ジャスティン・ビーバーが公表したラムゼイハント症候群とは
先日、体調不良を理由に北米ツアーの一部公演の中止(延期)を発表したシンガーのジャスティン・ビーバーが、ラムゼイハント症候群であることをインスタグラムに投稿した動画を通じて公表。その影響で、現在、顔の半分が麻痺していることも明かした。
ジャスティンは動画のなかで、「見てのとおり、こっち(=麻痺している側)の目はまばたきしていない。笑うこともできなし、鼻の穴を動かすこともできない。顔の半分が完全に麻痺しているんだ」と説明していたが、ラムゼイハント症候群とは一体どのような病気で、発症するとどういった症状があらわれるのか?
呼吸器やアレルギーの専門家としてテレビ番組にも出演する医療法人社団南州会三浦メディカルクリニック理事長の井上哲兵氏は、「ラムゼイ・ハント症候群は、ハント症候群やハント麻痺とも呼ばれる疾患です。ハント麻痺はベル麻痺とともに顔面神経麻痺の2大原因のひとつで、全体の約10%を占めます。顔面神経とは顔の筋肉を司どる神経であり、その神経が麻痺すると筋肉の動きが悪くなったり動かなくなったりします。ハント麻痺の原因は、水痘・帯状疱疹ウイルスです。小児で発症した水疱瘡や大人で発症する帯状疱疹の原因ウィルスと同様です。普段は節と言われる神経と神経をつなぐ場所に潜んで大人しくしていますが、体調不良や疲れ、ストレスによって免疫力が低下したときに、この潜んでいたウイルスが暴れ出す事で発症します。顔面神経が傷害されて麻痺が起こればハント麻痺となります」と、フロントロウ編集部に説明する。
発症すると、顔面麻痺のほかに、耳鳴りや難聴、めまい、耳や口の中の水疱形成などを伴うことがあるそうで、井上氏は「(ジャスティンの)動画を見るかぎり、右半分の顔面神経が麻痺に陥っており、右目のまばたきが困難になっているのがわかると思います。典型的なハント麻痺の症状のひとつです」と、ジャスティンの症状について語っている。
回復にはどのくらいの期間がかかる?
現在、ジャスティンはワールドツアーの真っ只中で、11月には来日公演も予定されているが、回復にはどのくらいの期間がかかるのか? 井上氏によると、ハント麻痺はベル麻痺と比較して治癒する可能性が低い。そもそも自然治癒率が30%と低く、初期から十分に治療を行なったとしても治癒率は60%程度にしかならないという。
「適切な治療が早期に行われなければ、ハント麻痺発症後も症状は進行してしまい、7~10日で症状が完成すると言われています。また経過観察中に病的共同運動と言われる口を動かすと眼が閉じるなどの症状や麻痺側の表情筋の拘縮(ひきつれ・こわばり)が目立つようになる後遺症を発症する事があります。病的共同運動がひどいときにはボトックス注射と言われる、ボツリヌス毒素から抽出した成分であるボトックスを注射して治療をします。ハント麻痺は発症後いかに速やかに、いかに十分な治療を行うかで、治癒率や後遺症の出現率が変わってきてしまう疾患なのです。発症から3ヵ月くらいまでは治療と共にリハビリやマッサージをする事で改善していきますが、それ以降は回復のスピードは鈍化する事がわかっています」と、井上氏は話す。
また、ジャスティンが行なっているという顔のエクササイズについて、井上氏は「病的共同運動の発症抑制や症状の軽減および表情筋の拘縮予防のために有効とされる顔面神経麻痺に対するリハビリやマッサージの事を指していると考えられます(強すぎるリハビリやマッサージは筋肉を痛めてしまう可能性もあるため、耳鼻科専門医の適切な指示の元に行うようにしてください)。1年を超えても麻痺が残存する場合は、それ以上の回復はかなり厳しいと考えられます。後遺症の症状が重い場合は形成外科専門医による手術を行う場合があります」と述べている。
歌うことを生業とするジャスティンの場合、心配なのは後遺症だが、ハント症候群の方がベル麻痺よりも麻痺の後遺症の割合が高く、発症後の治療開始が遅くなるほど、顔面神経麻痺の後遺症が残る確率が高くなるそうで、「耳鳴りや難聴の後遺症がでると、今後の活動に影響が出るかもしれません」と井上氏はフロントロウ編集部に語った。
ちなみに、予防としては、最近、CMで目にすることも増えた水痘帯状疱疹ウィルスワクチンが有効だといい、「ワクチンは2種類出ていますので、ご興味がある方はお近くの医療機関でご相談ください」とのこと。
専門家 井上 哲兵氏
医療法人社団南州会三浦メディカルクリニック理事長。呼吸器やアレルギーの専門家として、日本テレビ『世界仰天ニュース』などへのメディア出演もしている。
https://miura-medical.clinic/
(フロントロウ編集部)