アカデミー賞授賞式でウィル・スミスがコメディアンをビンタ
現地時間3月27日に開催されたアカデミー賞授賞式で、プレゼンターとして登場したコメディアンのクリス・ロックが俳優のウィル・スミスの妻ジェイダ・ピンケット・スミスの坊主頭をジョークにするひと幕があり、そのことに激怒したウィルが、突如、壇上にあがってクリスをビンタするという事件が起きた。それでもなおウィルの怒りは収まらず、Fワードと呼ばれる放送禁止用語を使ってクリスを罵り、アメリカではその瞬間だけ無音で放送された。じつは、ジェイダは脱毛症に悩まされており、それが理由で2021年から坊主頭にしている。例のジョークは台本には書かれておらず完全なアドリブであったことがのちに明らかになっているが、ジェイダが脱毛症であることをクリスが知っていたかどうかは不明。
ちなみに、騒動のあとアカデミー主演男優賞を受賞したウィルは、その際に行なったスピーチでアカデミー賞やほかの候補者に対して自身の行動を詫びていたが、後日、自身のSNSを通じてクリスに謝罪。そこには、「クリスに公式に謝罪したいと思います。私の言動は常識はずれで、間違っていました。自分の行ないを恥じています。(中略)私の行動が、せっかくの素晴らしい時間を汚してしまったことを、深く反省しています。私は未熟者です」という反省の言葉が綴られていた。
アカデミー賞の主催者や関係団体の見解は?
ビンタ事件が起きた直後から、アメリカ国内はもちろんのこと国外のメディアやネット上もウィルの話題で持ちきりになっている。他人の容姿をネタにしたクリスのジョークは“言葉の暴力”にあたるとしてウィルを擁護する声がある一方で、どんな理由があろうと暴力は決して許されるべきではないとしてウィルを非難する声も多く、まさに賛否両論となっている。
当初、アワードを主催する映画芸術科学アカデミーは暴力に強く反対しつつも、今夜の受賞者(※ウィルは主演男優賞を受賞)を「認められるにふさわしい」と祝福し、寛容な姿勢を見せていたが、ひと晩明けて、「アカデミーは、昨夜の授賞式におけるスミス氏の行動を非難します。私たちは、この件に関して正式に調査を開始し、私たちの内規、行動基準、およびカリフォルニア州法に従って、さらなる措置と結果を検討していきます」と改めて声明を発表すると同時に、正式な調査に乗り出すことを明かしている。
全米俳優組合(SAG-AFTRA)も声明を出し、「職場における暴力や身体的虐待は決して適切ではなく、当組合はそのような行為を非難します。昨夜のアカデミー賞授賞式でウィル・スミスとクリス・ロックのあいだにあった出来事は許しがたいものです。私たちは、この件について映画芸術科学アカデミーおよび放送局のABCと連絡を取っており、適切に対処されるよう取り組んでいきます。SAG-AFTRAは、係争中の会員の懲戒手続きについてはコメントを控えています」と憤りをあらわに。
ビンタ事件に反応したセレブや著名人
セレブや著名人の反応はどうだったのか? ウィルの息子ジェイデン・スミスは、授賞式が終わったあと、「これが俺たちのやり方だ」とツイート。直接的な表現はなかったが、自身の母ジェイダの容姿を揶揄したクリスに父ウィルが激怒したことを受けてのリアクションではないかと言われている。
騒動の直後にツイッターを更新したラッパーのニッキー・ミナージュは、「私はクリス・ロックが大好きです。ジェイダが最近話した内容を知っていたら、彼はあのジョークを言わなかったと思います」としたクリスを擁護したうえで、「愛する女性が『ちょっとした冗談』で涙をこらえているのを見たとき、男性の魂に何が起こるのか、あなたはリアルタイムで目撃することができたのです。みんながあの冗談に笑っていたとき、彼は彼女の痛みを感じたんです」とウィルの行動に理解を示した。
