子供に見せたい知育番組としてアメリカで必ず名前があがる『セサミストリート』。フロントロウ編集部では、セサミストリートジャパンの吉田麻鈴氏に話を聞きながら、『セサミストリート』を子供に見せたい理由を解説する。

ホールチャイルド・アプローチで「頭も心も」豊かな子供に

画像: ホールチャイルド・アプローチで「頭も心も」豊かな子供に

 「遊びながら学ぶ」知育番組として1969年に全米放送を開始した『セサミストリート』。2010年からは早々とSTEAM教育を取り入れ、就学前に見ていた子供は小学校でのパフォーマンスが向上したという研究結果が出たこともあるほど良質なカリキュラムを誇る『セサミストリート』だが、親に支持される本当の理由はホールチャイルド・アプローチにある。

 ホールチャイルド・アプローチとは、頭(学力)だけでなく心(精神性・社会性)や身体(健康)も総合的に育てようという教育アプローチ。アルファベットの学習や問題解決・想像力の育成といった知力を伸ばすコンテンツに加え、社会に存在する多様性を知る機会や、メンタルヘルスを整えるコツを学ぶ機会などを会話や遊びを通して提供して、総合的に豊かな子供の成長を支えている。

 ちなみに、そんな『セサミストリート』を制作しているのは、非営利団体のセサミワークショップ。非営利団体のため、営利目的でのグッズ販売やキャンペーンなどは番組制作をはじめとする教育的な非営利活動を支えるために行なわれている。

「1人じゃない」「みんな違う」キャラを通して発するメッセージ

画像: 「1人じゃない」「みんな違う」キャラを通して発するメッセージ

 『セサミストリート』はエルモやクッキーモンスターなどのカラフルなキャラクターたちで有名だが、140種類以上のキャラクターたちが登場する。彼らの最大の特徴は、見た目や性格が異なるだけでなく、それぞれが異なる事情や特性を抱えていること。子供たちは自分と同じ境遇にいるキャラクターを見つけて自分は1人じゃないということを知り、逆に見知らぬ境遇のキャラクターの話を通して自分とは違う人がいるということを知る。そこから、自己肯定感と共感力を得るのだ。例えば『セサミストリート』には、以下のようなキャラクターがいる。

セサミストリート、キャラクター、多様性、インクルージョン

 「キャラクターたちが学んだり、他者と関わったりする姿、また、いつもハッピーな時ばかりではなく悩んで問題に直面している姿など、ありのままの姿を見せることが子供たちの共感力や想像力を育み、それが実生活での生きる力になります」とセサミストリートジャパンの吉田麻鈴氏は話す。

 さらに、キャラクターたちが問題解決する姿を見せることには、子供たちの選択肢を広げるという効果もある。吉田氏は、「色々な人が色々な問題に、色々な解決法で取り組んでいる姿を見ることで、自分が問題に直面したときの解決方法の選択肢も広がると思っています。選択肢が多くあるということは、問題が起きても何かできるとか、何か手を打つことができるという安心感に繋がります。恐怖や不安が少なくなり、解決の第一歩が踏みやすくなると思います」と説明する。

安心して見せられる理由、「エビデンス」と「リサーチ」に基づいた番組づくり

画像: 自閉症の特性があるジュリア(左下)は、同じ特性と共に生きる家族に1人ではないというメッセージを発信し、自閉症に関する正しい知識を広げるという役割を果たしている。ジュリアの登場までに約10年の研究や分析を要したという。

自閉症の特性があるジュリア(左下)は、同じ特性と共に生きる家族に1人ではないというメッセージを発信し、自閉症に関する正しい知識を広げるという役割を果たしている。ジュリアの登場までに約10年の研究や分析を要したという。

 今与えた教育が結果的に子供にどう影響するかは、親にとっては永遠の悩み。その点『セサミストリート』は、専門家の助言やテスト試写といったエビデンスをもとに放送・配信されているから安心。その徹底したこだわりは、吉田氏が明かす制作プロセスを聞いてもらえば分かる。

「制作する前の段階でカリキュラムセミナーというものを行います。これは、教育者やその分野の専門家、プロデューサーや脚本などのクリエイターたちが集まって、取り組むテーマの現状は何か、どこにニーズがあるのか、研究結果からどういうアプローチをして何を伝えるべきなのかといったことを議論するセッションです。このカリキュラムセミナーを経て、ようやく番組制作に入ります。そして社内にあるリサーチルームで、制作したものを子供たちに見てもらい、子供たちがどこで笑ったか、どこで目線が外れて集中力が途切れたか、見終わった後に何を学んだか、どんな印象を受けたかなどを調査して、調整が必要なところは改善して放送する、というプロセスで番組作りをしています」

 ここまでのこだわりがあるだけに、テーマによっては「1年から2年くらいかかるときもあります。自閉症のものは10年ほどかかっています」と吉田氏は話す。

 子供に安心して見せられる確証を得てから放送・配信するという『セサミストリート』のこだわりを物語る、ある有名なできごとがある。それは1990年代に、アメリカでの離婚率の高さを受けて“離婚”について説明するエピソードを制作したとき。クリエイターのキモ入りの企画だったのだが、テスト試写会では、“親が喧嘩したら離婚する”といった、制作者が意図しない受け取り方を多くされたことが判明。この結果を受けて、『セサミストリート』ではその企画を丸ごと中止に。制作費や大人側の計画に関係なくコンテンツはお蔵入りとなり、子供を第一に考えた判断ができる『セサミストリート』らしいエピソードとして当時大きく話題になった。ちなみに『セサミストリート』では、研究を重ねて2010年代に離婚についてのエピソードを初放送。今では『セサミストリート』には、親が離婚したキャラクターが複数登場する。

