ハリウッドにおけるジェンダーバイアス
フロントロウでこれまでに何度か取り上げたことがあるが、ハリウッドでは以前から男女格差が問題になっており、給料はもちろんのことを、女性キャストや女性スタッフ、女性監督の数、作品における女性の扱いなど、その問題は多岐にわたる。一部で改善に向けた取り組みも行われているが、目標達成にはほど遠い。
例えば、ナオミ・マクドーガル・ジョーンズの著書『The Wrong Kind of Women: Inside Our Revolution to Dismantle the Gods of Hollywood(原題)』によると、2018年の国内興行収入上位100作品のうち、女性が主人公の作品は31%にすぎず、MeToo運動の影響もあって他の年と比べるとこれでもマシな数字だったという。
また、メディアにおけるジェンダー研究所の調査では、映画の場面に登場する女性の数は男性の3分の1で、2015年に公開された映画では、男性キャラクターは女性キャラクターの2倍のスクリーンタイムを獲得していたことがわかっている。これは台詞の量に比例しているそうで、南カリフォルニア大学が2017年に公開された1,000作品の脚本を分析したところ、男性キャラクター4,900人の台詞が37,000行だったのに対し、女性キャラクター2,000人の台詞はわずか15,100行だった。
さらに、監督に起用される女性の数も圧倒的に少なく、南カリフォルニア大学の研究チームが2007年から2016年までの売上上位の劇場公開作品を調べた結果、計1,114人の映画監督のうち、女性は45人しかいなかったことが明らかに。
ハリウッドではそのほかにもタレントエージェンシーの幹部やエージェントの半数以上が“白人男性”であることや、アカデミー賞などの映画賞では女性が主役の作品や女性監督がノミネートされる機会が少ないことも問題視されており、課題が山積みとなっている。
性別による賃金格差も深刻で、映画『ゲティ家の身代金』の撮り直しが行われた際、10日間の撮影で主演のミシェル・ウィリアムズのギャラが10万円弱だったのに対し、助演のマーク・ウォールバーグには約1億6,500万円がのギャラが支払われていたことが明らかになり大問題となった。
その後、イコール・ペイ・デイのイベントに出席し、スピーチを披露したミシェルは、「虚しさから頭がおかしくなりそうでした」と当時の心境を振り返ると、続けて「これが普段から私が耐えている現実です。そしてなにが起こったと思いますか?それを誰も気にしていないんです。この件から、女性の平等の権利は奪えるものだと学びました。女性は、少ない賃金で男性と同じぐらい一生懸命働き、家庭ではさらなる責任を背負っているのです」と、世の多くの女性が直面する社会の現状を訴えた。
とくに賃金格差については数年前から声をあげるセレブが増えており、ミシェル以外にも多くの女性が苦言を呈している。
賃金格差に声をあげた女性セレブ
ジェニファー・ローレンス
ジェニファー・ローレンスは、Netflixの映画『ドント・ルック・アップ』で共演したレオナルド・ディカプリオよりもギャラが約5億円低かったことについて、「レオナルドは自分よりも多くの興行収入をあげているので納得している」としたうえで、ハリウッドには明らかに性別による賃金差別があり、それを主張するのはとても難しいことだと米Vanity Fairに語っている。
「私だけでなく、ほかの女性も経験してきたことだと思いますが、給与の平等性を問うことは極めて難しいことです。不平等であることに関して質問をすると、それは男女の格差ではないと言われますが、具体的にどうしてなのかは教えてもらえません」
エマ・ワトソン
フェミニストを公言するエマ・ワトソンは国連で行なったスピーチで、フェミニストという言葉が悪者扱いされていることや男女間の不平等を解決するのは男女両方の責任であること、そして男女同一賃金であることの重要性を訴えている。
「私は男性と同じ給料をもらうのが正しいと思っています。自分の体のことを自分で決めるのは正しいことだと思います。私の人生に影響を与える政策や決定に、女性が関与することは正しいことだと思います。社会的に私が男性と同じように尊重されるのは正しいことだと思います」
ナタリー・ポートマン
