ジェイダ・ピンケット・スミスの坊主をジョークにしたクリス・ロックは、過去に黒人女性の髪の悩みについてドキュメンタリーを制作していた。(フロントロウ編集部)

クリス・ロック、黒人女性の悩みを知っていた

 第94回アカデミー賞にプレゼンターとして参加したクリス・ロックが、ジェイダ・ピンケット・スミスの坊主をジョークにして、ジェイダの夫であるウィル・スミスビンタされた出来事は世間を騒がせた。ジェイダは長年脱毛症に悩んでおり、坊主にしたのはそういった理由からだった。クリスがこの件について知っていたかは不明。

 そして、クリスが2009年に、黒人女性の髪の悩みについてのドキュメンタリーを制作していたことが話題になっている。映画『Good Hair』は、クリスがプロデューサー、ナレーター、共同脚本を務めたドキュメンタリーで、サンダンス映画祭で特別審査員ドキュメンタリー賞を受賞している。

 物語は、クリスが彼の3歳の娘に、「パパ。なんで私は良い髪の毛じゃないの?」と質問されたことから始まる。そしてクリスは美容室から科学の実験室、お寺などを回り、黒人コミュニティにおいて、髪型が日常生活から恋愛、そして自分の自己肯定感にどのような影響を与えているかを探求する。

暴力で反応すること

 クリスが娘の言葉に耳を傾け、ドキュメンタリーを撮っていたということは、彼は黒人女性が髪にまつわる悩みを抱えていることを知っていたということ。

 一方で、ジェイダの夫であるウィルがジョークに暴力で反応したこともまた、「有害な男らしさ(トキシック・マスキュリニティ)」の一例であると指摘されている。

 コラムニストのアマンダ・パリスは、「脱毛症は多くの黒人女性が経験する苦痛な出来事であり、ジョークにされるべきではない」「黒人女性が守られることはほとんどなく、守られるべき」であるとしたうえで、「“守る人”になるというコンセプトは、有害な男らしさになりえる」と指摘した。

 また、ジャーナリストのAteh Jewelは英Glomourへの記事で、社会は「女性は嘘を言う生き物であり、恐れられる者であると同時に、皮肉にも崇拝され、救助されるべきだと描いてきた」とし、「ジェイダは業界で30年の経験を持つ女優で、立ち上がり、マイクを持って、ロックに静かにしろと言うこともできたはず」だと話した。

 とはいえ、実際にジェイダがあの場で立ち上がって式典を止めた場合、世間の反応は違った可能性がある。ウィルは“妻を守った勇敢な男性”と一部で称賛されているが、ジェイダがあの場で声を挙げたら“空気が読めない女性”、“めんどくさい女性”と捉えられていた可能性は高いだろう。ただ、女性は男性に“守られなければいけない”存在ではないというのは確かだ。

 また、ウィルの行動にコメディアンのキャシー・グリフィンは、このような警戒心を述べている。

 「ステージへあがっていき、コメディアンに身体的暴力をふるうのは非常に悪い実例です。今、私たちは、コメディショーの会場や劇場で、誰が次のウィル・スミスになりたがっているかを心配しなくてはなりません」

 体でも言葉でも、暴力の持つ力は大きい。

人の外見をジョークにすること

 2016年に黒人女性5,594人を対象に行なわれた調査によると、回答者の47.6%が脱毛を経験したと回答。その多くが、専門家に助けを求めることなく、プライベートで悩み続けているという。

 そして米ジョンズ・ホプキンス・メディスンによると、黒人女性は牽引性脱毛症というタイプの脱毛症に悩まされやすく、これは、「熱、化学物質、(一部の三つ編み、ドレッドヘア、エクステンション、編み込みなどの)毛根を引っ張るタイトなスタイルによって引き起こされる」と説明している。

 そしてジェイダは脱毛症を公表した際に、「なぜいつもターバンをかぶっているのか」と質問されてきたことを明かし、のちに、「みんなに質問されないように、自分から言おうと思いました」と、その苦しい心のうちを話していた

画像: 人の外見をジョークにすること

 今回のような授賞式ではコメディアンがセレブをイジるのが恒例行事となっているため、ウィルが激怒したことを過剰反応だと取る意見もある。一方で、人の外見をターゲットにしたジョークはありがちだが、ジョークであれば人をバカにして良いということは絶対にない。

 ウィルはその後、クリスに公式に謝罪。インスタグラムを更新した彼は、「暴力はいかなる形でも有害であり、破壊的です。昨夜のアカデミー賞授賞式での私の振る舞いは、受け入れがたいものであり、許しがたいものでした」と自身の行動を反省し、関係者へ謝罪をしたあと、「私の行動が、せっかくの素晴らしい時間を汚してしまったことを、深く反省しています。私は未熟者です」と述べた。

(フロントロウ編集部)

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