「オールド・タウン・ロード(リミックス)」の歴史的ヒットで鮮烈のデビューを果たしてから、音楽業界を大騒ぎさせるバズを次々と起こしているリル・ナズ・X。待望のデビューアルバム『モンテロ』がついに日本発売となった彼が、22歳にして“異端児”や“カリスマ”と呼ばれる理由にフォーカス。

MTV VMA 2021で新星リル・ナズ・Xが大賞!

 ジャスティン・ビーバーやアリアナ・グランデ、テイラー・スウィフト、エド・シーランなどトップアーティストたちがノミネートされていたMTV VMA 2021で、新星であるリル・ナズが大賞の年間最優秀ビデオ賞を含む最多タイ3冠でアワードを制して、その勢いの凄さを証明した。

画像: MTV VMA 2021で新星リル・ナズ・Xが大賞!

 ステージでは、9月17日リリースのデビューアルバム『モンテロ』からのシングル「インダストリー・ベイビー」と「モンテロ(コール・ミー・バイ・ユア・ネーム)」を披露したリル・ナズ。2021年は、ジャスティン・ビーバーの6年ぶりのVMAパフォーマンスや、オリヴィア・ロドリゴの初パフォーマンスなど、話題のパフォーマンスが多かったが、リル・ナズのものがMTV公式のYouTubeで今年最も視聴されたパフォーマンスとなり、ここでも彼の注目度の高さがうかがえた。

 鮮烈のブレイクからわずか2年ほどで先輩たちをも凌ぐ話題性を見せているリル・ナズは、どのようにしてここまでたどり着き、なぜカリスマと呼ばれているのか? フロントロウが解説。


リル・ナズ・Xがカリスマと呼ばれる4つの理由

1. 「売れない」を「全米1位」に変えられるカリスマ

画像: 1. 「売れない」を「全米1位」に変えられるカリスマ

 リル・ナズは22歳にして “カリスマ”と呼ばれている。その理由のひとつは、音楽業界でタブーとされてきたことが、彼がやるとスマッシュヒットへと昇華されるから。

カントリートラップで全米1位

 白人優位なカントリー界での黒人ラッパーの成功は難しいとされていたなか、リル・ナズは2018年にカントリートラップ曲「オールド・タウン・ロード」を発表。当初は、昨今のカントリー・ミュージックの要素を十分に含んでいないという理由でカントリーチャートから除外されたのだが、ウワサを聞きつけたカントリー界の大御所ビリー・レイ・サイラスがサポートを表明。

画像: リル・ナズ・Xのブレイクの立役者となったビリー・レイ・サイラス(左)。ビリーの娘ノア・サイラスをスタイリングしていたHodo Musaがのちにリル・ナズの専属スタイリストになるなど、サイラス家とは縁が深い。

リル・ナズ・Xのブレイクの立役者となったビリー・レイ・サイラス(左)。ビリーの娘ノア・サイラスをスタイリングしていたHodo Musaがのちにリル・ナズの専属スタイリストになるなど、サイラス家とは縁が深い。

 ビリーが参加した「オールド・タウン・ロード(リミックス)」はカントリーチャートをスルーして、なんと全米シングルチャート1位に浮上してそのまま19週連続で首位を独走! “売れない”とされていたジャンルで、マライア・キャリーが保持していた史上最長1位記録を塗り替えるメガヒットを生み出して、グラミー賞2冠にまで輝いた。

Point!
「オールド・タウン・ロード」はアーティストの間でも人気に火がつき、1年弱のあいだに、ディプロ、ヤング・サグとメイソン・ラムジー、BTSのRMらがそれぞれリミックス版をリリース。そのたびに楽曲の話題は再熱し、ロングヒットを後押しした。


同性愛者とカミングアウトして全米1位

 「オールド・タウン・ロード(リミックス)」のメガヒットのさなか、ゲイであることをカミングアウトしたリル・ナズ。“男らしさ”へのこだわりが強い黒人コミュニティやラップ界はとくに同性愛者への風当たりが強く、リル・ナズの家庭内でもその話題はタブー、ラップ界でもカミングアウトはタブーだった。“これで彼は終わり”という批評もあったが、その後、男性とのロマンスの経験がもとになった曲「モンテロ(コール・ミー・バイ・ユア・ネーム)」で再び全米1位に。ここでも、“売れない”という通説を打ち壊した

画像: リル・ナズ・X、英情報番組『BBC Breakfast』で語って

リル・ナズ・X、英情報番組『BBC Breakfast』で語って

Point!
リル・ナズは2021年、LGBTQ+の自殺防止団体トレヴァー・プロジェクトから、「セクシャリティや自殺願望に悩んでいることを率直に話していること、メンタルヘルスの問題について提唱し続けていること、そして自分のクィアアイデンティティを堂々と称賛していること」を理由に自殺防止啓もう賞を授与された。