映画『抱きたいカンケイ』でアシュトン・カッチャーと共演したナタリー・ポートマンは、自身のギャラがアシュトンの3分の1であったことを英Marie Claireのインタビューでぶっちゃけている。
「本当はもっと怒るべきなんでしょうけど、そのときはそれほど怒りませんでした。(ほかの職業と比べて)そもそもの給料が高いので文句を言いにくい雰囲気がありますが、この格差は異常です。(中略)ほとんどの職業において、女性の給料は(男性の)1ドルに対して80セントです。ハリウッドでは1ドルに対して30セントです」
メリル・ストリープ
映画界で最も栄誉ある賞と言われるアカデミー賞を3度受賞するなど、ハリウッドを代表する俳優のひとりであるメリル・ストリープは、米Timeのインタビューで男女の賃金格差について声をあげる人たちへの支持を表明。
「実際のところ、男性はそのお金をもらっていることを恥じています。昔はみんな何も言わなかったので、なんとなく大丈夫な雰囲気が漂っていましたが今は違います。共演者と比較して自分がどれだけ稼いでいるのかということについて、少し神経質になっています。(男性という)特権への警戒心です。人はつねに争い、愚痴を言うものです。『それはひどいと思う』とはっきり口にすることは、素晴らしいことだと思います」
エマ・ストーン
米Out Magazineのインタビューで、ハリウッドにおける男女の賃金格差について語ったエマ・ストーンは、過去の男性共演者のなかにその格差を埋めるために進んで協力した人たちがいたことを明かすと同時に、そうしたことの積み重ねが格差をなくすことにつながるとした。
「男性と同等になるように、男性の出演者に減給をお願いすることがありました。彼らはそれが正しいこと、公平なことだと思うからこそ力を貸してくれたんです。ギャラの見積もりが私より高いけれど、対等だと思っている男性の共演者が、私に合わせるために給料を下げれば、今後、私のギャラの見積もりも変わり、人生も変わるでしょう」
賃金格差をなくすべく行動に移すセレブ も
賃金格差をなくすべく、なかには声をあげるだけでなく実際に行動に移すセレブも。たとえば、ジェシカ・チャステインは「男性共演者の4分の1のギャラしかもらえない仕事は引き受け受けない」と決めているそうで、どの作品でも必ず共演俳優のギャラを開示してもらうようにしているという。
また、映画『ヘルプ 〜心がつなぐストーリー〜』で共演したオクタヴィア・スペンサーと、別の作品で再び共演することになった際、女優のなかでも有色人種と白人ではギャラにかなり開きがあることを知ったジェシカは、オクタヴィアのギャラを上げるよう制作側に直談判。ジェシカのはたらきかけもあって、オクタヴィアは元々提示されていた額の5倍のギャラを手にした。
じつはオクタヴィアは、自身が主演を務めるNetflixのオリジナルドラマ『セルフメイドウーマン ~マダム・CJウォーカーの場合』でも、男女不平等な額のギャラを提示されたことがある。このときは、出演交渉の段階でその事実を知った同作品のプロデューサーでNBA選手のレブロン・ジェームズがギャラ交渉に介入してくれたおかげで、平等な賃金を勝ち取ることに成功した。そういった経験から、オクタヴィアはまずは格差を知るためにも、共演者と具体的な出演料の額について話し合うことが必要だと説いている。
最近では、賃金格差の実情を知って自ら行動を起こす男性セレブもいる。マーベル作品でドクター・ストレンジを演じるベネディクト・カンバーバッチは、男女の賃金格差が問題になっているハリウッドの体質を変えるため、今後は“女性と同じ賃金でなければ仕事を引き受けない”と宣言している。
ベネディクトと同じく、マーベルヒーローのブラックパンサー役で知られるチャドウィック・ボーズマンは、自身が主演兼プロデューサーを務めた映画『21ブリッジス』で共演したシエナ・ミラーが出演交渉の際に提示した報酬に到達するよう、自身のギャラの一部を寄付。ちなみに、シエナいわく、チャドウィックは「君は受けるべき報酬を受けるだけ。君にはその価値があるんだから」と言ってくれたが、彼が自分のためにしてくれたことを別の男性の俳優たちに伝えると、みんなバツが悪そうに口をつぐんでしまったという。(フロントロウ編集部)
※記事公開後に一部内容を修正しました。