活動休止中のワン・ダイレクションのリアム・ペインもウィルを擁護したひとりで、英番組『Good Morning Briatin(原題)』で、「僕は彼が何を感じたとしても、それを実行する権利があると信じています。ただ、1度の戦いで3人の敗者が出たような気もしました。とても悲しいことですが、世界最高の感情表現者のひとりが心から話すのを見るのは、僕にとっては力強い瞬間でした。僕は痛みよりもその状況から美しさを取ることを選びます。でも、正直に言うと、しばらく席を外す必要がありました。(あの出来事に)それぐらい深く傷つきました」とコメント。
暴力反対の意見も多数
一方、映画監督のジャド・アパトーは、ハリウッドのアワードでは司会者がセレブを“イジる”のは恒例行事であることに触れて、現在は削除されたツイートで「彼は(ロックを)殺していたかもしれません。あれは純粋にコントロール不能の怒りと暴力です。この30年間、彼らは100万回のジョークを聞いてきました。ハリウッドやコメディの世界において彼らは初心者ではありません。彼は正気を失っていました」とウィルの行動を非難。
俳優のアーノルド・シュワルツェネッガーの元妻でジャーナリストのマリア・シュライバーは、ウィルが騒動直後の受賞スピーチで「愛と思いやりと気遣いを伝える立場でありたい」などと語ったことに触れ、「全世界で放映されている番組で映画スターが誰かを殴り、その直後に愛について語りながらスタンディングオベーションされる様子を座って見るようなことがあってはなりません」と、自身のツイッターで騒動を批判した。
同様に、テニスプレーヤーのビーナス&セリーナ・ウィリアムズ姉妹の父で、映画『ドリームプラン』でウィルが演じたことでも知られるリチャード・ウィリアムズも、代理人を務める息子が発表した声明のなかで「正当防衛でないかぎり、誰かを殴るのを容認することはできません」と苦言を呈している。
米CNNのアンカー、サラ・シドナーは、同局の番組内で「ウィルに言いたいことがあります。言葉を使ってください。あなたは俳優であり、ラッパーでもあります。どうか拳や手ではなく言葉を使ってください。いたってシンプルなことです」と述べると、続けて「正直に言うと、今この話をしていることを恥ずかしく思います。今この瞬間も大勢の難民が命がけの逃亡を余儀なくされ、ウクライナは爆撃を受けています」と嘆いた。
また、自身のインスタグラムで騒動に言及したドラマ『ヴァンパイア・ダイアリーズ』の俳優ニーナ・ドブレフは、クリスのジョークもウィルの暴力もどちらも“容認できない”ときっぱり。今回の件で最も傷ついたであろうウィルの妻ジェイダを気づかった。
コメディアン仲間はクリスの対応を評価
2017年と2018年に2年連続でアカデミー賞の司会を務めたジミー・キンメルは、自身の冠番組『Jimmy Kimmel Live!(原題)』の冒頭で、クリスが例のジョークを言ったときウィルも笑っていたことについて、「最も奇妙な瞬間でしたね。でも、ジェイダの顔を見て、彼女が(ジョークに)良い印象を抱かなかったことに気づいて、『何かしたほうがいい』と思ったんでしょう。そして、実際に彼は“何か”しました」とチクリ。
ジミーはウィルの行動の良し悪しには言及せず、「クリス・ロックは、アカデミー賞のステージで平手打ちされたときもその後もうまく対処しました。ウィルに平手打ちされてもひるむことはありませんでした。私なら大泣きしていたでしょう」と言って、同じコメディアンとしてビンタを食らったクリスがプレゼンターとしての仕事をまっとうしたことを称えると、続けて「誰も何もしませんでした。誰も腰を上げませんでした。スパイダーマンもいました。アクアマンもいました。キャットウーマンも、みんな手をこまねいていました。誰もクリス・ロックを助けませんでした」と、会場にいたスーパーヒーロー役の俳優たちに触れたジョークを飛ばした。
(フロントロウ編集部)