『マトリックス レザレクションズ』のラナ・ウォシャウスキー監督によるオフィシャルインタビューをフロントロウ編集部にて独占公開!(フロントロウ編集部)

マトリックスが「復活」

 現実と仮想現実。“2つの現実”が交錯する世界が観客に問いかける。自分が“信じる”現実ははたして本物なのか…。

 20年前に世界を混乱させ、そして熱狂させた“マトリックス”が、2021年にふたたび人々を襲う。『マトリックス』シリーズ最新作『マトリックス レザレクションズ』が劇場公開中。

 3部作を手掛けたラナ・ウォシャウスキー監督は、なぜ今、マトリックスを復活(レザレクションズ)させたのか。インタビューで構想のきっかけ、制作への思いを明かした。


『マトリックス』シリーズの復活

画像: 『マトリックス』シリーズの復活

 私の場合、創作のスタートラインは胸の内にあります。構想を練るのは頭ですが、方向性を決めるのは心、自分の心を人の心に届けたいという情熱です。その情熱はキャリアを重ねるにつれて、どんどん強くなってきました。映像作家として『クラウド・アトラス』は大きな転機になり、続くNetflixオリジナルシリーズ『Sense8 センス8』は、おそらくいちばん私的な作品になったと思います。

 制作に心血を注いでいただけに、撮影が終わると同時に燃え尽きてしまいました。妹のリリーも新作を手がける気持ちになれないと言っていましたから、しばらく活動を休止することにしたんです。その後、両親が体調を崩したので、パートナーを連れてシカゴの実家に戻りました。数か月間、二人の介護に明け暮れましたよ。

 あまりの悲しみで眠れない夜、ふとネオとトリニティーが想像の中で生き返るというアイディアを思いついたんです。『Sense8 センス8』は私自身を描いたものでしたが、『マトリックス』シリーズにも個人的な思いを反映させています。三部作では真の愛や葛藤など、若い頃に思い悩んだテーマを描きました。今回は、当時の自分の想いを込めてみたかったんです。


キアヌ・リーブスとキャリー=アン・モス

画像: キアヌ・リーブスとキャリー=アン・モス

 キアヌとキャリーの演技は相変わらず見応えがあります。今回の設定を考えると、二人とも年齢的にちょうどいい。おかげで作品自体を絶好のタイミングで撮影できました。特にキアヌの実年齢はパーフェクトです。今よりも年をとっていたら役の設定上、無理があったかもしれないし、今よりも若かったら、役の厚みや説得力が出なかったでしょう。

 キアヌのセリフに「今まで自分がしてきたことに意味があるとは思えない」というような一節があるのですが、それは誰もが感じたり、逡巡したりすることだと思います。さらに年齢を重ねると、今度は“なにが現実なのか”という疑問に突き当たり、大切なことが見えてくる。ネオとトリニティーがそんな疑問を感じるようになったのも、年齢を重ねてこそでしょう。


スタッフの選任

画像: スタッフの選任

 悲しい出来事をきっかけとして現場に戻ることを決めましたから、気心知れたスタッフに支えてほしいと思いました。まっさきに連絡をとった一人が(製作の)ジェイムズ・マクティーグ。快く引き受けてくれたので本当に感謝しています。『マトリックス』シリーズは私にとっても、ジェイムズにとっても転機になり、いい勉強になりましたから、前向きになれたんです。今回のスタッフは超がつくほど優秀ですよ。この作品は、脚本のデイビッド・ミッチェルがいみじくも言ったように「シリーズの4作目ではなく、シリーズの集大成」なんです。


映像作家としての進歩

画像: 映像作家としての進歩

 公私ともに成長したあかつきとして不確定要素に慣れてきました。慣れてきたというより、好きになりましたね。たとえば、太陽。光源として、これほど不安定なものはありません。まったく動きが読めませんから。光の加減や反射の仕方、被写体への影響も予想がつかない。昔は気まぐれな日光が怖かったんですが、(撮影の)ジョン・トールに出会い、日光を味方につけることを教わりました。日光を味方にしたら、ほかの不確定要素も好きになりましたよ。自然光や俳優のアドリブは予想だにしないエネルギーを生み出します。それは、私にとって最高の醍醐味。

 今回の撮影現場も流動的で、スタッフはつねに一瞬のチャンスを狙っていました。(製作の)ジェイムズもこのスタイルを気に入ってくれたんです。全員がカメラ片手に決定的な瞬間や一瞬の輝きを捉えようとしていました。たとえば、真っ赤な朝日が昇るタイミングを見計らい、ものの20分で台本6ページ分のシーンを撮る。ほぼリアルタイムで、ロング、ミディアム、アップの各ショットを撮り上げるわけです。この作品でも即興性を大切にし、計画どおりに撮影を進めるよりもアドリブならではのパワーを生かしたつもりです。


トム・ティクバとのコラボレーション

画像: トム・ティクバとのコラボレーション

 自分の生きざまを作品に投影し、また自分の作品を人生に活かそうと努めてきました。両者をリンクさせたいんです。こうして気の合う仲間と仕事ができるのも『マトリックス』シリーズのおかげ。ジェイムズ・マクティーグとはオーストラリアで初めて会い、友達になりました。トム・ティクバについては、トムが監督した『ラン・ローラ・ラン』が『マトリックス』と同じ時期に公開されたんです。トムとはお互いの作品について意見交換するのですが、『マトリックス』には大きな影響を受けたと言っていました。だから、『マトリックス レボリューションズ』では作曲家として手を挙げてくれたんです。

 音楽の担当者が見つからずに困っていたら、事情を知ったトムが食事に誘ってくれました。会った瞬間から意気投合しましたよ。今回も、ひとつの作品のもとにみんなが集まり、力を合わせ、個人として、またアーティストとして成長することができました。共に成長できる相手がいることはすばらしい。今回もそんなスタッフたちと、新たなマトリックスの物語を作ることが出来ました。

(フロントロウ編集部)

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