2. PRのカリスマ! バズを起こす仕掛け屋アーティスト

画像: 2. PRのカリスマ! バズを起こす仕掛け屋アーティスト

 インターネットで育ったというリル・ナズは、レーベル/メディア/アーティスト・プロモーションという従来の成功軸はたどらず、自分でバズを起こしてヒットを作る仕掛け屋アーティスト。

「オールド・タウン・ロード」の始まりはインターネット

 「オールド・タウン・ロード」をリリースした直後からリル・ナズがネットで始めたのが、楽曲をプッシュするミームや書き込みの大量投下。日々これを繰り返しているなか、TikTokで「オールド・タウン・ロード」をBGMにカウボーイに変身するYeehaw Challengeが大流行。それが、「オールド・タウン・ロード」のカントリーチャート入りに貢献。その後は前述のとおり、ビリー・レイ・サイラスとのコラボ曲「オールド・タウン・ロード(リミックス)」の発売&全米1位へと繋がった。

画像: リル・ナズ・Xの公式ツイッターより

リル・ナズ・Xの公式ツイッターより


Nikeに訴えられる→それを宣伝材料にする

 地獄やサタンといった「モンテロ」のMVの演出にちなみ、ソールに一滴の血液が入れられたサタン・シューズ「Nike Air Max 97 Satan Shoes」をMSCHF(ミスチーフ)とのコラボで限定発売したリル・ナズ。しかしNikeがこれを“商標法違反”として提訴して、靴はすべてリコールされることに。約9か月計画したというスニーカーPR作戦は不発に終わったのだが、米CNNやVogueなどメディアがこの騒動を取り上げたことで、結果的に「モンテロ」の話題を押し上げて楽曲の全米1位獲得に貢献した。

画像: リル・ナズ・XのNike Air Max 97 Satan Shoes ©︎ MSCHF

リル・ナズ・XのNike Air Max 97 Satan Shoes ©︎ MSCHF

 そして、当初はナイキの反応に失望していたリル・ナズも、負けが分かるとすぐに話題をネタ化する方にシフト。ツイッターで、「ナイキの訴訟の支払いがあるからみんな『モンテロ』を聴いてくれ」「(※物乞いをするスポンジ・ボブのキャラのGIFをあげて)ナイキの訴訟のあとの僕」などと連投を続け、約3か月後に発売された新曲「インダストリー・ベイビー」のMVは、ナイキの件で刑務所送りになるという設定に。同曲も大きな話題となり、全米2位を獲得した。

リル・ナズのその他のバズ集

  • ナイキのサタン・シューズについての“謝罪ビデオ”をYouTubeにアップ。「俺が表立って言いたかったのは~」と謝罪すると見せかけて、MV映像へと誘導。
画像: © Lil Nas X/YouTube

© Lil Nas X/YouTube

  • ラッパーのT.I.がリル・ナズの名前を出して同性愛差別発言を擁護(※)したとき、「普段、仲間からのネガティブな意見には反応しないんだけど今回は言わずにはいられなかった」と“反応動画”のリンクをツイート。リンクは実際には「インダストリー・ベイビー」のMVだった。
画像1: © Lil Nas X/Twitter

© Lil Nas X/Twitter

  • ゲーム『TWERK HERO』を発表。迫ってくる矢印に向けてお尻を振って(トゥワークして)スコアを稼ぐというゲーム。プレイしながら楽曲にハマってもらう作戦。
画像: © www.monterocallmebyyour.name

© www.monterocallmebyyour.name

  • ダンスポールをつたって地獄に落ちるシーンが登場する「モンテロ」のMVの宣伝のために、ポールダンスをしている動画を投稿すると抽選で1万ドルが当たる#PoleDanceToHell チャレンジをスタート。ポールダンス以外の大量のミームも生まれてバズり、本人も気に入ったコンテンツをリポスト。
画像2: © Lil Nas X/Twitter

© Lil Nas X/Twitter

  • 「今やみんなアニメファンだって? じゃあこれが誰だか言ってごらんよ」と言って、わざと誰でも分かる悟空の画像をツイートして、わざと答えを間違えるバズ企画を発案。ツイートには楽曲の視聴リンクがつけられていた。
画像3: © Lil Nas X/Twitter

© Lil Nas X/Twitter

※ラッパーのダベイビーが同性愛者やHIV/AIDS患者への差別発言をして批判された際に、ラッパーのT.I.がダベイビーを擁護。この時T.I.は、「リル・ナズ・Xの(「モンテロ」の)ビデオが存在していて、彼が自分の真実を生きているならば、ダベイビーのように自分の真実を語る人がいてもいいはずだ」と、自分では変えられない生まれ持ったものであるリル・ナズのセクシャリティと、偏見や無知からくるダベイビーの差別発言を同列に例えた。

