『エターナルズ』制作陣が得たインスピレーション
MCUフェーズ4の作品であり、新たなスーパーヒーローたちが登場した映画『エターナルズ』。オスカー監督であるクロエ・ジャオが手掛けた作品は、“スーパーヒーローもの”というジャンルにおいて、そのストーリーやキャラクターたちの描かれ方などから異色の作品となっている。
そんな『エターナルズ』の脚本家であるカズ・フィルポは、日本人の母とアメリカ人の父を持つ。さらにジャオ監督も日本の漫画が大好きだと公言しており、そんなこともあってか、チームが『エターナルズ』の構想を広げている時には、たびたび名前が挙がる日本の作品があったという。
それが、スタジオジブリによる映画『千と千尋の神隠し』と、ゲーム「ファイナルファンタジーVII」。
グレーな部分を描くこと、グレーな部分で描くこと
カズが米Polygonのインタビューで話したところによると、宮崎駿監督の映画作品や「ファイナルファンタジーVII」は、「グレーな部分」で感情と倫理の複雑さを描いていると感じているという。
彼は『エターナルズ』について、「“人間性”というものについて、そして、“私たちは、この惑星と生命を与えられるに値するものなのか?”という疑問について描いたもの。そして、永遠を生きる不死の宇宙の神も、その問題に向き合う」と説明しており、その意思は、劇中で広島への原爆投下が描かれたことからも伝わってくる。
『エターナルズ』で物議をかもした広島への原爆投下シーン
広島への原爆投下のシーンは、本作においては現実に起こった歴史的出来事を深堀りすることはできず、短く描くだけになってしまったことや、人類の技術開発を後押しし、原爆投下に涙を流したのが黒人でありゲイのキャラクターであるファストスだったことなどがあり、様々な視点から批判もあった。
ファストスはブライアン・タイリー・ヘンリーが演じた。
そして制作過程においては、「これは人々を分断する」といった声があがり、脚本から取り除くよう働きかけられていたという。
しかし、日本にもアメリカにもルーツを持ち、10代の頃には学校で原爆投下についてディスカッションをする授業を経験したカズは、完成版の『エターナルズ』まであのシーンをキープしたことについて、こう語る。
「あの描写はすべての脚本の下書きに書かれていたんだ。私たちはあれを本当に誇りに思っている。私は日本とのハーフで、家族は非常にアメリカ的だけど、祖父母の祖父母は日本からやってきた。そしてそれ(日本への原爆投下)は、世界的に大きな出来事でしょう。アメリカの学校で勉強すること。
私たちはベイエリアで育ったんだけど、カリフォルニア州の公立学校では、ある非常に明確な考えに取り組まなければならなかった。これは本当に授業で教えられるのだが、クラスの半分は『原爆投下を擁護しなくてはいけない』と言われ、(もう半分は)原爆投下がなぜ悪いことだったかを言わなくてはいけない。これは、戦争におけるグレーな部分で、倫理観の複雑さについて大きな会話をするのにとても役立つ」
カズは米Inverseのインタビューでは、広島のシーンについて、「これはクロエが映画に含めるために、すごく闘ってくれたこと」と、ジャオ監督への敬意も示した。また、カズのいとこであり、彼やジャオ監督とともに『エターナルズ』の脚本を担当したライアン・フィルポは、米Inverseにこうコメントしている。
「この映画は現代が舞台のストーリーラインになっているけど、過去のフラッシュバックは、家族としてのエターナルズの進化と崩壊について。(人類にとっての)最大の失態の瞬間を選びたかった。不死の宇宙の神たちが、『人類は行き過ぎた。人類を助けることはできない』と言うような究極の限界点を探していた。そこが私たちの方向性だった。あれ(原爆投下)は、人類にとって重要な劇的変化だった。エターナルズの視点では、あれが、人類はエターナルズの助けやコントロールが及ばないところへ行ってしまったと感じた時だった」
(フロントロウ編集部)