーサルデザイン」の美容製品。

 ユニバーサルデザインのコスメを専門に扱うブランドGUIDE BEAUTYは、障がいを持つユーザーがコスメを使うときにどんな苦労をしているかを調査したうえで、人間工学の専門家と設計チームが製品を開発。力を入れて握らなくても使えるマスカラや、簡単にまっすぐ線が引けるアイライナー、しっかり手元に固定できて震えにくいアイブロウジェルなどを展開している。

画像: guidebeauty.com

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 また実際に障がいを持つ人もデザインに参加する「インクルーシブデザイン」を推進しようという動きも出てきていて、最近では、ユニリーバが開発している世界初のインクルーシブデザインの「デオドラントスティック」が海外で大きな話題を呼んだ。この製品は、視覚障がいや上肢運動障がいを持つ人を含む多くの人が使いやすいようにと設計されたもので、多様な障がい者コミュニティも開発に参加している。

 ちなみにインクルーシブデザインの開発を進めることは、障がいを持つ人の能力を生かした雇用や活躍の場を確保するためにも重要なことだと考えられていて、ほかの大手企業もユニリーバの動きに続くと予想されている。

点字入りパッケージを増やす

 アダプティブ・ビューティという言葉が生まれる前から一部の製品のパッケージで取り入れられていた点字も、より多くのブランドが活用するべく進めている。

 目が見えない視覚障がい者でも製品を識別できる点字は、ロクシタンやハーバルエッセンス、ビオデルマといったブランドの製品で取り入れられていて、最近ではシンガー兼プロデューサーのファレル・ウィリアムスが立ち上げたスキンケアブランドのヒューマンレース(Humanrace)の製品に点字がついていることも注目を集めた。

 とはいえこの点字も、本格的な開発が必要なわけではないにもかかわらず、まだまだ取り入れているブランドが少ないことが問題視されている。美容ブランドのクリーンロジック(Cleanlogic)は米国盲人協会と提携してすべての製品に点字を取り入れているが、創設者のイザック・シャピーロ氏は点字を取り入れることについて、「点字を入れるデザインに変更することは、それほどコストがかかるものではないと思う」と米Glossyで指摘している。

 シャピーロ氏は、目隠しした状態でのディナーに小売業界の幹部らを招待したり、視覚障がいに関連する非営利団体を支援したりと、業界全体で認識を高めるよう活動している。

ECサイトを誰でも使いやすい設計に

 障がいを持つ人の使いやすさを考えて、ECサイトやブランドサイトのアクセシビリティを向上することも、アダプティブ・ビューティの取り組みのひとつ。障がいを持つ人にとっても使いやすいサイト設計への転換を進めるブランドが、近年増加している。

画像: ECサイトを誰でも使いやすい設計に

 たとえばカルフォルニア発の人気コスメブランドToo Faced(トゥー フェイスド)のサイトは、障がいや疾患によってサイトを使用するのが難しい人をサポートするシステム「eSSENTIAL Accessibility」を導入。手や腕の繊細な動きが困難な人や視覚に障がいを持つ人もサイトが利用できるよう、文字入力やマウス移動などをサポートする。

 またZ世代に人気の美容ブランドであるトピカルズ(Topicals)は、アクセシビリティ用のショートカット機能をサイトに搭載。文字の読み上げをはじめ、画像の説明やフォントを読みやすく変更するなど、10種類以上の機能が用意されている。

画像: mytopicals.com

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 トピカルズの創設者であるオラミデ・オロウェ氏は、「これだけ技術が発展した2021年に、障がい者を含むすべての顧客にサービスを提供できないワケはない」と話した。

 アダプティブ・ビューティの取り組みは進んではいるものの、実際の市場での割合はまだまだ小さく、障がいを持つ人が使いやすい製品やサービスの数はごくわずか。フロリダ州の作業療法士であるコートニー・ドニシは、米Ny timesで次のように話している。「お店に行ったとき、障がい者も使いやすい化粧品を見かけることはめったにない。それを必要とする障がいを持つ人々が、どこでも簡単に見つけられるほど充実させるべきだと思う」。(フロントロウ編集部)

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