3. ふざけてなんていない!作品には深いメッセージがあるカリスマ

画像: 3. ふざけてなんていない!作品には深いメッセージがあるカリスマ

オールド・タウン・ロード/Old Town Road

 依存症の母との親子関係が崩壊し、親友と呼べる友達がいなかった大学在学中にメンタルヘルスに不調をきたし、心を安定させるために音楽制作を始めたリル・ナズ。姉の家の床で寝泊まりしていた彼が作ったのが、成功(=オールド・タウン・ロード)を目指すことをラップしたこの曲。馬やカウボーイハットなどカントリーのキーワードが出てくる曲だが、じつは苦労人であるリル・ナズがどん底の下積み中に夢見ていた希望ある未来が歌われている。米シングルチャート史上最長19週連続1位。グラミー賞2冠。

画像1: “バズ男”リル・ナズ・Xが音楽業界で『カリスマ』と呼ばれる4つの理由

オールド・タウン・ロードに馬を連れて行くんだ
これ以上無理だと思うまで馬を走らせよう
馬を後ろに乗せて 馬のタックを装着
帽子はマットブラック ブーツもブラックで統一
馬に乗って ha
君はポルシェに鞭を打て


モンテロ (コール・ミー・バイ・ユア・ネーム)/Montero(Call Me By Your Name)

 「あなたは本当に隣人を自分自身のように愛していますか、自分の名前で相手を呼べるほどに?」と、“汝の隣人を愛せよ”という教えがありながら同性愛者は糾弾するキリスト教に疑問を投げかけているこの曲は、ゲイであることを隠している男性とのロマンスがもとになった曲。同じ人間なのに同性愛者というだけで“罪”とされる不条理に対するフラストレーションを吹き飛ばすように、MVでは、“罪”を犯して地獄に落ちたリル・ナズが悪魔を誘惑して逆に王座を奪う。差別や偏見を自分のパワーに昇華させたMVは保守派を中心に大炎上したことにも後押しされ、2週間弱で1億再生を突破! チャートでは再び全米1位に。宗教的な家庭で育ち神に異性愛者にしてくださいと祈ったこともあるというリル・ナズは、自身の音楽活動を通して「LGBTQコミュニティの一員であると自覚している子たちに、大丈夫だということ、自分を嫌わなくていいということを知ってほしい」と米Timeに語っている。

画像2: “バズ男”リル・ナズ・Xが音楽業界で『カリスマ』と呼ばれる4つの理由

ボーイ、君は隠れて生きている
俺はフリはできないよ
俺は気にしない 罪を犯すためだけにここにいる
イブが君の庭にいないなら できるって知ってるよね


サン・ゴーズ・ダウン/Sun Goes Down

 自分の唇の厚さや、肌の色、セクシャリティに悩み自殺願望まであったことを吐露したうえで、最後には希望を歌っているエンパワソング。MVの方もハートウォーミングな内容となっており、プロムで他の生徒がパートナーと楽しそうに踊るのを見てトイレでひとり泣く若きリル・ナズを現在のリル・ナズが励まし、やがて若きリル・ナズは笑顔でダンスフロアに戻る。ちなみにMVではリル・ナズの人生初のアルバイト先であるタコベルが登場するのだが、MV公開後にすぐさまTwitterでタコベル公式が反応。そこから話が進み、2021年8月にはタコベルがリル・ナズをチーフ・インパクト・オフィサーという役職に起用した。

画像3: “バズ男”リル・ナズ・Xが音楽業界で『カリスマ』と呼ばれる4つの理由

泣きたい気持ちはわかる
でも過去の失敗や
君を侮辱した人たちのために死ぬより
生きる方がずっと良い


インダストリー・ベイビー/Industry Baby

 名声や成功について歌ったこの曲では、デビューアルバムが全米初登場5位を獲得した新人ラッパーのジャック・ハーロウと共に、自分たちを一発屋とからかい、自分たちのアーティスト性を過小評価する人たちへの皮肉をたっぷり歌っている。MVでは、裁判で実刑判決を受けたリル・ナズが刑務所に送られるのだが、こちらは、ナイキとの訴訟騒動を逆手に取ったもの。MVは1億再生を突破。

画像4: “バズ男”リル・ナズ・Xが音楽業界で『カリスマ』と呼ばれる4つの理由

これはチャンピオンのためのものだ(Ooh, ooh)
始まってから負けたことはない Yeah(Ooh, ooh)
もう終わりだと言っていたのにおかしいな
それなのに俺はまたやってやった Yeah(Ooh, ooh)


