10代の女の子の自尊心を傷つける、偏った美しさのイメージ
スマートフォンが急速に普及し、誰もがいつでもどこでもインターネットにアクセスできるようになった現代で、なくてはならないものになりつつあるのがSNS。日本の総務省の調査によると、何らかのSNSを使っている人が人口の約69%にのぼり、13歳~19歳では80%もの人がSNSを利用しているという。
そんななか、先進国を中心に世界中のティーンエイジャーの女の子たちが直面している問題が、SNSや美容広告が植えつけた“偏った美しさ”のイメージによる自尊心の低下。イギリスを拠点にグローバルなデータ収集と分析を行なう専門会社のYouGovが行なった調査では、10代の31%が自分の見た目を恥ずかしいと感じており、その大きな原因としてインターネットの影響が指摘されている。
インターネット上ではダイエットや脱毛、整形など見た目を変えるための広告が頻繁に表示され、SNSではいわゆる“理想の外見”や“理想の体形”とされる人物の画像や、加工を施された画像が多く並んでいる。10代前後の早い段階からスマートフォンに触れる女の子が増えている先進国では、これらの情報を日々目にすることで自分の見た目に対して自信を失うことが多くなり、精神面や身体面への悪影響が深刻化。不安やうつ病、自傷行為、摂食障がい、身体醜形障がい、過度な整形依存、さらには自殺にまでつながる可能性があると問題視されている。
SNSや加工アプリが原因で見た目の自信を喪失
一人一人が持つ美しさや魅力は誰かとくらべて分かるものではないが、いわゆる“理想”の姿が発信されることが多いSNSに触れることで、自分と他の人の見た目を比較して自信を失ってしまうケースが増えている。とくに、自分がどう見えているのかが気になり始める思春期を過ごすティーンエイジャーは、ただでさえ人から認められたい、注目されたいという感情がヒートアップしやすいと言われており、SNSがその気持ちに拍車をかけることで体型や顔といった見た目についての自尊心が大きく傷つく可能性があるという。
実際にSNSがきっかけで自尊心が低下したと自覚しているティーンエイジャーは多く、インスタグラムがアメリカとイギリスの10代のユーザーを対象に行なった調査では、自身の見た目を「魅力的じゃない」と感じると回答した人の40%以上が、インスタグラムを見始めてからそう感じるようになったと回答。その場合、SNSから離れてみることも適切な対処法のひとつだけれど、SNS上でのつながりに固執しやすいティーンエイジャーの女の子にとっては難しい。
また現代のSNSと切っても切れない関係にあるアプリやフィルターなどによる加工も、加工後の姿だけが理想の姿なのだという考えを抱きやすく、自尊心を低下させる一因に。
この加工のカルチャーは想像以上に幼い世代にまで浸透していて、世界最大のPR会社エデルマンの調査部門であるEdelmanData&Intelligenceが2020年に行なった10代の女の子を対象にした調査では、13歳になるまでにフィルター加工を使ったり、加工で自分の体や顔の一部を変えたりしたことがあると回答した人が80%を超えた。また依存度の高さも問題で、77%の女の子が自分の写真をSNSに投稿する前に、日常的に加工によって身体の特徴を変更または非表示にしていると回答している。
そしてSNSやフィルター加工によって起こる自尊心の低下は、最悪の場合取り返しのつかない悲劇を生んでしまう。子供や若者のメンタルヘルスをサポートする慈善団体Young Mindsの最高経営責任者であるエマ・トーマスは、「イギリスではここ10年で、ティーンエイジャーのとくに女の子の自殺が急増している。この結果は、SNSを見続けることによる偏ったボディイメージも大きく関係していると思う」と英The guardianで話した。
美容広告が過度なダイエットを助長
