有害なポジティブさ(Toxic Positivity)とは
有害なポジティブさ(toxic positivity/トキシック・ポジティビティ)とは、どんなにつらい状況であろうとポジティブな考え方を維持すべきだという信念。ネガティブな感情は絶対悪と位置づけられ、ポジティブでいることや幸せでいることが強迫的に勧められる状況のこと。
もちろん、ポジティブでいることにはたくさんのプラスがある。ただ、自己否定や自己嫌悪につながるほどのポジティブのゴリ押しは逆に有害だ、というのが最近議論されているポイント。
有害なポジティブさの例
- 人生を揺るがす不幸を経験した人に、「この経験があなたを強くする」「物事はなるべくしてなる」などと言う
- 悩みの相談に対して、「もっと悪くなかっただけ良い」「重く考えすぎ」などと言う
- 悲しい時や落ち込んだ時に、気持ちを切り替えられない自分自身を「弱い」「メンヘラ」などと責めてしまう
- “幸せは自分の気持ち次第”のようなメッセージがSNSでいつも回ってくる
- いつもポジティブに見える人、ネガティブな感情を出さない人を“強い”や“理想”と位置づける
- ステイホームという時間をポジティブに捉えて、自分を高める時間に使うべきだと強く勧める
なぜ今注目されている? コロナ禍でGoogle検索数が急上昇
有害なポジティブさに対する指摘は、以前から存在した。利用者が自分のキラキラした面だけを見せがちなインスタグラムなどで他人のポジティブな姿ばかりが目にとまるなか、ポジティブな人生を送ることにプレッシャーを感じるという意見が少しずつ蓄積していた。しかしそれが本当に爆発したのが2020年。
Google検索では、2020年3月頃をきっかけに“toxic positivity”の検索数が急上昇。2020年3月というと、アメリカ国内で新型コロナウイルスの感染症対策としての本格的なステイホームやソーシャル・ディスタンスが始まった頃。
コロナ禍では世界中の人々の人生が一変し、経済的に苦しくなったり、メンタルヘルスに不調をきたしたりしている人も多い。
明日の生活さえも不安ななかで「どんな状況にも良い面はあるからそれを見るようにして」と言われたり、限界値を超えて働く医療従事者に「この経験があなたをさらに強くする」という言葉がかけられたり、何週間も1人の孤独生活のせいでメンタルヘルスに不調をきたしている時に「この時間を有効的に使いなよ」と諭されたりすることがさらに個人を追い込むとして、そこまでポジティブさを求めることは有害だという考えから、有害なポジティブさに対する怒りが噴出してこのフレーズに注目が集まるようになった。
有害なポジティブさが与える悪影響
「自分の感情について話して。悲しいという気持ちを後ろめたく思わされたり、トキシック・ポジティビティを浴びせられたりしないようにしましょう。もし誰かに話せないなら、そのことについて書いてください」―グラミー賞ノミネートシンガーのSZA、ツイッターにて
繰り返しになるが、ポジティブでいられるならばそうあるのは良いこと。ただ同時に、怒りや悲しみは喜怒哀楽という人間の自然の感情であることも忘れてはならない。
それを全否定すると、自然な感情を抱いただけで人を自己嫌悪に陥らせる、否定されたくない一心で相談をやめて孤立してしまう、子供に感情を押し殺すべきだという間違ったメッセージを発信してしまう、DVのような明らかに悪い状況を悪くないと否定してしまうなど、逆にネガティブな結果を生み出してしまうこともある。
自分や他人が悲しみや怒りを感じているとき、まずはそういった自然な感情の存在を認めて、しっかりと向き合って、うまく消化してから、最終的にポジティブに転じられるならば転じるのがベスト。良かれと思って自分や他人にかけていたポジティブな言葉が、逆にネガティブさを増長させないように気をつけていきたい。
有害なポジティブさを避ける言い方例
こうではなく | こう言ってみては? |
---|---|
そんなネガティブにならないで | こんな状況だし、落ち込んで当然だよ |
とりあえず笑顔でがんばろう | つらいなら泣いてもいいんだよ。それって人間ってことじゃん |
きっとどうにかなるよ | どんなに頑張っても大変なときってあるよね。私は味方だよ |
不幸中の幸いだよ | そんな経験したんだ。きっとすごくつらいと思う |
ハッピーオーラ出して! | 確かにそれだと余裕なくなるね。私にできることある? |
有害なポジティブさを経験したことがある?
(フロントロウ編集部)