子供を子供扱いしない子供番組、それが『セサミストリート』

画像: 日本では欧米に比べてお金の教育が遅れていると言われているが、『セサミストリート』では貯金や資金計画などお金についてもわかりやすく教えている。

日本では欧米に比べてお金の教育が遅れていると言われているが、『セサミストリート』では貯金や資金計画などお金についてもわかりやすく教えている。

 『セサミストリート』では、人の死、お金の管理、人種問題、離婚、HIV、依存症、投獄など、難しいテーマも子供たちに教えている。どう伝えていいか迷う難解なテーマだが、何かを伝えるにあたり、“子供を子供扱いしない”、“子供の目線で物事を考える”という理念をバックボーンにしているという。難しい話だからまだ知らなくていいではなく、社会の一員である彼らにどうすれば適切に伝わるかを大人が真剣に考えるという姿勢が『セサミストリート』の違いを生み出している。

 番組内ではさらに、黒人人権運動ブラック・ライヴズ・マターなど、アメリカ発の時事問題も取り上げている。世界で起きていることを知ること、また、他国の問題や視点を自国の経験に活かすことは、グローバルな思考・視点を持つ人間になるために大事。セサミストリートジャパンでは、そんなテーマを日本の子供たちに分かりやすく伝えるための工夫も多くしているという。

 「アメリカのものをそのまま日本に持ってくるのではなく、きちんと日本で伝わる表現や子供たちに響く言葉を選んでコンテンツを制作しています」と語る吉田氏。そしてそのこだわりは、英訳にも表れている。大量の映像作品が作られている現代は、誤訳や偏見・誤解につながる訳のミスがたびたび問題になる。しかし『セサミストリート』では翻訳者に全てを任せるのではなく、「例えば『Ordinary』という言葉を、そのまま『普通』とは訳さず、その場面や文脈に最も適切な言葉を選ぶなど、ステレオタイプがないよう細かくチェックしています」という。

 ちなみに社会問題には国特有のものがあるが、セサミストリートジャパンでは日本独自のイニシアティブの立ち上げを考えているそうなので、こちらは楽しみにしたい。当然、こちらもニーズやデータをもとに制作される。

 「地方に住む子供たちや日本に住む外国籍の子供たち、教育が届きにくい場所にいる子供たちに向けた取り組みをはじめ、子供たちのメンタルヘルスに寄り添った活動などを考えています。今、日本のニーズをリサーチしているところです。ニーズに沿ったイニシアティブを立ち上げていきたいと思っています」。

今後、多様性とインクルージョン教育がより大事になっていく

画像: 今後、多様性とインクルージョン教育がより大事になっていく

 最後に、セサミストリートジャパンの吉田氏は、今後の日本における活動目標についてこう話した。

「子供たちは私たち大人が想像しえない未来に向かって生きています。例えばこのコロナ禍もそうです。誰も予想していなかったもので、働き方や生活のあり方が大きく変わりました。この先にも、私たちが全く想像しえない状況がたくさん起きると思います。そして子供たちはそれを自身で乗り越えていかなくてはいけない。そのために今私たちは、子供たちがさまざまな問題を乗り越えるための知識や術を身につけていくことをサポートしなくてはいけないと考えています。ではなぜ多様性とインクルージョンが大事なのかといいますと、やはり人は1人では生きていけませんし、誰かと協力していくことで問題を乗り越えることができたり、働くことや生きる喜びを感じたりすることができます。周囲との関わり方を学び、自分の人生を豊かにするために、多様性とインクルージョンが大事です。色々な人がいることや、他者と違ってもいい、違いを活かすことでお互いがお互いの人生を豊かにすることができるということを伝えていきたいと思っています。そしてセサミストリートのように、世界には色々な人がいて色々なコミュニティがあるということを知ってもらい、どこかに自分を理解してくれる人がいること、心のよりどころになるような物や人がいること、そしてありのままの自分はすごく素晴らしんだと、そんなことを考えてもらえる番組制作や活動を続けていきたいと考えています」

 『セサミストリート』のコンテンツはU-NEXTで独占配信中。また、セサミストリートジャパンでは番組制作を超えた活動も多数行なっている。さらなる詳細は、セサミストリートジャパン公式ページ(www.sesamestreetjapan.org/)を確認して。

ドキュメンタリー番組が22年1月にU-NEXTで配信!

セサミワークショップがどのように子供たちの実情や問題点を理解しているかのプロセスが見られるドキュメンタリー番組『Through Our Eyes 小さな瞳に映る世界』が、2022年1月27日(木)0時からU-NEXTで日本初配信。吉田氏は、「ドキュメンタリーを見ると、表現の方法や言葉は違うものの、子供たちが考えていることは大人とそう変わらないこともあるし、逆にもっと俯瞰して考えていることもあるんだなということを理解していただけると思います」と語る。

※配信日を追加更新しました。

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(フロントロウ編集部)

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