ザッツ・ホワット・アイ・ウォント/THATS WHAT I WANT

 リル・ナズが愛を願うこの曲。アルバム発売日に公開されたミュージックビデオでは、ある男性と激しい恋に落ちて幸せいっぱいのリル・ナズが、最終的に男性に妻と子供がいたことを知り、ウェディングドレス姿でマスカラいっぱいの涙を流しながらパフォーマンスをする。ここまで正直にクィアな黒人男性の甘酸っぱいラブストーリーを描いたMVは非常に珍しく、素晴らしいレプリゼンテーション(※同じアイデンティティを持つ人のメディアでの表現)と言える。ちなみにMVの最後に登場する男性は、ゲイであることを公表している男性として史上初めてエミー賞ドラマ部門主演男優賞を受賞したビリー・ポーター。

画像5: “バズ男”リル・ナズ・Xが音楽業界で『カリスマ』と呼ばれる4つの理由

一晩中 寄り添ってくれる男の子が必要
温めてくれて 長く愛してくれて 私の太陽になってくれる
嘘をついて 口論して 喧嘩してもいい
前にもやったことがあるけど 今夜もやろうよ

4. リル・ナズ“だから”できるビジュアルを持つカリスマ

画像1: 4. リル・ナズ“だから”できるビジュアルを持つカリスマ

 ビッグショルダー&クロップト丈のジャケットや、胸元が大きく開いたガウン、クリスタルやビーズで装飾された花柄のスーツなど、一般的に男性が身につけない素材や柄を多く取り入れる、ジェンダーの概念を壊すファッション改革者でもあるリル・ナズ。

画像2: 4. リル・ナズ“だから”できるビジュアルを持つカリスマ

 ファッションを、ステートメント(主張)として使うだけでなく、リル・ナズの美貌をひき立てる装飾としても使っている今のスタイルは、専属スタイリストのHodo Musaの「(今のスタイルは)あなたの真の価値を伝えられていない。だってあなたマジでモデル級だから」という言葉から始まったと、Hodoが米i-Dで明かしている。

画像3: 4. リル・ナズ“だから”できるビジュアルを持つカリスマ

 そんなリル・ナズの衣装を細かくみていると、じつは黒人やクィアの新進気鋭のデザイナーを多く起用している。これはもちろん意図的なことで、リル・ナズは「お高く止まるつもりはない。最もビッグなデザイナーじゃなくていいんだ。新進気鋭の才能や、正当な評価を受けていないアンダーグラウンドの人々と仕事をしたいと考えているよ」と米Varietyに明言。話題を集めるアクションの裏には強い信念があるという、リル・ナズらしさは彼のファッションにも現れている。

 何もやってもバズるアーティスト、リル・ナズ・X。そんなカリスマの待望のデビューアルバム『モンテロ』がついにリリース。2021年必聴のアルバムをぜひ聴いてみて。

<作品情報>

画像6: “バズ男”リル・ナズ・Xが音楽業界で『カリスマ』と呼ばれる4つの理由

リル・ナズ・X
『モンテロ』
発売日:2021年9月17日(金)
https://lnk.to/lilnasx_monteroalbum

<トラックリスト>
1. MONTERO (Call Me By Your Name) | モンテロ(コール・ミー・バイ・ユア・ネーム)
2. DEAD RIGHT NOW | デッド・ライト・ナウ
3. INDUSTRY BABY (feat. Jack Harlow) | インダストリー・ベイビー( feat. ジャック・ハーロウ)
4. THATS WHAT I WANT | ザッツ・ワット・アイ・ウォント
5. THE ART OF REALIZATION | ザ・アート・オブ・リアライゼーション
6. SCOOP (feat. Doja Cat) | スクープ( feat. ドージャ・キャット)
7. ONE OF ME (feat. Elton John) | ワン・オブ・ミー( feat. エルトン・ジョン)
8. LOST IN THE CITADEL | ロスト・イン・ザ・シタデル
9. DOLLA SIGN SLIME (feat. Megan Thee Stallion) | ドラー・サイン・スライム( feat. メーガン・ザ・スタリオン)
10. TALES OF DOMINICA | テイルズ・オブ・ドミニカ
11. SUN GOES DOWN | サン・ゴーズ・ダウン
12. VOID | ヴォイド
13. DONT WANT IT | ドント・ウォント・イット
14. LIFE AFTER SALEM | ライフ・アフター・セイラム
15. AM I DREAMING (feat. Miley Cyrus) | アム・アイ・ドリーミング( feat. マイリー・サイラス)

エグゼクティブ・プロデューサー:Take A Daytrip & Omer Fedi
ライター&プロデューサー:Kanye West, Ryan Tedder, Blake Slatkin, Roy Lenzo, Jasper Harris, Nick Lee, John Cunningham, Jasper Sheff, Isley Juber, Andrew Luce, and Carter Lang

Photos: ゲッティイメージズ、ニュースコム、スプラッシュ/アフロ、Lil Nas X/Twitter

(フロントロウ編集部)

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