「ゲイと言ってはいけない法」を巡りフロリダ州を訴えている18歳が、高校の卒業スピーチで裁判やLGBTQ+の権利運動に言及したらマイクを切ると忠告されて全米中の注目を浴びていた騒動。卒業式当日、「ゲイ」と一回も言わずに権力者や法案を痛烈に批判した。(フロントロウ編集部)

「ゲイと言ってはいけない法」裁判の18歳原告

 「ゲイと言ってはいけない法(※正式名称は教育における親の権利法案)」が3月に成立したフロリダ州の高校生ザンダー・モリッツ(Zander Moricz)が、全米注目の卒業スピーチをついに行なって拍手喝采を受ける結果となった。

 「ゲイと言ってはいけない法」は、小学校3年生まで教師が性的指向や性自認について生徒と話すことを禁止する法案。子供が幼い頃から社会における多様性をオープンに話し学べることは非常に重要なこと。とくに学校は子供が1日の大半を過ごす場であり、教師は子供にとって大事な相談相手でもある。この法案はそういった教育やセーフティーネットを幼い子供から奪うもので、とくに、まわりに自分と同じような存在を見る機会が少なく、自分のセクシャリティに疑問を抱きやすいLGBTQ+の子供たちへの悪影響が強いとされている。

 フロリダ州の高校の生徒である18歳のザンダーは、「ゲイと言ってはいけない法」を巡ってフロリダ州を訴えている、最年少の原告。通っている高校で、ゲイであることを公表している初の学級委員長になったザンダーは、5月の卒業式で生徒代表のスピーチを任されていた。しかし卒業式まであと約2週間というところで、ザンダーが「自分は沈黙させられそうになっています。助けを必要としています」というツイートを行ない、アメリカ全土の注目を浴びることとなった。

「数日前、校長が私をオフィスに呼び出し、卒業式のスピーチで私の活動や訴訟の原告としての役割に言及した場合、学校管理者は私のマイクを切り、スピーチを終了し、式典を中止する合図を出すと告げました。

私は学校史上初のゲイであることをオープンにしている学級委員長ですが、この検閲は、私を(ゲイを公表している生徒としては)最後の学級委員長にすることを望んでいるように思えます。学校側が私のクィアとしての権利を脅したのはこれが初めてではありません。

私がSay Gay Walkout(※ゲイと言ってはいけない法案に反対する学生たちによる、授業をボイコットしてデモを行なう活動)を組織していることを知った学校側は、私たちのポスターをすべて壁からはがし、抗議行動を中止するよう私に言いました。もし私が言うことを聞かなければ、学校の警備員を送ると言われました。

けれど私はウォークアウトを開催し、結果、この郡で最大の抗議行動となりました。私は脅しに屈しませんし、沈黙もしません。再び反撃する計画があるのですが、今回はあなたの助けが必要です。

SEEイニシアチブ(※ザンダーがディレクターを務める人権団体)は、Say Gayステッカーを1万枚用意し、フロリダ中の高校3年生に発送する準備をしています。卒業式のガウンに貼って、下級生に『自分たちはもう高校は卒業するが、闘いから卒業したわけではない』という思いを知らせてほしいのです」

 ザンダーのこのツイートは5万回以上リツイートされ、CNNのニュース番組や朝の情報番組『グッド・モーニング・アメリカ』などが騒動を報道。全米の注目を浴びていた。

卒業式の当日、「ゲイ」と言わずにどうスピーチした?

 そして今週の卒業式当日、ザンダーがスピーチを行なった。約7分におよぶスピーチでジョークや感謝の言葉を伝えたザンダーは、スピーチ後半で、「とても公になっている私のアイデンティティについて語る必要があります。このアイデンティティは、私を思うときに最初に頭に浮かぶものだと思います」と発言。そしてこう続けた。

 「みなさんご存じのように…私は…カーリーヘアです」

 固唾をのんで見守っていた観客席からは、あっけに取られたような驚きが一瞬あり、その後笑いと拍手が起きた。そしてザンダーは、こう続けた。

 「私は以前、自分のカールが嫌いでした。朝も夜も恥ずかしくて、自分のこの部分をストレートにしようと必死でした。しかし、自分を直そうとする日々のダメージは、あまりに大きくなってしまったのです」

 お気づきの方もいると思うが、ザンダーは髪の話はしていない。カーリーヘア=ゲイという意味で使っているのだ。この時点でザンダーの意図に気づいた観客席からは「おー」などと小さく声が挙がった。そしてもちろん、「ゲイ」とは言っていないためマイクを切られる心配もない。

 ザンダーはその後、“カーリーヘア”を受け入れて自分らしさをオープンにした状態で学校に通うことにしたと明かすと、まわりにほかに“カーリーヘア”であることを公表している子供がいなかったため先生に相談して助けられた経験や、友達から“カーリーヘア”であることを祝福されたことに助けられ、親に“カーリーヘア”であることをカミングアウトできたという経緯を明かし、学校で教師や友人たちと“カーリーヘア”についてオープンに語れたことがどれだけ自分の助けになったかと説明した。

 「(この学校のような)コミュニティを必要とするカーリーヘアの子どもたちは、これからもたくさん出てくるでしょう。でも彼らには今後、このコミュニティは存在しないのです。代わりに、彼らはフロリダ州の高湿度のなかでも生きていけるように、自分を直そうとするでしょう」

 最後に、「正義と不正は、我々の権威の下に存在するのです」と語ったザンダーは、「今、最も権力を持つ者が最も権力を持たない者に襲い掛かっています」として、自分たち国民の力を行使しようと訴えた。

 卒業後はハーバード大学に進学するというザンダー。スピーチで婉曲(※遠回しの)表現を使った理由について、「マイクを切るという脅しは本物だと分かっていたため、それをさせないつもりでした。ただ、賢くやらなくてはいけなかったのです」と、『グッド・モーニング・アメリカ』にコメント。そして、「しかし、私は(婉曲的表現を)しなくて良い状況にあるべきでした。なぜなら、私は遠回しの存在などではなく、ありのままを祝われるべき存在なのですから」と語った。(フロントロウ編集部)

 

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