10代の女の子の自尊心を低下させるもう1つの要因が、インターネットで目にする美容広告。毎日当たり前のように目にしている美容広告だけれど、その数はじつは膨大で、10代の女の子がインターネットから受ける悪影響を調査しワークショップなどを行なう非営利団体のAbout faceが行なった調査では、10代の女の子が1日のうちに目にする美容広告の数は、なんと400~600にものぼるというデータが出ている。
そんな美容広告の中でも問題なのが“コンプレックス広告”と呼ばれるもの。
“コンプレックス広告”とは、スリムであることや毛がないこと、胸が大きいこと、目が大きいことなど限りなく狭い美の基準だけを理想と掲げていて、これに当てはまらない人のコンプレックスを煽るような内容の広告のこと。そして、とくに10代の女の子が影響を受けやすいのが、ダイエットに関するコンプレックス広告。
その影響力の大きさはすさまじく、10代の女の子を対象に行なった調査では、69%もの人が美容広告で完璧な体型を目にした影響で自分もダイエットをするべきだと感じたことがあると回答。回答者の約7割にものぼる女の子が、広告がきっかけで自分の体型に対する自信を失ったという結果に。
さらに実際に行動に移す割合も高く、英慈善団体のGirlguidingが行なった調査では、61%の女の子がインターネット広告を見たことがきっかけでダイエットを始めたことが分かっている。
女の子にとって10代は、大人の体になるためにホルモンの変動が大きい時期。それゆえに体型が変動することは当たり前であり、危険なダイエットをすることで将来の健康リスクが高まることにもつながるため、過度にコンプレックスを助長するような広告を問題視する声が高まってきている。
海外で広がりを見せている「対抗策」
SNSや加工アプリ、美容広告の影響で多くの女の子の自尊心が傷つけられてしまっている今、そんな流れに対抗しようという動きも出てきている。
美容ブランドであるDoveが行なっているのは、女の子の自己肯定感を高めるためのプログラム。「セルフエスティームプロジェクト」と名付けられたこのプログラムでは、子供や若い人の外見への自信のなさや容姿への不安を払拭するための正しい知識や情報を発信。サイトでは、SNSをはじめとしたインターネットによる悪影響についての情報や対処法がかなり多く掲載されていて、保護者向けや教師向けなど複数のプログラムに分かれている。
またSNSに投稿する画像の加工や修正処理については、国によっては法整備も進んでいる。ノルウェー政府の児童・家族省では今年6月、肌を補正したり、ウエストを細くしたりといった加工を施した広告主やインフルエンサーに対して、その旨を記載することを義務化。この法律では、一般ユーザーのアプリ加工などはもちろん問題がないとされているけれど、金銭が発生する投稿で記載なく加工などを施した場合は、罰金や懲役が科せられる可能性があるという。そして同様の規制がイギリスやフランスでも進められている。
ダイエット広告に関する動きでは、10代から大人気のプラットフォームであるピンタレスト(Pinterest)の対応が国内外で大きな話題となった。ピンタレストの対応とは、すべての広告で減量を謳う文言と画像を禁止にしたこと。同社は以前から減量を約束するサプリメントなどの広告を禁止していたのだけれど、今年の7月から全米摂食障害協会(NEDA)の指導と助言の下で策定された新たな広告ポリシーに改訂。
減量に関する文言や画像、特定の体型を理想化または否定するような文言や画像を使った広告などを全面的に禁止に。主要プラットフォームの中で、あらゆるダイエット広告を禁じる唯一の企業となった。
そしてこの広告ポリシーは、日本のピンタレストでも今後取り入れられる予定。ピンタレスト・ジャパンの広報担当者によると、日本で来年の前半から広告掲載がスタートする際に、海外と同様に減量を謳う広告の掲載を禁止する予定だという。
ティーンエイジャーを苦しめる、SNSや美容広告による美しさのイメージ。ディードリッヒ博士は、10代の女の子と接する大人たちに向けて次のようなメッセージを送っている。「若者が消費しているコンテンツをしっかりと注視して、彼らが正しいメディアとの接し方を身につけるためのサポートに力を注いで欲しい」。(フロントロウ編集部)