セレブも賛同するボディ・ニュートラルとは?
ありのままの自分の体を愛そうという「ボディ・ポジティブ」のムーブメントが加速するなか、新たに海外で注目されているのが、「ボディ・ニュートラル」というムーブメント。
ボディ・ニュートラリティとも呼ばれるボディ・ニュートラルとは、自分のボディイメージに対して無理にポジティブになれなくても問題ないという考えを提唱するムーブメントのこと。前向きに自分の体を愛そうとするボディ・ポジティブとは異なり、自分の体に対してそれぞれが抱くネガティブな感情もポジティブな感情もそのまま受け入れる考え方であるため、中立性を意味するニュートラルという言葉が使われて広まっている。
自分の体に対してポジティブであることを強要しないボディ・ニュートラルは、多くの共感を呼び、ここ最近海外で急速に広まりを見せている。なかでもSNS世代であるZ世代の注目度が高く、2020年5月から2021年5月までの間で「ボディ・ニュートラル」という用語の検索はなんと5倍にまで成長している。
このムーブメントには多くのセレブが賛同していて、なかでも何年も前から積極的にボディ・ニュートラルを広めようと動いているのがドラマ『グッド・プレイス』のジャミーラ・ジャミル。ジャミーラはボディ・ニュートラルの定義について、「あなたは自分の体を愛してもいないし、かといって嫌ってもいない。ただそこに存在しているだけ」と米Glamourで説明。
このジャミーラの発信を支持しているのが、自身も体型批判に悩まされてきた経験を持つシンガーのテイラー・スウィフト。テイラーは、「ジャミーラが広めようとしているボディ・ニュートラルは称賛に値すると思う。全力でサポートしたい」とAppleMusicのインタビューで語り、他人の体を評価したり自分の体がどう見えるかに悩んだりする必要がない世の中になってほしいと明かした。そのほかにも、シンガーのビリー・アイリッシュなどのセレブがボディ・ニュートラルのムーブメントに賛同している。
また、ボディ・ニュートラルには外見に囚われず、自分を生かしてくれる体の働きに目を向けようという意味が込められているのも大きな特徴。体型など体の見た目を愛するという意味合いの強いボディ・ポジティブにくらべて、ボディ・ニュートラルは呼吸や睡眠、運動、食事など体が働くからこそできることにフォーカスし、そのうえで自分の体を受け入れるという考え。
ジャミーラと同じくボディ・ニュートラルを推進するシンガーのリゾは、「見た目についてばかり話すのをやめようと言いたい。今あなたに見えているその体がノーマルだし、それ以外の言葉は必要ないと思う」とThe Cutで発言している。
ボディ・ポジティブとの大きな違い
ボディ・ニュートラルとボディ・ポジティブは、自分の体に対してニュートラルに接するかポジティブに接するかという点で大きく異なるけれど、もうひとつ違うのが、自分の体のどこに着目するかということ。
ボディ・ポジティブは多くの場合、体の外見に着目することが多いけれど、ボディ・ニュートラルが着目するのは、体が持つ働き。自分の体を外見でとらえず、体のおかげでできていることに目を向けて、自分自身の体を受け入れるのがボディ・ニュートラル。例えば自分の脚を見て「美しくて魅力的」と自信を持つのがボディ・ポジティブ、「この脚があるからこそ歩けているんだ」と認めるのがボディ・ニュートラル。
摂食障がいを抱える人に食事指導を行なう栄養士兼セラピストのマリア・ソルバラ・モラは、「健康的な生活を送れることや愛する人を抱きしめられること、美味しい食事を食べられること、速く走れることなど自分の体ができることに目を向けたり感謝したりすることが、ボディ・ニュートラルにつながる」と米Byrdieで説明。
体の機能に目を向けてそこに感謝することで、体型という外見のプレッシャーから本当の意味での解放を目指すムーブメントになっている。
ボディ・ニュートラルが生まれたきっかけ
ボディ・ニュートラルという言葉が生まれたきっかけのひとつが、ボディ・ポジティブが加速するあまり、その認識に極端な偏りが生まれたこと。
元々ボディ・ポジティブという言葉は、どんな体型にもその人にしかない魅力があり、すべての体が尊厳に値するという意味を持つもの。しかし最近では自分の体をポジティブに捉えて常に愛するべきという部分が強調されるようになり、ありのままの自分の体を好きでいないといけないという強迫観念に囚われる人が増加。自分の体を好きではいられないことで罪悪感に苛まれるなど、有害な一面が生まれている。
この有害さは、ここ最近問題視されている「有害なポジティブさ(toxic positivity/トキシック・ポジティビティ)」にも通じるもの。有害なポジティブさとは、どんな状況であろうとポジティブな考え方を維持すべきだという信念のことで、ネガティブな感情は絶対悪と位置づけられ、ポジティブでいることや幸せでいることが強迫的に勧められる状況を指す言葉。
自分の体に自信を持つボディ・ポジティブなマインドに移行することは、現実的に難しい場合もある。そのため、無理にボディ・ポジティブを目標にするのではなく、その手前にある、自分の体を好きでも嫌いでもない状態を指すボディ・ニュートラルに近づけるアプローチは、摂食障がいや身体醜形障がいなどで悩む人にとっても良いと、多くの専門家から推奨されている。
さらに、運動や食事制限をすること自体がボディ・ポジティブに反するという認識や、コンプレックスを隠すこと自体が悪といった偏った認識も生まれ、新たなストレスにさらされる人も。リゾは以前ワークアウトやジュースクレンズをすることに対して、ボディ・ポジティブに反するのではとたくさんの批判の声が届いたことに苦言を呈している。
このように本来は悪いものではないはずのボディ・ポジティブの認識にズレが生じたり、ストレスや誤解が生まれたりしたことで、新たにボディ・ニュートラルのムーブメントが誕生。ボディ・ポジティブとボディ・ニュートラルのどちらが自分に合うかを見極め、その考えを取り入れる人が増えてきている。
ボディ・ニュートラルを実践するには
ボディ・ニュートラルを実践するために大切だと言われているのが、大きく分けて3つの心がけ。
1つ目に大切なのが、自分の体に対する感情を受け入れること。たとえば嫌いな部分がある場合でも、無理に好きになろうとしたりポジティブであろうとしたりせず、その感情を受け入れるだけでOK。そして見た目ではなく、自分の体が持つ働きに注目するのをクセづけていくことも大切。
2つ目は、自分の体が心地よいと感じる選択を心がけること。リフレッシュや自分のメンタルヘルスのためにやりたい運動をしたり、やりたくないときにはやらなかったりする。食べたいものを選んで栄養を取り入れたり、はたまた我慢したくないときには間食を楽しんだりする。そんな自分の体や感情が必要としていることに従って選択することも、ボディ・ニュートラルを実践する方法のひとつだという。
そして3つ目の心がけが、自分の体の働きを維持したり高めたりするためにワークアウトやケアを取り入れること。体型や外見のために辛い運動を取り入れるのではなく、健康的な暮らしを続けるために楽しく運動をするなど、自分を生かしてくれている体をケアするために適度な運動を取り入れることが大切だとされている。
海外で注目を集めるムーブメント、ボディ・ニュートラル。その賛同者でありフィットネスインストラクターのベサニーC.マイヤーズは次のように語っている。「私たちは自分の体をポジティブに捉えられる日もあれば、ネガティブに捉えてしまう日もあるけれどそれで問題ない。どんなときも前向きであるべきという考えに苦しむ必要はないんだから」と。(フロントロウ編集部)